スキーをやってよかったこと
いつも慶應義塾体育会スキー部を応援してくださっている皆さまこんにちは。本年度主将を務めさせていただいております、鈴木一生です。2025年も残すところ2週間となり、だいぶ気温も下がってきましたね。幣部の部員たちも、ヨーロッパや中国、北海道で練習を積んでいるようです。私はと言いますと、これまでスキーをするためかなりおざなりにしていた冬季の単位取得など都内での予定が思いのほか立て込んでおり、物心がついてから初めて東京で冬を過ごしております。とはいってもインカレに向けて滑り込みが必要ですので、週末は雪山で過ごすことが多く、このブログも菅平高原にて執筆をしております。今シーズン限りでスキーを引退することを決意し、世界への挑戦をやめてからというもの早いもので7ヵ月以上が経過しましたが、今までであればレースシーズンに突入し、ピリピリした緊張感と共に練習に励んでいるこの時期に雪上に立っていないのはとても新鮮です。前回のブログでは就職活動を始めた、というような内容も書かせていただきましたが、約半年に渡る就職活動もひと段落いたしました。たくさんの学びと出会いに恵まれた半年を過ごさせていただき、自分自身も大きく成長する機会になったと感じます。新たなインプットを求められる一方で、面接などでは自分のこれまでの人生や、考えてきたことを伝える機会も多く、自分の経験の棚卸しをする機会にもなりました。その中で、改めてスキーをやってよかったと思うことばかりでしたので、最後のシーズンを迎えるにあたってこの場をお借りして言語化しておきたいと思います。スキー界に育ててもらったと本気で思っている私からすると、良かったことを挙げだすとキリがないので、今回は高校生以降(勝手に世界挑戦編と名付けています)のスキー人生で得たものから3点ピックアップさせていただきます。以下の3点が、私が現在感じている「スキーをやってよかった」と思うポイントです。1.技術を追求する中で高強度な試行錯誤をすることができた2.負け続けることでレジリエンスが身についた3.世界を目指す中で「プロフェッショナリズム」に触れることができたまず1点目の「高強度の試行錯誤」についてですが、スキーの競技力向上を目指すにあたっては、正しい技術の追求は必要不可欠です。1日に何球でも練習できるゴルフやテニス、野球と異なり、環境面での制約や身体に大きな負荷がかかることから、強度の高いスキーの練習は1日に多くても10~12本ほどが限度であり、その中で進歩をしていくためには、限られた試行回数の中で質の高いPDCAのサイクルを回すことができなければ競争には勝てません。また、スキーはデータサイエンスが持ち込みづらい競技であることから、与えられている情報が少ない中で何が正しい方向なのかを見極める必要があります。世界トップレベルの環境に身を置きながら、何が進歩のために必要なのかを考え、試行錯誤をした毎日は、「何かを極める」うえで今後も活きてくるだろうと感じています。一方で、この夏に感じたことは、スキーは17年間ほどやってきたので技術において何が重要なファクターなのかある程度わかっていますが、新たな分野での試行錯誤をするには、その分野でのKPIが肌感覚レベルでわかっている必要があり、それには沢山の時間がかかるんだろうなぁと感じました。2点目の「レジリエンス」についてですが、試合に負けまくる中で、それを乗り越えるためのマインドセットが身についたと感じています。たった今、FISのサイトで自分のこれまでの成績を確認したところ、289回スタートを切って優勝したのは7回のみでした。もちろん敗北を悔しがる気持ちも大事ですし、負けることが前提になってもいけないのですが、スキーを通じてうまく行かない時にどう次に繋げるか、という考え方を学びました。自然を相手にしたスポーツであることから、理不尽な負け方をすることもたくさんありますが、スキーを長年やってきた先輩方はみな敗北との折り合いのつけ方が上手だなという風に感じます。(余談ですが、スキー界にたくさんいらっしゃる農家の方々も理不尽への耐性がすごいと感じる場面が多かったです)また、トップレベルの競技環境ではずっと右肩上がりに成績が向上する人はほぼおらず、努力が結果に現れない中でも自分を信じ続ける粘り強さも身に着けることができたと思います。最後に、「プロフェッショナリズム」についてです。これは、高校生で初めて日本代表のメンバー入りした際の先輩方や、ヨーロッパのプロチームに在籍した時のチームメイトやコーチ陣から学んだことであり、最も世界を目指してスキーをしてよかったと思う点です。彼らは全員スキーで生計を立てている人たちだったので、文字通りプロのスキーレーサーだったのですが、なにより刺激を受けたのは、スキーに対する取り組み方がそれまで会ったスキーヤーとはまるで違ったことです。特に印象に残っているのは、プロチーム在籍時のコーチからチーム全員へのチャットの一文です。”If all of us keep working as professional as we can, every day, every session, every run, we can achieve big things but you guys have to be the first ones to believe in yourselves! It's about the commitment, and in the end, fortune favors the bold!”自分流に訳すと、「チームの全員が、毎日、毎セッションで、練習の1本1本をプロとしての自覚を持ちながら全力を尽くすことができたのであれば、必ず大きなことを成し遂げられる。ただし、そのためには、まず君たち自身が自分を信じることが必要だ。重要なのは“覚悟”であって、人事を尽くした者に運は味方する!」本当にできることを全て遂行していると感心させられるようなプロフェッショナルたちに囲まれながら、自分自身も「こういう時プロフェッショナルならどうする?」と自問しながらスキーに打ち込むことができたおかげで、たくさんの応援してくださる方に恵まれ、オリンピックには届かなかったものの自分が到達できる限界まで行けたと胸を張って言えることができます。1年生にはあまりスキーヤーとしての背中を見せれていない不安はありますが、スキー部の後輩たちには、できることを全部やる姿を見てもらえていたなら主将としてはこれ以上ない喜びです。社会人になっても、自分の仕事に対してプロとしての自覚をもって向き合えるよう努めたいと思います。かなり長い文章になってしまいましたが、明日も4時起きで練習です。インカレに向けて全力で頑張ります!次は主務の青木です!