◆ 「月讀命」を紐解く (1)
~「ツクヨミ 秘された神」より~




新しいテーマを立ち上げます。
性懲りもなく。


いずれはしようと思っていたこと。
諸々の事情で最近の参拝活動が減っており、紹介記事を上げる神社が枯渇したため。

すべてはコロナのせいだ!

ちょうど良い機会かと。


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この書を初めて手にしたとき、

「月讀命」を取り上げるなんぞ
またドえらいことをしはるな…と。

ホンマにちゃんと迫れるんか?…と。




迫れてました。

とことん迫れてました。

理論はあまりに明快。
「目から鱗」とはこのことでした。

10年ほど前に購入した書だったと思います。
月讀命について後にも先にも、この書を越えるものは見つけていません。

当時に受けた感動は鮮明に甦ります。



この書を教科書にさせて頂き、
数回に分けて記事にしていきたいと思います。

(できれば購入をお薦めしますが…)


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【謎の神「月讀命」】

記紀に記される「三貴子(みはしらのうづのみこ)」。天照大御神・月讀命・建速須佐之男命のこと。

天照大御神と建速須佐之男命はお馴染みの神なのに、月讀命はほとんど知られない。また記紀のその後の記述も豊富であるのに比して、月讀命の記述はほとんど無し。祀られる神社も圧倒的に少ない。

並び立つ「三貴子」なのに、月讀命だけがなぜ?




【「三貴子」の誕生】

記の記述は以下の通り。
「(伊邪那岐命)左の御目を洗ひましし時成りませる所の神名は天照大御神 次に右の御目を洗ひましし時成りませる所の神名は月讀命 次に御鼻を洗ひましし時成りませる所の神名は建速須佐之男命」 (中略) 「此の時伊邪那岐命詔して 吾は子を生み生みし 而して生み終へるに三貴子を得る」

*左目 … 天照大御神
*右目 … 月讀命
*鼻 … 建速須佐之男命

伊邪那岐命は三貴子を生んだことで神生みを終えます。




【「三貴子」に事依さす】

伊邪那岐命は「三貴子」にそれぞれ統治を委ねます(事依させます)。
*天照大神 … 高天原
*月讀命 … 夜之食國(よのおすくに)
*建速須佐之男命 … 海原

これは記の記述によるもの。紀では異なる記述もあり、後で上げます。




【紀の一書の月讀命の記述】

紀の第五段の一書の一つに、月讀命に関するその後の唯一の記述が見えます。

「伊弉諾尊は三子に命じた。天照太(天照大御神)は高天原を、月夜見尊は天の事を、素戔嗚尊は滄海之原を治めるようにと。天上に居た天照大神は葦原中國に保食神(ウケモチノカミ)がいることを聞いた。見てくるように命じられた月夜見尊は降って保食神のもとへ。保食神は口から飯(いひ)や海産物、獣の肉を出して饗応した。月夜見尊は口から吐いたものを我に出すなど穢らわしいと、剣を抜いて撃ち殺した。そして天に戻り天照大神に詳しく報告。天照大神は汝(月夜見尊)は悪い神だと言い、一日一夜、隔て離れて住むことにした」(大意)

これは保食神を主体とした記述で、この後に海山里の産物誕生神話が詳述されています。また「日月分離の神話(昼夜起源)」という内容も。

よく似た内容が記においては、月夜見尊→建速須佐之男命、保食神→大気都比売で語られています。そこでは月讀命が登場しないため、「日月分離の神話」はもちろん語られていません。




【「三種神器」と「三貴子」】

「三種神器」と「三貴子」とが対応しています。
*天照大御神 … 八咫鏡
*月讀命 … 八坂瓊勾玉
*建速須佐之男命 … 草薙剣

宮中にあってしかるべきものですが、様々な由緒があって八咫鏡と草薙剣は外部に持ち出されます。宮中に残っているのは八坂瓊勾玉のみ。
*八咫鏡 … 皇大神宮(伊勢の内宮)
*八坂瓊勾玉 … 宮中
*草薙剣 … 熱田神宮

宮中には八咫鏡と草薙剣の代用器(レプリカ)が祀られています。なぜ八坂瓊勾玉だけが宮中に残るのか?




【唐突な「三元論」】

記紀の神々は基本「二元論」で設定されています。たとえば「天津神と国津神」、「天神と地祇」。そしてイザナギとイザナミ神が生まれるまではほとんどが男女一対の神々が生まれています。

ところが「三貴子」の誕生だけは「三元論」。左右の目から天照大御神と月讀命が生まれるのに、建速須佐之男命は鼻からと、とって付けたように。また天照大御神と月讀命は月日の関係にあるのに、建速須佐之男命は海原と、これまたとって付けたような関係に。

どうやら後から「三番目」の「鼻」と「海原」を足したのではないかという疑いが…。

そして足されたのは建速須佐之男命ではなく月讀命なのではないかという疑いがあるのです。紀の一書の中には月夜見尊に海原の統治を委ねているものも。

そうすると元々は「天照大神→日、スサノオ→月」だったところに、後から月讀命を追加し、「スサノオ→鼻・海原」に改竄したのではないか?

戸矢学氏はこのような説をぶち上げたのです。




当書ではこの後、
月讀命の正体を紐解き、記紀を改竄した犯人を探っていきます。

第2回目へと続きます。




《戸矢学氏の研究に最大の敬意を表します》