皆さん、こんにちは。
佐伯恵太です。
「俳優・佐伯恵太の研究日誌」というタイトルのアメブロで時に理系ネタや最新の研究などについて綴ってきた僕ですが、ブログ内で、こんな連載をやってみようと思います
佐伯恵太の研究と社会をつなぐブログ
世の中のいろいろなことを、研究データや研究者の目線、理系的な物事の考え方を通して眺めてみたらどうなるのかどういう見方ができるのか
そんなことを綴っていくブログです。
第一回のテーマはこちら。
『研究×新型コロナウイルス』
[読了目安:約10分]
白衣を着た僕のイラストは、イラストレーターのアライユキノさんに描いていただきました。このシリーズでブログを更新する時はこの白衣を着たおにいさん(おじさん)の画像がドンと現れますので、わかりやすいかと思います
さて、ここから今回の本題です。
新型コロナウイルス。
まだまだ油断が出来ない日々が続いておりますが、皆さんは新型コロナウイルスについてどんな情報や印象をお持ちですか
感染力がすごい、高齢者が特に危ない、飛沫感染する、とにかく怖い、早く終息してほしい・・・
では、このウイルスについて、言葉やデータで説明できますか
なんとなくわかっているようなわかっていないような、という方も多いのではないでしょうか
数字やデータで語ることが全てではないと思いますが、少しでも正しい情報を得ることで、正しく恐れて、正しく予防することができると思うのです。
僕もまだまだ勉強中なのですが、少し理系の勉強歴、研究歴のある僕が大事だと思ったことの一部を、紹介していきたいと思います
⭐️名前を知る⭐️
まずは、新型コロナウイルスの名前です。略して新型コロナ、または単にコロナと呼んだりもしますが、正式名称はコチラです。
SARS-CoV-2
(重症急性呼吸器症候群 コロナウイルス)
新型コロナウイルスという名前なのでコロナウイルスの仲間なわけですが、コロナウイルスは風邪の病原体としても知られる4種類を含め、7種類が知られています。
正式名称まで見ていくと、新型コロナウイルスがSARS関連コロナウイルスに属していることがわかりますね
そして、SARS-CoV-2が引き起こす感染症のことを、こう言います。
COVID-19
(2019年新型コロナウイルス感染症)
新型コロナウイルスのニュースでCOVID-19という言葉もよく使われますが、これはウイルスの名称そのものではなくて、ウイルスが引き起こす感染症のことだったのですね。僕も最初よくわかっていませんでした
Google Scholarという、キーワード検索すればそのキーワードに関連する論文が出てくる超便利な学術論文検索用エンジンがあります。
「新型コロナウイルス」で検索すると約1,500件の論文がヒットするのに対して、「SARS-CoV-2」「COVID-19」で検索するとそれぞれ約50,000件の論文がヒットします。
※多くの学術論文は英語で書かれていますので、これは単純に日本語と英語の違い、という面もあります
全然別の例で試してみると、みんな大好き(?)お手軽お掃除道具「コロコロ」の正式名称は「粘着カーペットクリーナー」ですが、Google Scholarでコロコロを検索してくると、お掃除に使うコロコロではない、多種多様なコロコロに関する論文が出てきました
一方「粘着カーペットクリーナー」で検索すると、しっかりお掃除で使うコロコロに関連する論文が出てきました。
俗称や呼称というのは便利ですが、正しい情報にしっかりアクセスするための言葉としては、万能では無いと言えるかもしれません。
⭐️かたちを知る⭐️
皆さんは、新型コロナウイルスのサイズってどれくらいかご存知ですか
人の細胞を直径2メートルとした場合、新型コロナウイルスのサイズは直径2センチメートル(さくらんぼサイズ)だそうです
想像以上に小さくないですか
こういう情報を持っているだけでも、「マスクをしていれば密集することも平気だ」という情報を聞いた時に、いや待てよ、本当にそうなのかなと一旦立ち止まって考えることができます。
情報をすぐに鵜呑みにしないで深く考えたり調べたりすることで、より正しい行動、正しい情報に辿りつくことができます。
マスクをしていると咳やクシャミなどによる飛沫を抑えることはできますが、感染を100%防ぐことは出来ないということが、ウイルスのサイズ感からも想像できますよね(とはいえサイズだけで語ることはできませんが)。
そんな非常に小さいコロナウイルスですが、どんな形をしているかというと、球状で、表面に花弁状の突起があります。それが太陽のコロナに見えることからコロナウイルスと言うのです
ちなみに、形というか少し構造のお話になりますが、ウイルスにはエンベロープ(脂質性の膜)があるタイプのウイルスと、無いタイプのウイルスがあります。
新型コロナウイルスはエンベロープがあるタイプのウイルスなので、アルコールによってその膜を壊すことで、ウイルスにダメージを与えることができます。このことは実際に研究でも確かめられています
※ウシコロナウイルスに対して、アルコール消毒剤が不活化効果を持つ(松村ら、防菌防黴Vol.41(2013))
ある情報があった時に、それがただの噂なのか、理論上の話なのか、実際に確かめられて論文等で発表されている話なのかを確かめることも重要ですね
膜を壊してやっつけているんだとわかれば、バイキンマンをやっつけるアンパンマンみたいな気持ちで、えいっやあっと心の中でウイルスを倒しながらの手洗いが出来ます
事実から想像を膨らませることができるのも人間の特徴ですからね
ちなみに、新型コロナウイルスで研究された論文もありまして、2020年4月17日に北里大学の大村智記念研究所、ウイルス感染制御学研究室で発表された論文によると「濃度50%のエタノールに接触時間1分間」で十分な新型コロナウイルス不活性化が可能だそうです。
「ビール飲めばコロナなんてやっつけられるよ〜」なんて冗談で言う人がいたとしても、アルコール濃度から考えても、真に受けちゃいけないことがわかりますね
でも、対コロナには有効ではなくても、ビールは好きです
⭐️歴史を知る⭐️
次に、ウイルスの歴史です。
インフルエンザウイルス・狂犬病ウイルス・ポリオウイルス・麻疹ウイルスなど、ヒトに感染するウイルスは多くの種類が知られています。
そんなウイルスたちの中で、紀元前から、伝染力が非常に高く死に至る病として恐れられていたのが、天然痘ウイルスです。
実際に、紀元前12世紀の古代エジプトの王、ラムセス5世が天然痘を患っていたと考えられているそうです
なんでこんな新型コロナなんて何百年に一度だかなんだかの時期に生まれてしまったんだろう・・・なんて考えてしまうことはありますが、歴史を見ればヒトとウイルスの戦いは紀元前から続いているのです。
だったら仕方ないか、なんて簡単には思えませんが、重要なのはここからで、この天然痘との戦いに人類は大勝利を収めています
ワクチンが開発され、1980年5月、WHOが天然痘の世界根絶宣言を行っています。
紀元前から2,000年以上も戦ってきたわけですし、1770年のインドの流行では300万人が死亡したなどの記録もあり、どれだけ壮絶な戦いであったかを数字の上からも、思い知らされます・・・
しかしそんなとんでも無いウイルスに、当時まだ今ほど科学や生物学が成熟していない状況でワクチンを研究、開発した研究者がいて、根絶まで持っていけたということは本当にすごいですし、希望を感じることでもありますよね
⭐️研究の最前線を知る⭐️
最後に、研究の最前線について。
5月31日放送のサイエンスZERO「新型コロナ論文解析SP」によると、番組収録時点で「新型コロナウイルスの変異に関する論文」だけで100近くの論文が見つかったそうです。
世界中の研究者が今、新型コロナウイルスの研究を進めています。
ウイルスの変異について研究することで、ウイルスの起源や病原性の変化、ワクチンができるかどうかなどについて、検討できるようになるのです
東京大学医化学研究所 ウイルス感染分野 教授の河岡義裕先生によると、インフルエンザと比較しても、変異は大きくないため、臨床試験が進めばワクチンは出てくるそうです。
しかし、世界中の人に接種できる量を作るには、良い条件がそろっても2021年の冬あたりになるのではないか、とのことでした。
なんでそんなに時間がかかるのという疑問が生まれそうですが、それについても番組内では重要なお話をされていました。
"治療薬は命にかかわる人に使うことが中心なので、副作用があっても使うことがあるが、ワクチンは健康な人に対する介入であるため、極めて高い安全性が確認されたものでないと、使えるようにならない"
言われてみると確かにそうですし、自分がもし健康な状態で接種して不健康になったりしたらたまったもんじゃないですが、ついついもっと早くワクチンができないのかということばかり考えてしまいます。
しかし、悲観的な話ばかりではありません
新型コロナウイルスへの感染を防ぐという研究だけでなく、感染後に起きる血管の炎症を鎮めるための研究も進んでいるそうです。
(実際に一定の効果が認められたそうです)
ワクチンが開発されるのは大事ですが、それまでは為す術がないというわけではなく、あらゆる可能性について検証、研究が進んでいるのです
他にも番組では、今回のウイルスが人工的に作られたのではないかという噂についても議論されていて、科学的にはこのウイルスを人工的に作る、というのは考えにくい、ということが説明されていました
研究の最前線を知ることで、できうる限り正しい見通しを立てたり、デマの拡散を防いだり、研究者や医療関係者、多くの方への感謝の気持ちを持つことができる。
それがとても大事なことではないかと思います。
しかし、研究の世界でも有名な説が覆ることもあります。論文で発表されているから絶対に正しい、ということではなくて、内容をちゃんと読み込むことをクセづけたり、科学的に判断していける思考を身につけることが大事です
【新連載】佐伯恵太の研究と社会をつなぐブログ
第1回は新型コロナウイルスをテーマにお届けしました。
研究事例を紹介しつつも、エンタメ的に楽しく綴っていければと思っていましたが、今回は内容的に、真面目に語ってしまったところもあります・・・
研究 × 恋愛
研究 × カブトムシ
研究 × ???
取り上げたいテーマは無限にありますが、コメントでもリクエストしていただけると嬉しいです
反響次第なところもありますが、今月3本くらいやってみようかと検討中です
元研究者として、現エンターテイナーとして、科学的な知識や視点をエンタメにして届けることが、僕の夢であり目標です。
雑誌で連載できたり、ラジオでお喋りできたり、テレビ番組に出演することができたら最高ですが、まずはブログでお届けしていければと思います
最後まで読んでくださり、ありがとうございました
COVID-19、まだまだ油断せずにまいりましょう