夏目漱石は、心を病んでいた。
漱石が英国留学をした際に、
背も鼻も高く立派な欧州の人と
じぶんの姿を比べてショックを受けて
ノイローゼになってしまったんだと
その後の講演で話しているんです。
「私の個人主義」という講演です。
向こうから猿みたいなヤツが来て、
どこのだれだと思ったら(鏡に映った)
じぶんだった、と言っていますけれど
ほんとうは、背格好のことだけで
そんなふうに考えたわけではなくて。
西洋のものをどんどん持ってきて
体裁だけで近代化しようとしている
日本の「文明開化」が、漱石には、
欧州の鏡に映ったじぶんの姿のように
薄っぺらいものに思えたそうです。
できあがるまでの苦労を、
さんざん苦労して苦労して苦労して、
人が死んだり迫害されたりして
やっとたどりついたものを、
その苦しみを省いておきながら
できたものだけを持ってくることは、
鏡に映ったじぶんの姿のように
醜いことなんじゃないだろうか、と。
そして、夏目漱石は、心を病んだ。
結局、漱石は元気になるんですけれど
「自己本位」ということを発見して
心の安定を取り戻したんだそうです。
欧州人と比べるのではなくて、
じぶんのことにもっと集中しよう。
欧州人のこれまでの苦労は
どうやったって欧州人以上に
理解することは不可能だけれど、
じぶんのことならだれよりも
理解できるはずだ、と。
日本から希望を持って留学して
鏡に映ったじぶんの姿を見たとき、
感じた圧倒的な絶望感のことを
他のだれよりも理解しているのは
じぶん自身なんじゃないか、と。
帰国後、漱石は、
じぶんのことをたくさん書きます。
夏目漱石の作品を読んで思うのは、
漱石(じぶん)にしか書けないことを
だれにでも読めるように書くのが
とんでもなく上手だな、と。
じぶんにしか書けないことを、
だれにでも読めるように書くことが
漱石流の文章の書き方ですね。
ああ、お手本にしたい。漱石先生。
今日も、「わくわく海賊団」にきてくださってありがとうございます。
きれいな花を見て
感じる「きれい」は、
人それぞれちがっていて、
じぶんだけが感じた「きれい」を
みんなにわかるように書けたら、
人のこころを動かすのかも。