皆さん、こんにちは。佐伯恵太です。

 

 

【リモート小説】と題して、僕がtwitterに投稿した一枚の写真に対して妄想リプを飛ばしていただき、その妄想を組み合わせながら、僕がさらに妄想を膨らませて一つの小説にしてみました。

 

 

 

誰とも会わずに、一度も会わずに、みんなで作った小説です。

 

 

お楽しみいただけましたら幸いです。

 

 

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 - 蝶の鱗粉 - 

 

 

遠距離恋愛中の彼女と、久しぶりに会った。

 

 

昨日の夜、いつものように電話で話してたんだけど、仕事のプロジェクトで失敗したことがよほどショックだったみたいで、途中から泣き出したんだ。いや、本当は色々我慢してたのかな。LINEにZOOM、時代は進歩してるのに、未だに遠くから涙を拭ってあげることができないのが悔しい。

 

「会いに行くよ」って言おうとしたら、彼女は歩きながら電話していたみたいで、その時もう駅のホームだった。終電で来た彼女は、家に入るなりリビングで寝てしまったから、布団をかけて僕も一緒に寝た。

 

朝起きたら彼女は隣で寝息をたてていて、布団は部屋の隅っこでクシャクシャになっていた。

 

僕は寝相が悪い。子供の頃から。

 

彼女を蹴飛ばさなかった自分を褒めてあげたいけど、もしかしたら褒めるべきは、蹴飛ばされたのに起きなかった彼女の方かもしれない。

 

 

もしそうなら、ぐっすり眠ってくれて本当に良かった。

 

 

彼女は起きるなり「布団くらいかけてよ」と言ったので、布団はかけたけど、僕の寝相が悪くて布団を蹴飛ばしたという経緯、そして、事実として布団が確かに僕が蹴飛ばしたであろう位置にある、ということについて丁寧に解説した。

 

理屈っぽいと言って元カノにフラれた僕だが、その癖は治っていない。そんな僕と付き合ってくれる彼女にはただ感謝するしかないのだが、彼女も同じ理系大出身だから大丈夫だろう、とついつい甘えてしまうのだ。しかしそんな彼女とて、僕の理屈話を全部は受け止めてくれない。

 

蹴飛ばした布団についての解説も、後半に差し掛かる頃にはもう聞いていなくて、おもむろに立ち上がった彼女はベランダに出ていた。僕も続いてベランダに出た。

 

 

外の風は気持ち良い。もっともベランダが「外」なのかはわからないけれど。ベランダの定義について彼女と議論するのはぐっと堪えて、無言のひとときを楽しむことにした。

 

 

 

風に乗って、一匹の蝶がやってきた。

 

モンシロチョウ。白くて小さくて可憐な蝶。その蝶はヒラヒラと彼女の後方で舞っていたが、やがて彼女の頭に止まった。

 

 

彼女が虫嫌いであればこんな時かっこいいところを見せられるのだが、彼女は虫が大好きなのだ。それは、生物学を専攻していたからなのか、物心ついた時からそうであったのかは、そういえば聞いたことがなかった。

 

 

モンシロチョウが頭についていると彼女に告げると案の定大喜びで、僕、彼女、モンシロチョウの奇妙なスリーショットをたくさん撮らされた。

 

楽しそうにはしゃぐ彼女があまりにも愛おしくて途中、彼女だけを撮ろうとしたら「何撮ってんの?」って。彼氏が彼女を撮るのってダメなんだっけ?ま、いいか。心の中でシャッターを切った。

 

 

たくさん撮った中で彼女が一番いいと言った写真は、僕の目が半目のものだった。「モンシロチョウを基準に選ぶな」という言葉を抑えて、僕はこう言った。

 

 

「いい写真だね」

 

 

気づいたら、モンシロチョウは去っていた。

 

 

「鱗粉がついてるから取るね」

 

僕がそう言うと彼女は頷いて、こっちを向いた。

 

 

久しぶりに彼女の顔を間近で見て、僕はドキドキした。

 

 

頭をポンポン、としてから髪を三度、四度と優しく撫でた。

 

 

 


「ありがとう」

 

彼女の声は優しくて、穏やかだった。

 

 

 

僕は嬉しかった。

 


 

彼女もわかっているのだから。蝶が頭に少し止まったくらいで、鱗粉はつかない。


 

 

少しの間見つめあって、どちらからともなく、そっとハグをした。

 


 

彼女の体温と、蝶のように可憐な姿を、僕はきっと忘れないと思う。

 

 

この気持ちを面と向かって伝えられたらいいんだけど、いつも恥ずかしくて言えない。中学生かよ、自分。

 

うん、あとで動画で撮って送ろう。

 

 

 

一日はあっという間にすぎて、彼女を見送りに駅まで歩いた。

 

駅のホームに着く頃には、彼女は沈黙して、拗ねているようでもあった。

 

でも、暗さはなかった。

 

 

「また来月会えるから元気出して」

 

自分にもかけた言葉だった。

 

 

 

 

会いに来てくれて本当にありがとう。

 

今度は絶対、僕が行くようにしよう。

 

 

そう思った矢先、彼女が言った。

 

 

「今度はそっちが来なさいよ!」

 

 

別れ際の言葉がそれかよ、と思ったけど、これもある意味以心伝心って言えるのかもしれない。

 

 

 

離れていても、心はいつも一緒。

 

 

そう信じて、僕は彼女を見送った。

 

 

 

 

「蝶の鱗粉」 

 

キャスト:ぼく、彼女、モンシロチョウ

 

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この小説を一緒に作ってくださったみなさま

 

ユウコさん、マコちゃんさん、はるるんさん、しょーちゃんさん、葛野広海さん、shu shuさん

 

このツイートのリプ欄を見ていただき、どのリプがどこに使われているのかを見ていただくのも、楽しいかもしれません。

 

こんな時だから即興性を重視して、本日12時半にツイートして妄想の募集開始、18時に締め切り、19時にブログ公開という流れにしました。今日という一日に、一枚の写真を通してみんなの妄想が重なって、一つの物語が生まれた。なんだか少し、ロマンチックだと感じてしまいます。

 

 

♪勝手にテーマソング♪

 

この物語を書いていた時に浮かんできた曲です。物語を読んだ後に聴いてみてください

 

 

 

最後まで読んでくださった皆さん、ありがとうございました。はじめての試みにも関わらず妄想してくださった皆さんも、ありがとうございました。

 

 

もし好評なら、また書いてみたいと思います。