一般病棟に移った妻はこの日、早くも歩行練習を始めていた。
「え、この人、一昨日の夜に肝臓摘出してるんですけど」と思ったが、起き上がったり、寝ている体勢を変えたり、歩き回ってみたりすることが術後の回復にとって非常に有益なんだそう。血栓もできにくいし、筋肉も落ちにくい、さらには痰もたまりにくいと良いこと尽くめな中、唯一良くないのは患者自身がえらくしんどいことである。
この日、妻はスパルタなリハビリを頑張っては、硬膜外注射の麻酔を打って眠るというサイクルで過ごした。ICUで硬膜外注射を使っていなかったのは、あまり痛みを感じていなかったからではなく、しんどすぎてそもそも硬膜外注射のボタンがどこにあるのか分からなかったかららしい。
硬膜外注射を打ち過ぎることは早期回復を目指す観点から望ましくないため、一定量以上使用できないようにロックがかかる上、前回の使用から一定時間以上が経過しないと再度使用することができないよう、自動でコントロールされている。
昨日より痛みがひどくなってきた妻は、ロックが解除されるや否や硬膜外注射を使い、またロックされるといった状態であった。