【古事記神話】本文
(~その54 食物の始まりは殺された大氣都比賣神から)




紹介記事を上げる神社のストックが底をつきかけているため、
テーマ記事をどんどん上げております…。


前回の記事では再び速須佐之男命が再び高天原を追放されました。
それに続けてという内容にはなっているのですが…まったく無関係の内容の話が続きます。



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【読み下し文】
又 食物を大氣都比賣神に乞ひたまひき 爾に大氣都比賣神 鼻口及び尻自り種種の味し物を取り出でて 而して種種の物を作り具へ 而して進むるの時 速須佐之男命其の態ひを立ち伺ふに穢汚れた物と爲し 乃ち奉り進むるの大氣都比賣神を殺し給ふ 故に殺したまへる所の身に於ひて生へる物は 頭に於ひて蠶を生み 二つの目に於ひて稻種を生み 二つの耳に於ひて粟を生み 鼻に於ひて小豆を生み 陰に於ひて麥を生み 尻に於ひて大豆を生み 故に是れ神產巢日御祖命 茲に取らしめて種と成す


【大意】
また食物を大氣都比賣神に願い求めました。大氣都比賣神は鼻や口、尻から種々の美味しい物を取り出し、種々の料理を作っていました。それらを給仕する時の様子を覗いた速須佐之男命は穢らわしく思い、殺してしまいました。その遺体からは頭から蚕、両目から稲種、両耳から粟、鼻から小豆、陰部から麦、尻から大豆が生まれました。神産巣日御祖神はこれらを回収し種としました。


【補足】
大氣都比賣神が登場しました!
その前に語句等を。
◎「態」 … ふるまい
◎「蠶」は「蚕」、「麥」は「麦」の旧字体
◎「陰」は「ほと」、女性の陰部のこと

◎さて…大氣都比賣神ですが。
この部分は前後の脈絡が無く大氣都比賣神が登場し、無理矢理ねじ込んだかの如く。どうしても載せておかねば!という内容だったのだろうと思います。
問題は、食物を願い求めた主は誰なのか?高天原の神々なのか、速須佐之男命なのか、どちらにも解釈が可能。速須佐之男命の面目躍如といった風にも。

大氣都比賣神とは食物を司る女神。記述の通り養蚕、五穀の神。
大宜都比賣神」などとも記されますが、分解すると「大」→「偉大な」、「氣(宜)」→「食物」、「都」→助詞「の」となり、「偉大な食物の女神」という意。

◎記においては3ヶ所で登場します。
一つ目は伊邪那岐命・伊邪那美命との国生み神話の中で、「伊豫之二名嶋」(四国)の中の「粟(阿)波国」の別名としてが大宜都比賣神登場(→本文 ~その15)。
二つ目は二神が神生みを続けていく中で鳥之石楠船神(天鳥船)と火之夜藝速男神(火之迦具土神)とともに生まれています。この時に伊邪那美命は陰部を焼かれ病に(→本文 ~その22)。
そして三つ目の今回の箇所と。

この三箇所に登場する「大宜都比賣神(大氣都比賣神)」が同神なのかは解釈が別れてはいますが…一つ目の内容から五穀の中でもより原始的な「粟」の神であろうと考えられます。

◎この大氣都比賣神と同内容の記述が、紀においては保食神(ウケモチノカミ)が月夜見尊によって斬られる話としてあります。つまり「保食神=大氣都比賣神」となるのでしょうか。



保食神を祀る近江国伊香郡 伊波太岐神社