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のぼうの城

忍の国

どこがで聞いたことのある作家さんのはずだ。

読後プロフィールを見て、納得。



上巻ラストで、

魔王信長か急転直下現れ、大坂本願寺方は色を失う。


ただ、

あくまで主役は「村上海賊」であり、村上海賊大将村上武吉の娘、「景」(きょう)である。


砦を挟んだ、陸戦を展開した上巻も読み応え抜群であったけれど、

下巻は一転、舞台を海に移し、

海賊同士の『船戦』が展開してゆく。


そして、その圧倒的なスケール...

聞き慣れない言葉であっても、容易に頭の中に思い浮かべることの出来る船戦...


息も尽かせぬ攻防戦に、ページを捲る手にも自ずと力が入る。


五百頁あまりの分厚さにも関わらず、2日あまりであっという間に読み終えることの出来たのは、

まさに面白さと臨場感の極み。



海賊王と渾名される村上海賊

迎え撃つは、泉州眞鍋海賊団


大坂本願寺へ兵糧米10万石という、途方もない兵糧を積んだ兵船は700舟。

難波海に出現した、1千隻あまりの兵船...


船戦は大方、舟の数によって大勢が決まるため、泉州の海賊達は驚き慌てる。

その中で泉州海賊を束ねる大将だけは、まんじりともせず、

「攻めてくるなら攻めて来い!」

と決死の覚悟を見せる。


しかし、

1千隻のうち、兵船として動けるのは、わずか300舟しか実は無いのだ。



両者睨み合いが続く。


毛利・村上連合軍は、上杉謙信の旗揚げを待っているのだ。

旗揚げ無くば引き上げる...タイムリミットが刻一刻と近付く中、とうとう謙信旗揚げの報せは来ず。


飢えに貧する大坂本願寺方を見限り、帰路につく村上海賊の面々...


何事も無く、戦は終わろうとしていた...




ところが。


村上海賊の娘「景」が単身動いた...


本人ですら全く気付いていないのだか、

村上海賊で代々伝わる、禁じ手『鬼手』。


鬼手とはいったい何なのか!?


ページを握る指にも力が入る。


そして、

その全貌が明らかになった時、


戦いの火蓋が切って落とされる。



一進一退の攻防

甲板での戦い

巧みな心理戦

もはやどちらに転んでもおかしくない戦況...


そして、また、村上海賊の秘中の秘、秘策が飛び出す。


勝負あり!?


誰しもがそう確信する中、泉州海賊の大将は獅子奮迅の活躍を見せる。


追い詰められる景...



もはやこれまで


何度も諦めかける


戦いの幕は、

壮絶さを極める。


戦いのえげつなさをこれでもかと描く一方で、海賊たちの性根...心意気を、その筆圧で繊細に描いてゆく。


物語なのだが、史実に裏打ちされており、

およそ450年の時を超えて、

大阪湾を舞台に、壮大な海上戦が実際に繰り広げられていたと想うと、胸が熱くなる。




その後、あたしたちは知っている。


信長は本能寺の変でこの世を去り、

秀吉が天下統一を為すも、

関ヶ原の戦いで勝利した徳川家康が、その後二百年あまりの太平の世を築く礎を成す。


歴史の経過をすでに旧知しているあたしたちだけれど、そんな歴史に翻弄されてゆく彼我は、


一瞬の戦いに身を焦がす。


圧巻の上下巻であった。