話題の映画「教皇選挙」を観てきた。結末は衝撃的でここで触れるわけにはいかない(1)。是非ご自身でご覧いただきたい(2)。
映画のメインテーマは実はあまりはっきりしない。信仰と権力の戦いともいえるし、時代の変化への適応か・妥協か・拒否かとの争いともいえそうだ。カトリック信徒にとってはなじみ深いコンクラーベの話だが、宗教映画、宣教映画とは言えない。ストーリーの展開はスリラー的で、映画としても一級の作品のように思えた。2時間余の長作だが一瞬も飽きさせないストーリーン展開だった。
この映画は現在のヴァチカンが時代の変化にどう対応しようとしているのかをコンクラーベを中心に描いているのだが、全体が完全な室内劇にもかかわらず、ストーリーの展開が見事なので飽きさせない。チャンバラやドンパチやクルマとセックスばかりの映画に飽きた方には久しぶりに映画らしい映画を観たという感慨を残してくれるだろう。
カトリック信徒としてはいくつか印象に残ったシーンがある。第一は「亀」が表現するイメージだ。亀が聖書の中で直接的に描かれている場面は思いつかないが、一般的にいえば、少しずつゆっくりと成長・発展するイメージが思い浮かぶ。現在のカトリック教会が、過激な変化でもなく、かといってトリエント時代に戻るのでもなく、ゆっくりと前向きに変化しつつあることを暗示しているのかもしれない。または、亀が亡くなった教皇のペットだというのなら、亀を池に戻すのは教皇の路線が続くという暗示なのかもしれない。
第二の印象は新教皇が選ぶ「イノケンチウス」という教皇名だ。どのイノケンチウス教皇を意味するのかはわからないが、現在の教皇様がフランシスコを教皇名として選んだときと同じような驚きを与える。ヴァチカンの変化をシンボライズしているのかもしれない。それにしてもインターセックスの教皇はあり得ないだろうが、カトリック教会における女性の地位の向上を示そうとしているようだ。
第三は教皇の候補者としてアメリカ、メキシコ、アフリカ、イタリア系の枢機卿(3)らが描かれるがアジア系は登場しなかったと思う。現在の信徒数で見れば、カトリックは南北アメリカとアフリカの宗教だ。ヨーロッパの、白人の世界のものではない。だが、歴史的に見て、黒人の教皇が生まれるのは少し先のことだろう。
第4は、映画の結末とも関係するが、この映画は、現在のカトリック教会が、LGBTQ,移民、環境などの問題にどう対応しようとしているのかを暗示したいようだ。この映画はアメリカのカトリック枢機卿への批判が強いが、アメリカではどう受け入れられるのだろうか。アカデミー賞脚色賞にとどまったのもわからなくも無い。現在のJDバンス副大統領が福音派からカトリックに改宗した(新たに洗礼を受けたのか堅信だけだったのかはわからない)のは35歳の時だったという。
ということで、見てきたばかりで印象が整理できていないが、クリスチャンなら見ないわけにはいかない映画だと思った。
【ローレンス枢機卿】

注
1 この映画はフィクションだろうが、フランシスコ現教皇が原作者や映画監督たちの念頭に置かれているのは間違いないだろう。幸い、映画とは異なって、フランシスコ教皇様は回復なさっているという。原作は数年前のベストセラー小説らしい。
2 キーパーソンはベニテス枢機卿だということが最後に判明する。
3 枢機卿と司教の違いがわからないと、コンクラーベに集まったのがなぜ(この映画では)103人なのかわかりづらい。