
フレディ・スペンサーと片山
敬済選手が乗ったホンダのワ
ークスマシンNS500は、コン
パクトでパンチのある魅力的
なマシンだった。
4ストエンジンにこだわって
グランプリに復帰したホンダ
だったが、当時のレギュレー
ションはエンジン形式に関係
なく同排気量での規定だった
ので、ホンダの4スト500レー
サーは苦戦した。よく壊れた
し。
2ストと4ストについていえば、
物理的に構造が異なるので、
現代であっても、両者同排気
量であったならば、圧倒的に
2ストロークエンジンの車の
ほうが速い。これはもう覆し
ようがない。
ホンダは4スト屋のプライドを
かなぐり捨てて、勝つためだけ
に2ストローク500レーサーを
1982年に投入した。4ストレー
サーNR500の開発も停止した。
実戦投入翌年、初登場2シーズ
ン目でヤマハと激戦の末、シ
ーズンタイトルをホンダNS500
は獲得した。
だが、あまり世間では注目され
ないが、それよりも凄いのは、
NS500が登場初年度の1982年に
片山選手とフレディがそれぞれ
世界グランプリラウンドで優勝
をしている事だ。
これはレースの世界では驚異的。
野球ならプロ引退して10年過ぎ
た選手がリーグに復帰した年に
ホームラン打ったら大気圏超え
て宇宙まで行っちゃいました、
程の驚愕の出来事だった。
何かと1983年のヤマハのケニー
との伝説の一騎打ちばかりが語
られるが、ホンダNS500の凄さ
は登場初年度からグランプリで
優勝してしまう、という事こそ
が信じがたい驚きだった。
速さや安定性等を抜きにして
形だけをいうなら、1982年~
1984年のホンダのワークスマ
シンNS500は極めてカッコい
い。丸みを帯びたカウルも。
この丸い空力カウルは1988年
登場のカワサキの市販車2スト
250のKR-1に丸々採用された。
対するヤマハワークスマシン
は、フロントカウルの左右サ
イドはエッヂの立ったウイン
グのようなハンドガードにな
っていた。
ホンダとヤマハの設計思想の
違いから生じた空力デザイン
の差だろう。
130PS超で車重110kg台。重
さは原付125スクーターより
も軽い。それでリッター換算
260馬力超のパワーを持つ。

世界の中でも立場的ではな
く、選ばれたトップライダー
しか乗って自在に操る事は
できなかった。
誰でも乗れる車ではない。
いくら金持ちでも駄目だ。
できないものはできない。
金があれば何でも可能と思
っている人間は、実は判断
力も運動能力も著しく人並
み以下に低いだろう。
金があれば何でもできると
思っている人間は自問する
がよい。
ならば、自分は100mを9秒
で走れるのか、と。
知能にしろ運動能力にしろ、
飛び抜けて秀でた人間の能
力は金では絶対に買えない。
だからこそスポーツの頂上
決戦は面白い。
超人的能力者同士の対決だ
からだ。
しかも、レースの世界は、そ
うした世界中の超人たちがワ
ンサカいて、世界のトップを
競い合う。己の走行能力で。
これは見応えがある。