今はもう廃業した日本のキュー
メーカーに「石垣」というメー
カーがあった。創業者は石垣一
二氏。
石垣キューは戦後に日本国内で
大いに普及した。
日本国内普及なので四ツ球やス
リークッション等のキャロム用
が圧倒的に多かったがプールキ
ューも作っていた。
JR飯田橋駅横の5階建てビルの
1~4F全階ビリヤード場という
巨大店舗のビリヤード日本とい
う店にあったハウスキューは全
て石垣製だったし、確か高田馬
場のビッグボックスのハウスキ
ューも石垣だったのではと記憶
している。

高田馬場BIG BOX(1987)


「ポケットビリヤード入門」と
いう解説書の見開きページだが、
偶然私が写り込んでいる。

石垣製のプールキューは私もイ
ーグルマークの物と別ブランド
名の物の2本を持っている。
ビンテージものだが、そのうち
1本は最近でも使用する。
極めてスティフにして撞球能力
は高い。品質は良い。
アダム以前には日本には石垣と
いう良いメーカーがあった。
1971年に米国人が日本に「コピ
ー品を作るな」と文句言いに来
日したら、あまりに技術が高い
ので驚いて、日本のその職人町
工場を囲い込んで米国輸出向け
専門のメーカーとしたのが1971
年に創立したアダムだ。
アダムは1986年に日本人に会社
が譲渡されるまでは、ゴルフで
有名なキャロウェイ社の副社長
のリチャード・ヘルムステッタ
ーが経営する米国メーカーだっ
た。生産国日本、という。
1986年以降はアダムジャパンと
して独立し、国内販売もできる
ようになった。
それまでの日本のビリヤードキ
ューは、石垣が席巻していた。

プールキューにおいては米国製
を持ち帰ったりするのが一つの
上級プレーヤーのセオリーにな
っていた。
日系人のTADコハラ氏が作るキ
ューなどは日本で大人気だった
し、現在でも世界中の6割のTAD
キューは日本に存在していると
いわれている。
日本の初期のポケットプロが米
国遠征の時にアメリカで良いキ
ューを見つけて購入して帰国し、
アダム社に「このようなキュー
が作れないか」と相談したら、
それは実はアダム製の製品だっ
たというのは有名な話だ。

日本の国産ビリヤードキューは
戦前から存在していたが、戦後
は石垣が圧倒的に多かった。
その後はアダムだ。
アダーチというメーカーも今は
廃業したが、実に良いキューを
作っていた。私の家にもアダー
チのキューは2本現存している。
しかも、1本のほうのシャフト
は本シャフト・スペアシャフト
ともに突き抜けて性能が良く、
音は澄んだ高音を今でも奏でる。

アダムから三木が独立して創業
した1990年代以降は三木Mezz
が世界展開をして成功を収めて
いる。
日本のアダムと三木は国産キュ
ーの双頭である。
モータースポーツのヘルメット
で例えるならばアライとショウ
エイのような。
そしてアライとショウエイがそ
うであるように、キューメーカ
ーのアダムと三木Mezz(Mezzは
ブランド名)はまさに竜虎として
現在は世界中のプレーヤーから
愛されている。Mezzが国際的に
は優勢か。三木はプロデュース
力が半端ない。

アダムと三木のキューの色とい
うと、アダムはオールドテイス
トを温めつつ新しい物も模索す
る感じだ。
三木のほうはどんどん新たな構
造やシステム、新機軸のキュー
を考案して作っていく社風だ。
三木の品質は実に厳密で近代工
業化されたともすると無機質と
さえ思える程に緻密で精度の高
いキューを作る。
アダムのほうが昔の職人気質の
カスタムキューのようなキュー
作りをする。

そもそもが元々アダムはマスプ
ロメーカーであってもカスタム
ラインを狙った米国内独占販売
のメーカーだった。
そしてアダムの製品は1986年
以降に日本国内で販売される
前までは「アダムカスタム」と
呼ばれていた。米国でカタログ
販売されるような商品で、安く
はない「取り寄せ品」として扱
われていたのがアダムだった。
この頃のアダム(1970年代製)
のキューはかなり品質が良く、
文字通りカスタムラインの製品
と呼べるようなクオリティだっ
た。当時の作は今でも実際に第
一線で十二分に使えるキューだ。
「安かろう、悪かろう」ではな
いキューを日本のアダムは作っ
ていた。

積層タップは日本から発進し全
世界を席巻した。
日本発で世界を牽引した工業製
品はかなり多い。今は無きフロ
ッピーディスクも日本人の発明
であるし、空母さえ、専用航空
母艦としての空母は日本が初め
て実用化した歴史がある。
個人的思いだが、英語のただの
「運搬船」という名称よりも、
日本語の「空母」という造語は
世界一本質を突いていると思う。
まさに「ホーム」であり、出て
行っても帰るべきところなのだ。
よくぞ「空母」という言葉を日
本人は生んだと思う。航空母艦
を略して空母だが、言い得て妙
だ。
本来はアメリカ人が使う英語の
home という単語のニュアンス
を日本人が日本語で再現したの
が空母という単語だ。
home は帰るべき居場所、居所
の事であり、house の事ではな
い。また、空母についてはただ
の運搬船ではない。
そうした思想性が日本の空母と
いう単語には詰まっている。
本来は米国人が好みそうな概念
として。
日本語の単語が米英語の本来の
感覚を深化させたものとして、
比較文化論としても面白いと思
える。

日本人が作るビリヤードキュー
はかなり良質だ。世界レベルで
トップを行く程に。
現在は大陸中華国がCNC機械を
大導入して精密な製品を大量に
安価に作るようになった。
性能としては一切遜色は無い。
だが、なんというか無機質だ。
それは、いくら最新工業化によ
る製品だろうと、モノヅクリの
基本的精神性や思想性の歴史に
規定されるものだろうと思う。
データを入力してコンピュータ
でポンの世界。
中国はこの先もそうした分野で
力を発揮し、ロボットなどは中
国製が世界を支配するだろう。
それは戦闘ロボットとして開発
されて。
無機質の極みが戦闘殺人ロボッ
トだ。中国はプロパガンダでも
殺人用ロボットPRで中国の強さ、
中国の優位性、中国一番を宣伝
しまくっている。
「ロボット三原則」などはくそ
くらえ、を地で行く感じで。

平和産業であるビリヤード用品
においても、中国製製品に無機
質感しか無いのは、そうした統
制独裁国家による心のこもらな
い製品だからだろう。
職人魂の塊のアメリカンカスタ
ムや日本人が作るキューとは存
立発生時点からして生い立ちが
異なる。
中国製キューは性能は確かに良
いだろう。殺人ロボットのよう
に。
だが、そこに人の心は感じ取れ
ない。