(嶋児神社鳥居と、左の小島は乙姫が鎮まる西浦福島神社)



~その1からの続き》


【大意】
(島子は娘に連れられさらに内へと進んだ)そこには娘の父母が歓迎し座って島子を迎えた。そして人間界と仙都との違いを説き、人と神が偶然に会うことが出来た嘉びを談議した。百品の美味をもてなし、兄弟姉妹は杯を挙げて献酬し、隣の里の幼女らもおめかしして盛り上がっていた。仙の歌は澄みとおり神の●●は逶●(「舞は長く続き」か?)、その歓宴は人間界の万倍であった。
日が暮れることを忘れ、但し黄昏の時に仙侶等はだんだんと退散し娘独りとなった。肩を並べ袖を絡め夫婦の営みをした。
島子が旧俗(人間界)を離れて仙都に遊ぶこと既に三年を経た。

急に故郷を懐かしむ気持ちが起こり、両親を恋しく思うようになり、哀愁やため息が日ごとに募った。
娘は問うた「最近貴方の様子がおかしい。どうしてか教えてほしい」と。島子は答えた「古人が言うには、貧しい者は故郷を懐かしみ、死期が迫る狐は生まれた丘に帰るという。虚談だと思っていたが、今は然りと思うようになった」と。
娘は「帰りたいのですか」と尋ねた。島子は「近親元を離れて遠い神仙界に来た。恋しい気持ちは堪え難く本心が出てしまった。望むのは本俗に還って両親を拝み奉りたい」と言った。
娘が涙を拭い嘆いて言うには「二人の心は金石のように固く、二人で最期まで添い遂げようと決めたのに、どうして郷里が恋しくなり私を棄てようとするのか」と。
二人は手を取り合い歩き回り相語らいて、最後の別れを哀しんだ。遂に袂を分かち帰路へと。娘の父母親族たちが見送った。娘は玉匣(たまくしげ、=「玉手箱」)を島子に授け、「貴方がいつまでも私を忘れずまたここに戻りたいと思うのなら、堅く匣を握り絶対に開けてはなりませぬ」と言った。遂に別れて船に乗った。また目を閉じさせて。


《~その3へ続く》


【補足】
「玉手箱」は「玉匣(たまくしげ)」と記されています。これは宇良神社(浦嶋神社)の神宝の一つ、縄文時代の「櫛」ではないかと考えられています。文中にも「開けてはならぬ」と記される一方、「握りて」とも記されます。「櫛」を入れた「匣(箱)」だったのでしょうか。
実際に拝見したところ非常に美しい櫛で、縄文時代のものとは思えない代物。若狭の鳥浜貝塚で同様の美しい櫛が出土しており(若狭三方縄文博物館に展示)。
「櫛」は「奇し」とも考えられ、霊の宿るものという観念があったようです。