夏の終わりに
写真を現像したら
また私の夏が始まった
電車の中に忘れた帽子を
最寄り駅まで迎えに行った
託児所に預けた子供を
迎えにいくような愛おしさだ
滋賀県で自転車を漕いだ
メタセコイア並木というやつだ
ひとり立ち止まって
自分の写真を撮るのは
恥ずかしかったから
「写真、撮りましょうか」
バイクのお兄さんを撮った
「すみません、わたしも」
なんて口実
風を切るのは
いつもなんて気持ちいい
お昼ご飯はもちろん
大好きなカレー
テントの中で降る雨も
丸焦げのマシュマロも
フライパンも
晴れた風穴も
大和川が琵琶湖になればいい
ピントがズレていた
なんて愛おしい わたし
赤い服を着た
わたしがふたり
八月の夜に鳴く蝉も
車で轢いた
カエル、二匹
カバンの中
小さなヤモリ、一匹
電車の中
顔にぶつかってきた蝿、一匹
見切れたわたしの写真
ピントなんてものは
案外どうでもいいのかもしれない
不真面目で
いつも素敵だから
修学旅行で買った
オレンジ色踊るグラスに
それは大きな氷を一つ
リキュールを注いで
カランコロン
横になって目を閉じては
言葉
思い浮かべる
今とても食べたいもの
欲しいもの
会いたい人
したいこと
手に入れたらなくなってしまうのか
この感情
音楽を流し
台所に立ち
梨を一切れずつ剥きながら
一切れずつ食べる
音楽が途切れることも
忘れずに
美味しくて
涙を流す
この瞬間は
夏の終わり


