テレビなんかを見ていますと、よく「演技派俳優」「実力派俳優」なんて言葉を聞きます。

この単語がどうにも好きになれないのです。

 

彼らに言わせれば「演技派俳優」や「実力派俳優」というジャンルがあるわけです。

このジャンルを冠することができるのは所謂「うまい」と呼ばれている俳優たちであります。

(俳優は男性だけでなく女性も含めて使っています。)

そうなると必然的にそう呼ばれない俳優はなんと呼ばれるのかと疑問に思うわけです。

 

これはなんとも面白い現象であります。

当の制作側が俳優には上手い人だけでなく、下手な人もテレビや映画に映っていることを認識しているのです。

同時に、もしそうであるならば、あまりにも失礼な話です。

もちろん俳優ではなく、視聴者の皆様に、です。

俳優はそう評されないのであれば、自分の実力を呪えばよいだけの話ですが、お客さんはそうではありません。

作品を売る上で、俳優が下手であれば話が通じないのでありますから、それは欠陥品です。

たしかにテレビは支払いをしていませんが(NHKを除く)視聴者は視聴するという対価を払うことで無料で見れているわけです。

テレビとしてはその対価を得ることで信用を得て、スポンサーからお金を頂いているわけですからね。

映画なんてもっての外です。

 

では、なぜ日本ではこういった「置物派俳優」が映像に出て、お金をもらえるのでしょうか。

これはみなさんお察しの通りですが、需要があるから、というわかりやすい理由です。

日本は芸術に対して理解が非常にない国ですので(誰になんと言われようとこれは間違いのない事実です。芸術人口と助成金が物語っていますから。)「芸術的に優れている作品」よりも「見たい人」が優先されるわけです。

「物語」ではなく、「見たい誰か」がいれば十分経済として成立してしまっているのです。

つまらないからお金を払わない、ではなく、最悪つまらなくても見れないよりはマシ、状態です。

 

俳優について考える前にモデル業界を考えてみましょう。

モデル業界は特に分かりやすく変わってしまいました。

それまではランウェイはもちろん、ファッション雑誌の表紙を飾るのは「モデル」さんでした。

今ではどうでしょうか。

そうですね、アイドルや俳優がファッション雑誌の表紙を飾るようになりました。

それは彼らのほうが本が売れるからです。

ファッション雑誌が売れなくなった時代に売るために日本人が考え出したのは、服をより素敵に見せるモデル、ではなく、ファンのより多いアイドルの起用でした。

この人達はその後雑誌の表紙だけでなく、ランウェイも歩くようになってしまいます。

同じ理由です。

 

また、もう一つやってしまった失敗は「読者モデル」という枠を作ったことです。

本来モデルの仕事と言うのは、ランウェイを歩くことが基本と言われます。

よく見るファッションショーのやつです。

それに加えて、スチール(Stillから来ていて、静止画のことです。)やCM用にカメラ芝居などが求められます。

そういったものをすべて満たして「モデル」と評されるわけです。

ですが、本を売るために現れたのが「読者モデル」でした。

正規のモデルではなく、素人のかわいい子やインフルエンサーになりそうな子を「スチールのみのモデル」として雇うようになったのです。

それが「読者モデル」です。

彼女たちは元は素人なわけですからギャラも安いですしね。

 

この読者モデルたちは案の定、ウケました。

その結果、彼女たちもまた、ランウェイに逆進出することになります。

ファンも多いですから都合もよいです。

しかし、モデルとして一番大切なモデルウォークなんてできません。

渋谷をあるく女の子となんら変わらない歩調で歩きます。

その上、彼女たちはモデルなのにランウェイで「笑う」のです。

これはご法度です。

モデルの仕事は「自分」ではなく「服」を見せる仕事なので絶対にしてはいけないことなのです。

このことはそれまで努力してきたモデルの仕事をすべて無きものにしました。

たしかにパリコレを目指すことはまだできても、少なくとも日本に彼女たちの未来はなくなりました。

ともかく、いつの間にかファッションは「服」をよく見せる時代から、「誰」が着ているか、が大切になってしまったのです。

(ファッションについてはこの記事も参考にしてくださいませ。)

 

今問題なのは、これが十分俳優業界にも起こりうるということです。

絶対に誤解して欲しくないのは、他業界への進出が問題というわけではありません。

一般会社員が転職するように、芸能人であっても転職はすべきです。

並行してもよいです。

しかし、もともとそこの畑を一生懸命に耕してきた人がいるのです。

それを「金になるから」というもっともみっともない理由で、その業界にリスペクトも示さずに踏み荒らすのはあってはいけません。

ただでさえ経済至上主義を突き詰めて海外に教育や芸術、すべてで遅れているのに、これ以上これを突き詰めてどうするんだという話なわけです。

俳優をやりたいのであれば全員が「演技派俳優」でなければいけないのです。

事務所も、制作側もそうでない人を雇ってはいけないのです。

でないと、何も守られません。

 

そうはいっても、一ついいニュースがあります。

それは視聴率の低迷です。

制作側はYouTubeの時代だから、ビデオオンデマンドの時代だからと考えているかもしれませんが、それだけではありません。

テレビを見たところで、置物派俳優ばかりでただのショールームになっているからドラマを見なくなっているのです。

ショールームをどうせ見るならみんなIKEAに行きます。

そうでしょう?

 

また、わたしはイケメン俳優業界といわれるところにこれでももう6年くらい身を置いています。

それも出演者ではなく、スタッフとしてです。

ですから人一倍お客様を俯瞰して見てきたつもりです。

そんなわたしが感じるのは明らかにお客さんの反応が変わってきたということです。

以前は、ムービングや映像や殺陣などがあるだけお客さんは非常に興奮しておりました。

しかし、最近ではそれだけで興奮する人が減りました。

推し俳優に対するリアクションもかなりドライになりました。

 

逆にどういう時にファンが興奮するかというと良い作品を見たときです。

ツイート数がまるで違います。

本番中、駄目な作品の時はエゴサーチをしてもほとんどが「譲渡や転売」みたいなツイートです。

作品の褒めはほとんどありません。

あっても、俳優への直接のリプライです。

しかし、良い作品だと感想ツイートで溢れかえります。

つまり、お客さんも「良い作品」で興奮したいのです。

もう「顔だけ」の「置物時代」ではないのです。

 

特に若手俳優に言えることですが、これに気づかないと本当に将来仕事がなくなります。

それは自分の仕事が、ではなく、芸能人として仕事できる場がなくなるということです。

経済学の基本で市場は理性的な人間で構成されている、なんて言います。

お客さんは非常に理性的で正直だと言うことです。

面白くない=この世に必要ではないものは淘汰されます。

ですから、我々作り手が必死になって面白いものを作り続けないといけないのです。

このままでは、仕事ができなくなるでしょう。

 

お金のために仕事を受ける時代はもう終わりです。

 

 

下平