2011年3月20日 ジャズオーディオディスク大賞2010 受賞作を聴く | UNTITLED

2011年3月20日 ジャズオーディオディスク大賞2010 受賞作を聴く

このイベント、楽しみにしておりました。


ジャズ批評160号で特集していた「ジャズオーディオ・ディスク大賞」で受賞した作品を聴くと言うイベントが吉祥寺のMEGで開催されました。



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ジャズ批評 160号 (2011年 03月号)
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イベントは6時開始という事で、30分前にMEGに到着。

店内に入ると、本日のイベントの司会、Jazz Cabの藤田さんが受賞作の音質チェックをしていたので、挨拶をして一緒にジャズオーディオ・ディスク大賞インスト部門の2位と1位を聴きます。


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なんでも先週、新潟で同じイベントを開催した際にはこの2位の作品が大絶賛で、「こっちがダントツに1位だ!」と盛り上がっていたらしい。

そんな話を聞いてから1位の作品を聴いたのだけれど・・・

いやはや、「オーディオ」的にはコチラの方が遙かに凄い。

「新潟の方はウーレイの古いスピーカーだったからねぇ。このシンバルの音は出てなかった。」

確かに、1位の作品はダイナミックレンジの振り幅、シンバルやハイハットの炸裂音、ドッ!という腹の底をえぐるようなバスドラなど、最近のオーディオ機器でしか聴けない音かも知れない。

というかそれ以前に、今聴いている音、一般家庭ではなかなか出せないと思うのだけれど・・・



テスト終了後、藤田さんから仙台に引っ越されたMEG常連のオーディオマニアOさんの安否も確認できました。
地震の影響で仕事の方が天手古舞いだった様子。
とてもオーディオどころの騒ぎでは無いのだとか。
そりゃそうだ。



そんな話をしていると、6時近くなったのでお客さんも続々ご来店。


ジャズ批評の松坂社長とご息女のゆう子さん、ジャズオーディオ・ディスク大賞選考委員長の北九州の後藤先生(!)、同じく選考委員の吉田さん、メグの会名誉会長の和田さん、寺島さん、そして退院ホヤホヤのジャズ評論家の岩浪洋三さん、そしてイベントの途中からは漫画家のラズウェル細木さんまで!

実に濃ゆい方々がイベントを楽みにご来店いたしました。


他にも、当然のようにMEG常連の皆さんも集まり、いよいよイベントの始まりとなりました。



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まずは本日のイベント司会者、Jazz Cabの藤田嘉明さんが開始のご挨拶。

「こんな時期ではありますが、こんな時期だからこそ、被災していない地域はバンバン経済活動をしていかないと日本が潰れちゃいますから、今日はビールをドンドン飲んで盛り上がりましょう!」

そうだそうだ。
日本全体が元気にならなきゃ、被災地域への支援の下支えも出来ない!

せっかくこれだけ大勢のお客さんが集まっているのだから、「MEGから元気の輪を広げるぞ!」くらいの気持ちで盛り上がらなければ。


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藤田さんの挨拶が終わると、ジャズオーディオ・ディスク大賞選考委員長の後藤誠一先生のご挨拶。

「今日は純粋にジャズを楽しみたい」とのこと。

あれだけ個性の強い選考委員の面々をまとめるのは相当大変だっただろうな・・・


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そして、ジャズ批評社長の松坂妃呂子さんのご挨拶。





ひとしきり挨拶が終わると、まずはジャズオーディオ・ディスク大賞「インストゥルメンタル部門」の5位から1位までを聴いていくことに。



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インストゥルメンタル部門【第5位】

Complete Communion To Don Cherry / Aldo Romano
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うひゃ~!
スピーカーの真ん前の席だから余計なのだけれど、このAldo Romanoのシンバルの凄まじさは気持ちいい!
鼓膜を劈くような轟音なのだけれど、音の粒はしっかりとしていて煌びやかに散っていきます。
Henri Texierのベースも広がり過ぎずに適度に締まって、たっぷりとベースの沈み込みを聴かせてくれるし、Fabrizo Bossoのトランペットもカラッとし過ぎず適度にウェットで艶めかしい。




そして2曲目。

インストゥルメンタル部門【第4位】

Meet Me In Paris / 松尾明Trio
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さぁ、ここで寺島さんの機嫌が悪くなった(笑)。

各選考員の個別の投票点数はジャズ批評160号をご覧頂くとして、この松尾明トリオの作品に岩浪さんが点数を入れていなかったのです。

寺島さん「岩浪さんは松尾トリオはお嫌いなんですか?」

岩浪さん「松尾さんのドラムはライブで顔を見ながら生で聴くのが好きなんですよ。それともなに?この店に来て金を払ってライブに来ちゃいけないって言うの?」

寺島さん「岩浪さんが松尾明トリオに点数を入れないのが気に入らないんですよ。友情ってモンがあるでしょう!?」

もう、イベントが始まって未だ序盤だというのに、さっそくヒートアップです。

面白い。




インストゥルメンタル部門【銅賞】

Organist / Kankawa
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さすが「オーディオ」という事を掲げているディスク大賞。

各楽器の音が明晰なのはもちろん、バックで黒くグルーヴしているオルガンをベースに、各楽器が生々しく眼前に存在しています。

普段オルガン入りの曲は音全体を丸めてしまったり、どうしてもオルガンの音に引っ張られる傾向があるのであまり聴かないけれど、これは参った。

「正しい」オーディオ向けCD。

それでいて、退屈さは皆無でグルーヴィーでダークなジャズをたっぷりと楽しめます。

買わなきゃ。

ちなみにMEG常連の平井さん曰く「彼のオルガンはこんなもんじゃないよ。こんなにキレイじゃない。もっとガンガンだよ!」

・・・ライブも聴きたい。




インストゥルメンタル部門【銀賞】

Plastic Moon / Magnus Hjorth
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あぁ、これは確かにイイ音だ。
適度にキリッと締まったベースが全体の音を構成している感じ。
演奏も奇をてらった事はしておらず、ゆったりと聴けます。

聴き終わった後に藤田さんに意見を求められたけれど、「ベースのCDですね。」と思ったままのことを言ってしまいました。

で、このCDが2位になったことに関しても寺島さんは気に入らないらしい。

寺島さん「これのどこが良いんですか!?音も演奏も平坦で起伏がない!これが良いって言うヤツはジャズが分かってないって事ですよ!」
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まぁ、そんな寺島さんもこのCDには7点を入れているんですけどね。




そしていよいよインストゥルメンタル部門の第1位の作品です。

インストゥルメンタル部門【金賞】

What Happened / Rosset Meyer Geiger
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さっきも藤田さんとイベント開始前に聴いたけれど、いやはや、さすが!という感じ。
「オーディオ」の美味しいところがビシビシと感じられます。
とにかくダイナミックレンジが広い。
ドラム、特にシンバルとハイハットの最弱音と最大音の鳴らし分けが明晰で、なによりバスドラの地を這うようなドッ!という咆哮。一切茫洋としません。
ベースも引き締まって沈み込む非常にスピード感のある音だし、ピアノの7~8オクターブにかけての連打も同時にフォルテシモで描き分けるのが凄い。

これまた意見を求められので、

「毎年ジャズオーディオ・ディスク大賞の1位の作品を聴く度に、これをならすのは大変だな、と思うんです。今、MEGで聴いているからこの音が出るけれど、実際に家でこの音を出せるのかというと、こういう音で聴ける人って、ほとんど居ないと思う。演奏もこの音で聴けないと楽しくないし。」

と言うと、寺島さんが「それってどういうこと?」と聞いてくるので、

「この音を出す挑戦は大変!でも挑戦したくなる。」
と、答えるとウンウンと頷いてました。


でも、今度はこのCDに関して岩浪さんが良く思っていないようで、

岩浪「オーディオファンに媚を売ったような演奏と作った音は好きじゃない!ベースのピッチの音もくぐもってるよ。」

と、しかめっ面。


後藤先生は後藤先生で、「こういうオーディオの美味しいところが聴けないんだったらジャズを聴く意味がない!」とか言い切るし。


最後は藤田さんが、
「こういう音を自分の家で出すのは難しいかも知れないけれど、こういう音が入っているという事が重要なんだと思うんですね。こういう音が入っているCDがあれば、いつかは自分の家のオーディオもこういう音が出せるようにステップアップしてやる!と思えるんです。」
と、名司会者然として締めくくって、インストゥルメンタル部門を終了し、休憩時間となりました。




短い休憩を挟んだ後、今度はジャズオーディオ・ディスク大賞「ボーカル部門」です。

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これはもう、とにかく好みだなぁ。

この上位に上がってくる歌手は実力も確か。
ただ、黒人歌手がランクインしてこないのはなぜだろう?

そんな中、第1位に輝いたこの作品は他を圧倒していました。

ボーカル部門【金賞】

Once I Loved / Woong San
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寺島さんが「最高に歌がうまい。日本の歌手は完全に叩きのめされたね。」と言うほど、凄かった。
聴き終わった後、店内の所々からため息が漏れたほど。

後藤先生は「韓国女の情念」と例えているけれど、まるで体温を感じるような歌声なのです。

そして、それを支えている確かな音質。

これも、全く持って「正しい」オーディオの高音質。

全ての楽器の粒立ちが細かく、空気が伝わってくるような明晰な音質。

どの楽器も肥大化することなく、Woong Sanの歌声も、吐息がかかってくるように分解能が高く、新しいボーカルのリファレンスディスクになりそう。


で、このボーカル部門で岩浪さんの「名言」登場。


岩浪さん「歌手は、スターの自覚が無くなった時点でダメだ。」


今回のボーカル部門の受賞作にベテラン歌手がほとんど入っていないのでは?という意見があった際に、岩浪さんが昔から応援していた歌手が久しぶりに来日公演をした時の話を出して上記のような名言が登場したわけです。

なんでも、ステージに登場したその歌手の服装が、まるで普段着のような服装で、スターのオーラが全く無かったそうなのです。それを機に、持っていたその歌手のレコードは全て売ってしまったのだとか。
一方、70代のある歌手を例に挙げ、今でもステージに上るときには真っ赤な口紅を引いて、真っ赤なマニキュアを付けて、色気たっぷりに聴衆を魅了する。
これこそが「スター」だ!とのこと。


う~ん、全くもってその通りだ。







そして「メロディ部門」。


これまた難しい。

なにせ、メロディーの概念が各々全く違う。
ただ、やはり「昔のスタンダード曲のように、演奏され続けて、将来のスタンダード曲になるアーティストのオリジナル曲」という軸はブレていないらしい。

そんな中で1位になった作品にもまたクレームが・・・

メロディー部門【金賞】

Forever Begins / 山中千尋
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クレームの主はMEG常連の坂上さん。
坂上さん「何が良いのか全く分からない。これが良いって言う人にはどこが良いのか聞きたい。高い金を出してCDを買ってこれを聞かされたら、馬鹿にされているような気持ちになるよ。」

これに呼応する寺島さん。
寺島「リズムが馬鹿にしてるよな。」

この曲に高得点を入れていた岩浪さんも、
「この間、子供の頃に作った曲をつなぎ合わせたもんだって聞いたときに、「自分にはその程度の理解力しかなかったのか!」って思っちゃったよ。」と、苦笑い。

ちなみに、1位になったのは「So Long」という曲なのだけれど、同じアルバムで「Forever Begins」という曲も、メロディー部門の7位に入賞しています。

この2曲を聴き比べた後、「どちらの曲の方が良いか(好きか)?」というのを店内のお客さんの挙手で改めて確認をしたところ、「So Long」の方がダントツに手が挙がっていたので、上記のような坂上さんの反論になったわけです。

ちなみにオイラは、曲調として「Forever Begins」の方が好きだったのでそちらに手を挙げたのですが、いやはや、頭の中にずっと残っているのは「So Long」の方だったりします。

そういう意味では、「So Long」のメロディーは強烈だったと言う事なのでしょう。

尚、「バカにしたような曲」「子供向けみたいな曲」と言われた「So Long」ですが、実は私、聴きながら、これに歌詞を付けたらそのままNHKの「みんなのうた」で流せるんじゃないか?などと思っておりました。




兎にも角にも、大盛況のウチに2010年ジャズオーディオ・ディスク大賞3部門の試聴会が終了しました。

すると、藤田さんの締めの挨拶の前に、メグの会名誉会長の和田さんから、このディスク大賞に対して不満が漏れました。

和田さん「今日聴いたのはピアノトリオばかりなんだよね。なんで管モノを取り上げないのか不思議でならない。ジャズの楽しさって、やっぱりホーンだと思うんだよね。ジャズボーカル部門があるんだったらホーン部門があっても良いじゃない?」

藤田さん「実はみんなそう思ってるんですよ。でも残念ながら、管モノにイイのが無い!」

岩浪さん「このディスク大賞はオーディオを謳っているから、やっぱり音質が重視されているんだよね。だからピアノトリオみたいな編成の少ないモノの方が音がまとまりやすいから、どうしても上位に入ってくるんじゃないかな。」

藤田さん「例えば選考委員の田中さんなんかは、非ピアノトリオの作品に重点をおいて点数を入れていたし、他の委員も管モノはなるべく気を付けて点数を入れていたはず。でも、哀しいかな上位に入ってくるのがないんですよ。」

平井さん「でもほら、管が入っているCDも結構入賞してるよ?リーダーじゃないだけで。」

吉田さん「我々もどうしても自分で買って聴いているから、聴ける限界があるんですよね。」

藤田さん「そういう意味では、”これ良いよ!”と、もっと推薦して貰いたいんですよ。じゃないと、どうしても自分の好みで買って聴くから埋もれちゃう。そういう意味では、もっと一般からの推薦を募って、そこから選考していけるように、どんどん進化させていきたいですね。選考委員新参者の自分が言える立場じゃないですけど。」



ということで、2011年度以降のジャズオーディオ・ディスク大賞の更なる発展に期待を込め、岩浪さんのご挨拶でイベントは終了致しました。

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イベント終了後、後藤先生から「もっと喋れば良かったのに!」と言われてしまいましたが、いやいや、お歴々がココまで盛り上がっているところに私なんか入る余地無いですよ!(笑)




寺島さんが「じゃぁ、軽く2次会に・・・」と言っていたのだけれど、「軽く」終わられてしまうと終電を逃すだけで家に帰れなくなってしまうので、今日のところはさっさと退散することに。

これが「重く2次会」だったら、始発覚悟でお付き合いできたのですが・・・



ともかく、本日のイベントも非常に有意義でした。

やっぱりこういう環境で「ジャズオーディオ・ディスク大賞」作品を聴かなきゃダメでしょう。


よ~し・・・我が家のオーディオでもRosset Meyer Geigerの「What Happened」で、あのシンバルの炸裂音、バスドラの空気を揺るがすようなスピード感のある低音を出すぞ!
などと考えながら家路に着いたのでありました。


皆さんも是非、ジャズオーディオ・ディスク大賞作品に挑戦してみて下さいませ。