~ファンタシースターオンライン2(PSO2)~
アルウェイア視点
アークスにはアークス内警察がある。
いや、正式な警察ではなく、第八戦艦基地においては『ガーディアンズ』が行っている。
悪く言えば勝手に行っており、アークスの中には不満を漏らす者もいる。
彼女もまたその一人。
「相変わらずですね、『ガーディアンズ』は。これだから役立たずと言われるのですよ。」
被疑者、『魔女』。
彼女は殺人の罪で捕らえられ、今は裁かれる立場となっていた。
「黙れ!貴様が殺したってことはわかってるんだ!権力を悪用してな!」
『魔女』を裁く裁判が行われていた。
その事件とは…アークスの男性が任務中に襲われ、殺害されたとのこと。
詳しい情報は俺もよくわかっていない。
「極めて悪質なアークスを抹殺する権利を持っていますが、その被害者は知りません。また、それ以外にアークスの命を奪う権利はありません。」
「…過去に殺人を犯したことは認めるのか。そのことに対しても罰を受けてもらう!」
「無理ですよ。権利を執行しただけに過ぎませんので。」
今思えば、その権利がある方がおかしいと言えるが…アークスの中でも最上位の者達かアークス以上の立場の人間が公認しているものなのだろう。
『魔女』自体がアークスの中でも一際異質なのだから。
しかし、今回殺害されたのは罪の無い一般アークスだった。
権利の執行は有り得ない。
そして、不思議なことに犯人が『魔女』である有力な証拠も無い。
それにも関わらず彼女を犯人に仕立て上げようとしている。
端から『魔女』を犯人として裁こうと決め付けているように。
「…気に入らねぇ。」
気が付けば俺は、無意識に法廷から飛び出していた。
事件現場の森に来ていた。
何か真犯人に繋がる手掛かりが無いかを調べる為に。
『魔女』がどうなろうと知ったことではない。
ただ、『魔女』に『ガーディアンズ』が貶されたことが許せなかった。
あの冤罪では『ガーディアンズ』は貶されて当然だと思う。
適当な捜査をした担当者も許せなかった。
「相棒を置いてくなんて酷いんじゃない?」
背後から聞き慣れた女性の声。
ケイトの声だった。
近付いてきていたのはわかっていた為、驚きはしない。
「これは個人的な行動だからな。巻き込まれても面倒だろ?」
「二人一組が基本。なら、アル兄が怒られる時は私も怒られる時。今更巻き込まれるだなんて思わないよ。」
「…そうか。なら、道連れになってもらうからな。」
「任せて!」
自信満々な笑顔を見せるケイト。
その真意は…よくわからん。
一時間ぐらい捜査したが、当然のことながら何も出て来ない。
「…凶器は何だったんだ?感電死ってことはゾンデ系クニックか?」
「多分。」
全属性のテクニックを使える者は大勢いる。
それぞれ得意とする属性が異なってはいるものの、使えないわけではない。
よって、雷が得意ではないテクニック使いは犯人ではない、と言うことも成り立ちはしない。
そもそも動機は何なのだろうか?
快楽殺人犯ではない限り人一人の命を奪うには相応の理由があるはずだ。
「…ここで何をしている?」
俺達に声をかけてきたのはアークスの男。
知らない顔だった。
「俺達は『ガーディアンズ』だ。『魔女』が起こしたとされる事件に関して捜査している。」
「許可はあるのか?」
「おかしなことを言うんだな。『ガーディアンズ』には捜査権がある。それを知らないと言うのか?仮にこの事件の捜査に特別な許可が必要と言うならこう確信する。『魔女』の罪はでっち上げで真実を知られないように捜査の妨害を行っている連中がいる。…それが貴様ってわけか。」
両剣を出し、構える。
「何を言っているかわからんが、証拠隠滅はお前達なのでは?故に、捕らえさせていただく!」
男が取り出したのは銃剣。
その種の武器を得意とする者は曲者が多く、苦手だ。
「アル兄…。」
「…ケイトはしゃがんでいてくれ。」
「う、うん!」
ケイトが俺の背後でしゃがんだ。
これでよし。
「わざわざ一人で戦うことを選ぶとは余程自信があるのか、はたまた馬鹿なのか…。」
「すぐにわかるさ。」
歩いて男に近付いていく。
銃による攻撃が来たとしてもこの速度なら余裕をもって防げる。
問題無い。
「チェックメイトだ。」
そして、半分程進んだところで男にそう告げる。
その直後、男の足下に魔法陣が浮かび上がった。
「!?」
男が気が付いた時にはもう手遅れ。
ラ・メギド…数十もの黒い球体が男の頭上から降り注ぎ、破裂した闇が男の身体を蝕んでいく。
ケイトのテクニックだった。
しゃがんでいる時に地面の中を這うタリスを男の足下に送り込んだ。
そして、ケイトは何発か分のラ・メギドをストックし、一気に使用した。
彼女はガンナーではあるものの何故かテクニックが使える。
しかし、威力は低い。
その威力の低さを誤魔化す為に編み出した技術がテクニックのストックとのこと。
「ふぅ、疲れた…。」
欠点は消費する力が大きく、燃費が良くないこと。
「お疲れ様。」
闇の雨が収まった頃には男は意識を失っていた。
「さて、この男をどうするかな…。」
現場には手掛かりらしいものは何も無かった。
せめて、この男が手掛かりになってくれればいいんだが…。
その日、『魔女』に下された判決は有罪だった。
裁判の翌日である今日、『魔女』の公開処刑が執行されることになった。
「神話で悪女と名高いイオリス…それは現実世界でも同じとなった!今日は悪たる『魔女』に法の裁きを下すことになる!」
高々と演説しているのは『ガーディアンズ』の幹部の男。
嫌いな男だ。
処刑場所は闘技場。
大会が行われる場所で、先の大会では『魔女』も活躍していた。
その『魔女』も今は捕らわれの身。
「どうだ、『魔女』?これだけの者が貴様の処刑を望んでいる。」
「…一つ教えてあげましょう。今日の処刑で私が死ぬことはありません。」
微笑む『魔女』。
いや、嘲っているのかもしれない。
何にしてもだ。
「そこまでだ、ドーグ。」
観客席から俺とケイトが舞台に乱入する。
「貴様は…アルウェイア!その勝手な振る舞い、許されると思うのか!?」
ドーグを護衛している『ガーディアンズ』の仲間達に武器を向けられる。
「それは自分自身に問うことをおすすめするぜ。」
右手を挙げる。
それを合図に俺達に味方している仲間が昨日捕らえた男を連れてきた。
そして、男を見たドーグの表情が変わったのを見逃さなかった。
「その表情、どうやら知っているみたいだな。そこの男から全て聞いたぞ。犯人は『魔女』ではない。あんたが以前から目障りだと思っていた『魔女』を公的に始末する為にこんな捏造をしたってさ。」
「…ふん、少しばかり知人に似て驚いただけだ。貴様こそこの男が証拠であると主張しているが、捏造である可能性があるのではないか?」
ただでは折れないか。
「犯人が『魔女』でなければ誰だと言うのだ?冤罪を増やすつもりか?」
「あんたがそれを言うのか。」
とは言え、確かに証拠は無い。
何か反論は…。
「では、もう一人の共犯者を提示すればどう出ると?」
この声は…。
「総帥!?」
声の主はアイムル総帥…『ガーディアンズ』の現トップ。
『四剣』と互角以上の実力と圧倒的なカリスマを持つ少女。
彼女は奥の方から一人の男を連れて現れた。
「何故、ここに…!?」
「私が第一に行っている間に問題が起こったと聞いて。昨日には既に戻っていた。」
地面を凍らしつつ、この滑る地面の上に男を引きずらせながら総帥が近付いてくる。
ただ近付いてきているその姿だけで少女とは思えない威圧感を放っていた。
「…ドーグ、申し訳無い…。」
「っ…貴様、裏切ったのか?」
「いいえ、この男は一切何も話さなかった。でも、心を読まれてはどうしようもない。」
『術団』にはアイズという心を読むことが出来る者がいる。
『ガーディアンズ』でもよく御世話になっている。
恐らく今回もそのものが手伝ってくれたんだろう。
「『魔女』、私の部下が失礼した。」
「いえ、気にしないでください。」
いつの間にか『魔女』が壇上からいなくなり、総帥の目の前に集まった闇の中から現れて互いに頭を下げた。
「『魔女』は無罪、だな。さて…何故『魔女』を始末しようとしたのか教えてくれないか?」
ドーグに問う。
「何故?その者は不条理な権利を翳し、アークスの仲間を殺害しているのだぞ?言わばアークスの裏切り者。何故そのような行為を許しておけると言うのだ?」
「アークスが正義だけではないからだろ?違法を犯すアークスもいる。だからこそ俺達『ガーディアンズ』がいる。『ガーディアンズ』には個人で死罪かどうかを判断するなんてそんなに強い権限は無いからな、極刑の恐怖という抑止力があってもいいんじゃないのか?」
「これだから馬鹿は困る。第八が『魔女』の支配下になる可能性だってあるのだ。」
「馬鹿はあんただ。んなもん、真っ当に生きてる人間には怖くも何ともねぇんだよ。」
『魔女』が支配しようと思えば既にしているはずだしな。
「アルウェイア、少し黙って。彼の言う通り馬鹿のようだから。」
「くっ…。」
確かに頭は良くないけどさ、かなり傷付く。
「ドーグが『魔女』を恐れている理由…それは『真実現視』があるから。」
『真実現視』…?
「簡単に言えば、犯人が簡単にわかる魔法。ドーグはどうしてもその魔法の発動を防がなければならなかった。理由は単純。ドーグ、あなたが犯人だから。」
ドーグが…犯人…!?
「自分の罪を隠せつつ、罪を擦り付けて邪魔な存在を消せる…そして、偽りの犯人の死亡により事件を強制的に終結させようとしたってこと?いいこと尽くしだね。」
「その通り。私が不在の時に犯行に及んだのも意図的であると考えられる。」
総帥がいればこんな手抜き捜査なんてしなかっただろうしな。
「そして、殺害動機は自らの悪事を知る者の口封じ。あなたが組織の金を不正に引き出していたこと、私達が気付いていなかったとでも?秘密裏に調査を依頼し、証拠が出るか否かの時にこの事件が起きた。大方、先程も述べた通り気付かれたと考えた故の口封じだったのだろう。でも、大きな間違いがあった。」
「間違い…?」
「ドーグが殺めた男は私達には全く関係の無い、一般アークスだったこと。」
総帥の言葉にドーグは明らかな驚いている表情を見せた。
「な、何だと…?」
「ドーグ、あなたを組織の資金流用と殺害の容疑で逮捕する。大人しく捕まるがいい。」
完全に全員が総帥の空気に飲まれていた。
ドーグの護衛だった騎士達も今ではそのドーグに対して武器を構えている。
「…予想外だ。実に予想外の展開だ。小娘なんぞにこの私が…否!」
ドーグが武器を取り出した。
それは巨大な斧だった。
そして、高く振り上げると力任せに真下へと振り下ろした。
斧が舞台を粉砕し、砂埃が広範囲に舞い、視界が奪われた。
「逃げる気か!?」
先手を打たれたのが痛い。
こんな大勢の中からどうやって逃げるつもりなんだ…?
「笑止千万。この私から逃げられるとでも?」
総帥の声が聞こえた。
その直後、ドーグの悲鳴が会場中に響き渡った。
強風が吹き荒れ、砂埃を吹き飛ばす。
視界が飛び込んできたのは…手足を数本の氷柱で貫かれ、身動きが出来なくなっていたドーグの姿だった。
「ぐっ…小娘なんぞに…。」
「そこらのアークスと同じにしないで欲しい。格が違う。」
総帥は抵抗出来ないドーグの顔面をウォンドで殴り、気絶させた。
自分で格が違うと言い切ってしまうのはちょっとあれな気がするが、そんな大口を叩ける程の実力者であることも事実。
「連行。」
総帥の指示に騎士達が動く。
ドーグと証拠隠滅を行った共犯者二人が連れて行かれた。
「無事に終わって何より、だな。」
「うん!でも、『魔女』さん、私達が来なかったらどうするつもりだったの?」
「心配ありません。逃げるだけでしたらいつでも出来ましたので。」
だろうな。
自分は絶対に死なないと確信しているように冷静だったしさ。
「今回の件で『ガーディアンズ』の評価が下がったのは間違い無い。二人にもより一層頑張ってもらうことになる。」
「ま、仕方が無いよな。他人だけに任せて自分楽するだなんてことはすんなよ?」
「誰に対して言っているつもり?」
怒られた。
そりゃそうだけど。
「私は『四剣』及び『術団』に謝罪に行く。アークス達に混乱を齎したことは私の責任だ。」
そう言って早々に去って行った総帥。
「いつ見てもかっこいいよね。いかにも出来る女、って感じで。」
「実際に出来る女だろうしな。さて、帰るか。」
「うん!」
一件落着。
時間もいい頃だろうし、帰ることにした。
そして、俺の部屋にて。
「お前、いい加減に自分の部屋を持て。俺のベッドを占領するな。」
部屋に戻るなり、ケイトは俺のベッドの上で横になっていた。
彼女も以前、自分の部屋を持っていた。
その前は友達とルームシェアをしていたらしく、念願の一人暮らしと喜んでいた頃もあった。
その一人暮らしも三ヶ月も続かずに何故か今は俺の部屋に居着いている。
「アル兄の物も私の物。」
「それで壊されたものもあるからたまったもんじゃないけどな、こっちは。」
筋トレグッズとか日用品とか。
本当に困ったもんだ。
「今日の晩御飯は何?」
そして、俺の部屋に居候する最大の理由がこれだろう。
ケイトは家事がダメなんだ。
炊事洗濯掃除…何をやらせても上手くいかない。
結果として、人に飯を作らせ、自分は人のベッドの上で漫画を読んで大笑いしているような残念少女となっている。
どうにかしないとな…。
『魔女裁判』・終わり
後書き
というわけで、PSO2の小説の新シリーズが始まったわけでして。
男主人公は久し振りな気がします。
ケータイの方のサイトのアークドゥム以来かしら?
主人公が戦うシーンはありませんでしたが…初戦闘はもしかしたらまだまだ後になるかもしれません。
武器の設定等は既に決まっていますけれど…。
それと…アイムルですね。
既にネタバレしているようにルミアの並行世界ver.です。
第八戦艦基地内でもかなりの実力者となっています。
アルウェイア
新シリーズの主人公。
今回判明したのは武器は両剣であること。
ケイト
ヒロイン。
ツンデレにするつもりが普通にデレ…。
『魔女』
圧倒的な実力を持つ魔法使い。
アイムル
若いながらも『ガーディアンズ』総帥を務める実力者。
『四剣』並みかそれ以上の実力を持つと言われている。
ドーグ
『ガーディアンズ』の幹部の男。
武器は大斧。
テクニックも使用出来、斧に属性を付加させることを得意としていた。