『海の向こうの二人』。 | 趣味部屋

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~トワツガイ~



シムルグ視点

ある雨の日、世界は変わった。
突如として『黒い海』が生まれ、その禍々しい海から『魔獣』…そして、『災禍の魔女』が現れた。
その異形の存在達は世界の多くの命を奪い去った。
それは…私も同様だった。
生身の少女の何て弱きこと。
リリィを護る為に傘で応戦した。
…あまりにも無力だった。
私の肉体はいとも簡単に裂かれ…私の眼が最後に見たのはリリィの命が奪われる瞬間だった。





では、ここにいる私は何か。
それは…。

「し、シム~!」

職員食堂に少女の甲高い声が響く。
こちらは優雅な朝食の最中だというのに元気なことね。

「朝から煩いわよ、ガルーダ。」
「煩くもなるよ!聞いて、シムルグ!日本のCAGEが襲撃されたんだけど、そこのトリ達が攻め込んできた『魔女』達の親玉を倒したんだって!」
「それは…煩くもなるわね。」
「でしょ!?」

日本のトリ達は優秀で数々の『災禍の魔女』達を撃破してきたのは話に聞いていた。
襲撃されたにも関わらず返り討ちにするとは流石と言えるだろう。

「私達も戦果をあげないとね!」
「戦果、ね…。」

ここはアメリカのとある小さなCAGE支部。
とは言え、現在周辺には黒い柱が一本あるだけでそこまで活発でもないため『魔獣』は殆どいない。
出てこないことも無いので最低限のトリが配置されている。
それが私、シムルグと目の前にいる少女ガルーダの二人。
ガルーダはリリィ…つまり、あの日『魔獣』に命を奪われた私達は二人ともCAGEによって蘇らせてもらったことになる。
ツガイのトリとして。
…残念ながら、私の方は完全にとはいかなかった。
それでも蘇らせてもらった恩もあり、CAGEで働かせてもらっている。
力があるのに脅威を見過ごすわけにもいかなかったからね。
友達も少なからず命を散らした者もいるのだから。
これ以上奪われるわけにもいかない。

「ガルーダのライブ…戦果とは言えずともCAGEの活動の成果だとは思うわ。」

目の前にいる金髪の小柄な少女は世間から見ても美少女と言っても過言では無いと思う。
恋人である私が贔屓目に見ているのは否めないけれども。
彼女は定期的に各地でライブを実施し、『魔獣』に襲われた人々を癒し続けていた。
芸術に疎い私でも彼女の歌と踊りは上手だとは思う。

「今日はライブの日でしょう?準備は順調?」
「まぁね。ヘリで行けば一時間ぐらいで行ける距離だし。あ、シムルグはいつも通り護衛してくれるだけでいいからね。」
「えぇ、実にわかり易い任務で助かるわ。」
「任務?」

むっ、と表情をするガルーダ。

「あら、言葉が悪かったわね。あなたを愛しているからよ、ガルーダ。」
「えへへっ!」

表情が一転し、満面の笑みを浮かべた。
この年齢にしては交際歴が長いだろうからお互いのことは殆ど知り尽くしている。

「おやおや~今日も朝からラブラブだねぇ?」

私達をからかいながら近付いてきたのはモリガンという女性。
この支部の担当科学者だ。
ツガイはいないものの一応トリである。

「ちょ、ちょっと!またそんな格好で出歩いて…!」

ガルーダがモリガンの格好を指摘する。
確かに褒められた格好では無い。
彼女はグラマラスな体型をしているが、そのスタイルを主張するかのように下着の上に白衣を羽織っているだけなのだから。

「さっき起きたばっかでね。昨晩は二人相手だったから。…ま、いいじゃない。どうせ身内しかいないんだし。」

モリガンは女性ではあるものの女好きで、この施設の女性職員も何人か彼女の餌食になっているらしい。
彼女が言う身内とはこの支部特有のものだと思う。
ここは戦闘可能なトリが二人しかいない非常に小さな支部。
当然、施設も小規模で職員も他程多くは無い。
しかし、施設に併設されている寮はなかなかに大きく、暮らしている職員も多いからプライベートの付き合いも多い。
田舎の村みたいなものと言えるかもしれない。

「そうそう、日本のトリ達の活躍は聞いた?流石は司令のトリ達ね。」
「えぇ。これで少しは状況が好転してくれればいいのだけれども。」
「それはどうだろうね。とは言え、どちらにしても今は状況を見守るしかないけど。…無論、ただ見守るだけではなく新しい武器の開発も進んでるけどね。」

そう言ったモリガンの笑みは邪悪なものだった。
彼女にとって私達も『魔獣』もモルモットに過ぎないのだろう。
それでも彼女には大きな恩がある。
生き返らせてくれたという大きな恩が。

『警告!警告!『魔獣』の出現を感知しました!』

突然、食堂に警報と共に機械音声が響き渡った。

「もう!こんな時に『魔獣』なんて!ライブがあるって言ったでしょ!」
「『魔獣』には私達の都合は関係無いでしょうからね。…私一人で行ってきても構わないわ。」
「私も行く!ツガイでしょ!」
「…そうね。準備が出来次第…。」
「いつでも!」
「では。」

立ち上がり、軽く身体を動かす。
特に問題は無いだろう。

「私はいつも通り支援ドローンで援護するね。」
「ありがとう、モリガン。」

モリガンは自身で戦いは殆ど出来ないが彼女が開発した兵器は優秀なものが多い。
私とガルーダは更衣室へ寄り、戦闘服へ着替えて現場に向かった。





現場は戦闘車両で十五分ぐらい走った場所…黒柱。
既に数十の『魔獣』が黒柱の近くにおり、更に次々と黒柱から現れていた。
…私達の命を奪った『魔獣』もこの黒柱から現れた。
故にこの黒柱は私達自身の仇でもある。
黒柱は黒柱内に存在するコアとなる『魔獣』を撃破すれば崩壊するがどういうわけかこの黒柱内ではどうしてもコアの『魔獣』に会えない。
そこまで活発ではない黒柱とは言え、今も変わらずこの場所に存在しているのはそういう理由だった。
会えなければ倒すことすら出来ないのだから。

『現時点で小型『魔獣』121体。中型『魔獣』15体。計136体。いつもと比べるとかなり多いね。この黒柱から出現した『魔獣』の数としては過去最大。その上まだまだ出現している。…行けそう?』

車から降りた私とガルーダ。
支援ドローンからモリガンの声で状況を伝えられた。

「問題無いわ。ガルーダは?」
「えっ、問題無いの!?」
「えぇ。」
「…シムルグが言うなら間違い無いね。私も問題無い!」
『OK!グッドラック!』

私は刀、ガルーダはマイクを構える。
そう、マイクこそガルーダの武器である。
彼女は直接の戦いは出来ない。
素質が無かった。
だから、私の支援を行う。
そして、彼女のギフトは魅了のギフト。

「…私の歌を聞け~!」

マイクで拡散されるガルーダの声。
同時にマイクから音楽が流れ始めた。
魅了のギフトは自身に注目を集めるという能力。
ガルーダの声を聞いた瞬間、『魔獣』達は一斉にガルーダの方を見、走り出した。

「シムルグ、参る。」

ガルーダの歌が始まり、私の身体が軽くなるのを感じた。
力が漲る。
彼女の歌には魔法のような特殊な力があり、聞いたトリの身体能力等を上げる効果がある。
私は『魔獣』に向かって走り…一瞬で最も近くにいた小型『魔獣』の背後に到着。
同時に刀を抜き、一閃。
『魔獣』は真っ二つとなり、黒い霧と化して消滅した。
近くの他の『魔獣』が私に気が付いたようだけれどももう遅い。
ガルーダの魅了のギフトの影響下ではガルーダの姿に釘付けとなり私の方は見ることは出来ない。
無防備な『魔獣』に近付き、刀を振るった。





一閃絶命。
一振りで確実に1体の『魔獣』を仕留める。
50回振れば50体は倒している。
中型『魔獣』も例外では無い。
蟷螂のような姿の『魔獣』も狙う場所がわかっていれば容易いことだった。
何度も戦っていて経験が溜まっているということもあるが、過去に戦ったことがある『魔獣』はCAGEと歴代のトリによって解析されてデータが豊富にある。
再現出来る程に。
CAGE内のシミュレーター施設で再現データと嫌って程戦った。

『152体撃破。残存、小型12体。黒柱からの出現は一旦停止している。』
「わかったわ。」

152体か。
流石に疲れた。
ガルーダの歌が無ければここまで動けないと思う。

「ガルーダは休んでいいわ。」

一旦ガルーダの隣に戻り、歌が一区切り付いたところでそう伝える。

「えっ、でも…。」
「大丈夫。ガルーダの魔法の効果はまだ続いているから。」

走る。
そう、今更小型の12体は相手ではなかった。
ガルーダの魅了のギフトの効果も切れていて私に襲い掛かってきたけれども問題無かった。
残りの12体も斬り伏せた。

『相変わらずシムルグの刀捌きは惚れ惚れしちゃうね~。』
「わ、私のシムルグなんだからね!」
『はいはい。これで『魔獣』は全て排除…いえ、黒柱から追加の『魔獣』が出現。中型の蝶。』

報告通り、黒柱から大きな蝶が現れた。
見たことが無い個体かもしれない。
しかしながら…浮いている『魔獣』か。
私達のツガイには致命的な欠点がある。
刀が届かない相手には無力であるということ。

『スナイパーライフルを転送するよ。』

支援ドローンから私の手元に大きめなスナイパーライフルが落ちる。
普通の人間では持つことすら出来ない重量だと思う。
刀を鞘に納め、スナイパーライフルを構えてスコープを覗く。
照準を合わせて…引き金を引いた。
反動や衝撃も凄まじい。
私が放った銃弾は…蝶に掠ることもせずに黒柱に直撃。
銃弾はそのまま飲まれていった。

『…銃の腕前も相変わらずね。』
「煩いわ。」

この手の武器は非常に苦手だった。
トリには銃や弓、魔法という武器があるがそれらは全部無理だった。
基本的には扱えない上、使えたとしても当てられたことが無い。
だからこの刀を愛用していた。

「サポートを。」
『はいはい。』

私がスナイパーライフルを構えると支援ドローンがスコープの上に乗った。
そして、照準を合わせてくれる。
モリガンは唯一銃は使えるから。
支援ドローン経由でも照準を合わせることが出来るのだから腕は本物だと言える。

『…ファイア!』

モリガンの指示と同時に引き金を引く。
スナイパーライフルの銃弾は蝶の胴体に大きな風穴を開け…『魔獣』はそのまま消滅した。

『蝶型『魔獣』の消滅確認。敵の残存無し。』
「終わりね。」

スナイパーライフルを支援ドローンの前に出すと転送された。
転送技術は本当に便利。

「お疲れ様、シムルグ!」

駆け寄って抱き付いてきたガルーダ。
彼女に怪我は無さそうだ。

「ガルーダも。…これでまた暫くは静かにしていて欲しいものだけれども…。」
『…!?二人ともまだよ!黒柱から大きな反応を確認した!』

モリガンが通信越しに慌てているのがわかる。
珍しいことだった。
黒柱を見るとゆっくりと大きな黒い存在が出てきていた。
…高さが人間の四倍ぐらいだろうの…これは…犬だろうか。
人によっては狼や狐ともいうかもしれない。
とにかく、その種の黒き『魔獣』だった。

『データベース照合。データ無し。新種の『魔獣』よ。二人とも、すぐに撤退の準備を!』
「シムルグ、逃げるよ!」

狼たる四足の獣の高さが人間の四倍だとすれば全長を考えるととても大きいのが容易にわかる。
20ヤードほどあるのかもしれない。
確かに、あの大きさの『魔獣』相手に普通の人は無力だろう。
人間の兵器が聞くのかも怪しい。

「…ガルーダ、後何分戦えるのかしら?」
「えっ…!?な、何言ってるの…!?」
「私達トリが撤退すればいずれ一般人に被害が出るわ。」
「まさか、戦う気!?無理だよ!」
「倒すまでに行かなくても新種となれば情報収集は必要よ。大丈夫、無謀では無いわ。勝機はあるのだから。…モリガン、魔刀を出して。」

魔刀…最近モリガンが作った武器。

『魔刀を?しかし、まだあれはこの前の試験後の調整中で…。』
「大丈夫。モリガンを信じているから。…ガルーダ。」
「えっ!?な、何…?」
「愛する私を死なせたくないなら全力でサポートして。…ただし、ギフトの能力は無しでお願いよ。」
「……。」
「…私達はあの黒柱を破壊しなければならないわ。今回の『魔獣』がこの黒柱から現れた以上、コアの『魔獣』はこの『魔獣』以上の巨大な肉体を持つのかもしれない。そう、この程度倒せないのではダメなのよ。」

まだ見ぬコアの『魔獣』。
少なくとも今回この大きさの『魔獣』が現れたということは他にも同列の『魔獣』が存在するのかもしれない。
そして、今後私達は大型『魔獣』を何度も倒すことになると思う。
一体も倒せないようではトリである意味が無い。

「…タイミングはキサラギに任せるよ。」

キサラギは私の本当の名前。
CAGEではトリの名前を呼ぶことがルールとなっているから二人っきりの時ぐらいにしかその名は呼ばれない。
…ガルーダに余裕が無いのがよくわかる。

「では、今よ。」
「わかった!」

音楽が流れ始め、ガルーダの歌が始まった。
同時に支援ドローンから魔刀が転送された。
それを手に取り、狼に向かって駆ける。
狼の下半身はまだ黒柱の中だ。
今はまだ動けないだろう。
だから、今のうちに叩く。
狼の右前足の近くまで移動し、魔刀を抜いて一閃。
人間で言えば手首と言えるところだろう。
大きな図体を支える足も相応に太い。
刀は右前足首を斬り裂いていくが切断まで行かず、半分ぐらい切断した程度に終わる。

「…バウッ!」

私に気が付いた狼が吠え、左前足で攻撃してきた。
…攻撃がよく見える。
この魔刀には持つ者の感覚を拡張する効果が付与されている。
時間の感覚も半分ぐらいになっていると思う。
一見便利に思えるけれども脳の負荷は単純に二倍。
それ以外にも負荷が増えている為、通常の人間の神経、精神ではとても耐えられないだろう。

「甘いわ。」

右前足で攻撃すればいいものを。
死角となる右前足の影に隠れて躱し、続けて一閃。
この二撃目で右前足首を切断。
左前足で攻撃していた狼は右前足という支えを無くして体勢を崩した。
下がってくる狼の首に向けてすかさず刀を振るう。
体勢を崩して避けられないだろう…しかし、刀は空を斬った。
狼が大きく跳んだからだった。

『超大型『魔獣』が黒柱より完全離脱。これからが本番よ。』
「わかっているわ。」

ガルーダの歌もどれだけ続けられるかわからない。
そもそも戦闘が長引けば私の精神が崩壊する。
幸運にも狼は私を敵として見てくれているようだった。
近くの街に逃げ出されることが最悪の状況だったから。

「四足の獣では一足が無くなっただけでも致命的でしょう?」

私がそう言うと、挑発に乗るように二足で立ち上がった。

「嘘でしょう…?」

四足の時ですら大きいと思ったのに立ち上がるとやはり尚更ね。
だけれども…その方がありがたい。
その巨体では人間の小さな身体はさぞ捕まえ難いだろうから。
そして、狼が動く。
身体が大きいということはその分一歩が大きく距離を一瞬で詰められるということ。
狼が私の目の前に来ると同時に左前足が振り下ろされた。
しかし、感覚拡張した今の私にはよく見える。
左前足を回避し、同様に足首に刀を振るう。
こちらも刀は半分を斬り裂いたところで止まるが、すぐに次の一撃で…。

『狼型『魔獣』より魔力反応!』

モリガンの言葉が聞こえると同時に私も感じた。
狼の口元を見ると巨大な氷の塊が形成されていた。
…まさか、自分の腕ごと…。
この『魔獣』がある程度の再生能力を持つと仮定すれば、腕が無くなったところで致命的ではないのかもしれない。
刀は…抜けない。

『シムルグ、回避を!』

…いいえ、刀を放棄すればそれこそ勝ち目が無くなる。
武器が無ければ私など脅威にすらならないだろうから。
…仕方が無い。
この手は使いたくは無かったけれども…。

『シムルグ!』

狼から氷の塊が放たれた。
その巨大な塊を…左手で上に向かって殴る。
重い。
重いけれどやるしかない。

「っ…はぁ!」

氷の軌道を変え、私の背後の空へと飛ばす。
氷は雲の上まで飛んでいき…砕けた。
氷の冷気が空を冷やし、氷の破片と共に雹が降ってくる。

「……。」

左手の手袋は破れ、手が露わになる。
黒い手が。
人ならざる黒い手が。
形も人のものとは少し違う。
そう、私は不完全なトリ。
左手は肩から下が『なりそこない』の腕だった。
しかし、その力は人の域を遥かに超えていた。

「『魔獣』もそんな顔をするのね。」

恐らく驚いていたのだろう。
動きが固まっていた。
その隙に左前足首を切断し、その足を駆け上がる。
そして、『魔獣』の背中を左手で思いっ切り殴った。
ガルーダの歌の力もあり、『魔獣』の身体は地面に叩き付けられた。
地面が凹む程の威力だった。

『…何て威力…ってそうじゃない!とどめを!』
「わかっているわ。」

全身に相当ダメージがあったのか、狼は動きを止めていた。
無防備な狼の首に刀を振るう。
首は切断され、頭と身体は通常の『魔獣』と同様に黒い霧と化して消滅した。

『超大型『魔獣』、消滅を確認。』
「他に『魔獣』は?」
『黒の柱から反応無し。増援は無いものと考えられるわ。』
「そう…。」

モリガンの言葉を聞いて安心してしまった。
気が抜けて…意識が飛んだ。





目を覚ますと…そこは自室ではないが見慣れた天井だった。

「シムルグ!」

声と共に駆け寄り、抱き付くガルーダ。
ついでに口付けもされる。
ここは整備室…と呼んでいる。
表向きはトリ用の病室となっているもののトリは最早普通の人間ではなく、人造人間のようなものであると思っている。
だから、定期的に『メンテナンス』を受けている。

「寝起きに大声は辛いわ、ガルーダ。」
「だ、だって…!」

ふと、自分の身体を見ると全裸だった。
恐らく全身だろうか、結構細かに検査されたのかもしれない。

「何日寝ていたのかしら?」
「数時間よ。今は狼を討伐した日の夜。精神はどう?」

モリガンも歩いて近付いてきた。
私からすれば一瞬だったが早く目が覚めて良かった。

「問題無いわ。いつも通りね。身体の方は?」
「検査上では全く問題無し。…いつも通り、恐ろしい回復力ね。」

モリガンが私の左手を見る。
全裸だから左肩から下の『なりそこない』の腕がよく見える。
醜い腕。
自分ですらあまり見たくはないと思ってしまっているぐらい。
モリガン曰く、私の身体の回復力が高いのは完全なトリではなくこの様に一部『なりそこない』になっているからだろうとのこと。
いっそ切り離して義手にしてくれと頼んだこともあるが私は『なりそこない』と共存している稀有な検体だ、マッドサイエンティストのモリガンが許すわけが無かった。
正しくモルモット…今まで私の身体で散々実験してくれたからね。

「じゃあ、もうシムルグを部屋に連れてってもいいの?」
「あぁ。ただ、今晩はソフトにね。完全には回復していないかもしれないから。」
「あ、頭の中がピンクに染まってるモリガンと一緒にしないで!」

顔を真っ赤にするガルーダ。

「こんな変態置いといて行こう!」
「はいはい。」

近くに置いてあった検査着に着替え、ガルーダと一緒に部屋へと向かった。





翌日。
監視班から奇妙な連絡が入った。
黒柱が紫色になった、と。





『海の向こうの二人』・終わり。






というわけで第1話目。
何話まで続くかはわかりません。
もしかしたら別のペアも出てくるかもしれませんがネタが思い付かないので考え中。
トリの名前は原作と被らないだろう、ということで神話の鳥の名前にしてあります。



シムルグ

『夜光のツガイ』≪侵蝕≫
18歳の少女。
本名はキサラギ。
ガルーダとペアであり14歳の時からの恋人。
ハーフであり、半分は日本人ではあるが日本語は喋れない。
長身でスレンダーな体型。
武器は刀。
近接では無類の強さを誇る。
ギフトは無し。
不完全なトリであり、左腕にその形跡が残っている。
また、背中には鮮やかな桜の和風入れ墨が彫られている。


ガルーダ

『夜光のツガイ』≪明媚≫
17歳の少女。
本名はリリィ。
シムルグとペアであり13歳の時からの恋人。
トリでありながらアイドルであり、侵略者達に襲われた人々を歌と踊りで元気付けている。
武器はマイク。
バフ効果を齎す(逆に攻撃手段を持たない)。
ギフトは魅了。
注目を自分に集中させるという変わった能力である。


モリガン

28歳の女性。
アメリカのとあるCAGE支部の技術者。
天才と言われているが倫理観が壊れており、マッドサイエンティストとも呼ばれている。
トリではあるものの銃は使えても戦闘能力は低く、ツガイもいない。
女好きで、施設内には何人もの夜の相手がいるらしい。