2023年2月6日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の伴走で伴奏」第64回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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SNS利用術学ぶ教育を今こそ 回転ずし屋事件で非常識が露呈

 

 大手の回転ずしチェーン「スシロー」の店舗で、若い客が卓上のしょうゆボトルの注ぎ口などをなめ、その様子を撮影した動画がSNSで流れた。この動画はまたたく間に拡散され、マスメディアでも報道される事件となった。

 この若者は軽い気持ちで行為に及んだのかもしれない。だからこそ誰でも見られるサイトに投稿したのだろう。だが、これは明らかに犯罪である。しょうゆボトルの注ぎ口などをなめる不潔な行為は器物損壊に問われかねない。動画を見た人はこの店にすしを食べに行く意欲がうせ、店も多大な損害を受ける。売り上げが減るだろうし、この事件でスシローの株価は一時下げている。これは威力業務妨害に当たる。

 事態を重く見たスシローは刑事告訴すると公表している。また、店の信頼を損ない、売り上げ減の大きなダメージを受けたことで、民事訴訟も検討中という。軽い気持ちで犯罪に手を染めた若者は、とてつもなく重い代償を背負うことになるだろう。

 誰でもSNSを簡単に利用できる時代である。誰でも自分の意見を述べるなど、自己表現できる場が広がった。政治家や企業もSNSを利用して政策のアピールや新商品の宣伝などに努めている。SNS以前はマスメディアに紹介でもされない限り個人の意見や行動がクローズアップされることはなかったが、今はSNSを使うことで一人一人が大きな影響力を手にした時代だといえる。

 その一方で、今回の事件のようなことも多発している。この原因はさまざまだろうが、一つにはSNSの影響力に、あまりにも鈍感なことがあるのではないか。書き込みや動画を発信して目立つことばかりに意識が集中し、拡散後の結果にまで考えが及んでいないように思える。

 スマホが1人1台の時代となり、誰でも情報の入手や発信が自由になった今、メディアリテラシーの教育がますます必要だと感じている。メディアリテラシーなどと大げさなことは言わなくとも、SNSの正しい使い方と影響力について学ぶ機会を設ける必要があるのではないか。

 幼いころ、「横断歩道を渡る時は左右を見て渡りましょう」と教えられた。今は「スマホで動画を撮る時は、人が不快に思うことはやめましょう」という教育が必要になった時代だと、今回の事件を見て感じる。ただし、これは子どもだけが必要な教育ではなく、大人になって初めてスマホを手にした中高年にも同じことが言えそうだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)