夢見させるようなことを言うな | Poco a poco -難病と生きる-

Poco a poco -難病と生きる-

スペイン語の「poco a poco」は、日本語では「少しずつ」「ゆっくりゆっくり」という意味です。遺伝性による神経難病、脊髄小脳変性症を患っていると診断された2015年7月(当時34歳)以降、少しずつ身体が動かなくなる恐怖と闘いながら、今日を生きる僕の日記です。恐縮です。

PTリハビリ中。自室にて。訪問看護ステーションから、いつものセラピストが、学生を連れて訪れる。このPT(理学療法士)の時だけ、見学の学生を連れて来る。きっと、職場でも信頼されているのだろう。出世頭だ。いいな。羨ましい。違う。話題は件の学生について――。

 

普通は、学生ともなると、緊張して、現場では大人しくなるのが常である。違った。例の女学生は、介入してくる。大人しく座ってはいるが。例えば、話題がサッカーワールドカップに及ぶ。寝不足は大丈夫ですかとPT。好きな選手は誰ですかと、すかさず学生がアプローチ。

 

サラウンドシステムで、作業用BGMを流す。画面に映る広大な景色を見て、学生が言う。「綺麗ですね」「登山がお好きなんですよね」「どの山に登られましたか」「凄いですね」。PTが口を挟む。「これまで踏破してきた山で、一番綺麗だった景色は――」。少し悩んで答える。

 

 

富士山かな(素直に硫黄岳だと答えても、分からんだろうし)。彼女が反応する。「どれぐらい時間が掛かりましたか」。そして、僕にとっては禁断の、あの質問が降ってくる。「もし次に登るなら、どの山に登りたいですか」。刹那、感情がグチャグチャになる。思考が停止する。