* 春日の千古の森


世界の30万人以上都市で原始林が残るのは、奈良市だけだそうです。

これは承和八年(841年)に太政官符として出された「春日神山」での狩猟伐採の禁止令によるもの。以降およそ1200年もの間、守り続けられています。

特に家屋を始め木造建築ばかりだった日本において、それはもう大変だったであろうと想像されます。


「春日山原始林」は標高498m、広さは250ha、特別天然記念物に指定されています。
また社寺と合わせて世界遺産の一つとして認定されました。

都市のすぐ側にあり、誰でも簡単にアクセスできる世界唯一の原始林。

(境内社 岩本神社)



なぜ樹木伐採禁止令が出たのか。

神域であるからというのが最大の理由であろうと思います。
皇大神宮を見ても明らかなように、ご本殿周辺は清浄を保つためすっきりと全て伐採されますが、神が坐す森というのは一切手を入れません。

本来、神社のあるべきとされる姿はこういうことなのであろうと思っています。


ところが春日大社においてはそれだけに留まりません。

直会殿は屋根をくりぬき、木の邪魔にならないように建てられています。
炭に使う薪すらも春日山からは持ち出されなかったとも。
神職は落葉一つすら持ち出さないとか。


森は貴重な「水源」であり、ましてや盆地であるためたびたび干魃による水不足が深刻化する奈良の都にとっては、
是が非でも守らねばならないものだったように思います。

(山頂に鎮座する本宮神社遥拝所)



◎「山木枯槁」(さんぼくここう)

神山である御蓋山と春日山の木が大量に枯れる現象をそう呼んだそうです。

これは非常事態!

都人は神が人に怒り、天に還ってしまったと考えたようです。
神のご加護により暮らすことができていると考えていた都人は、恐怖におののいたことは想像に難くないと。

七夜にわたり臨時の神楽が奉納されたようです。神様~どうかどうか戻ってきて下され~と。

鎌倉時代の「春日権現験記絵」のクライマックスの話は、この「山木枯槁」の内容となっているようです。

(御蓋山浮雲峰遥拝所)