2020年1月30日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の現代進行形」第192回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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プロに近い情報発信で経験積む 学生メディアの現場に密着

 

 サンフランシスコ州立大学の春学期が始まった。今学期は学生メディアの運営を間近で見せてもらおうと思っている。それは、ワシントンDCで昨秋ジャーナリズム教育の大会に参加した際に、全米各地の学生新聞がずらりと並ぶ光景を目にした時の驚きが今も脳裏にはっきりと刻まれているからでもある。

 サンフランシスコ州立大学の「ゴールデンゲートエクスプレス」は、途中で名称変更はあったものの、1927年設立の学生メディアである。60年代にジャーナリズム学科が設立されて以降は同学科の学生たちが運営している。学期中は、紙の新聞が週1回、雑誌が1学期につき2~3回発行され、ウェブサイトは随時更新される。

 授業の一環として運営されており、学科の教員たちがアドバイザーとして相談に乗る形になっている。だが、ウェブサイトにエディターや記者としておのおののメールアドレスまで掲載されているのは学生たちの名前である。また、「独立の精神を持ち、正確な情報をサンフランシスコ州立大学のキャンパスおよび(サンフランシスコ周辺の)ベイエリアのコミュニティーに届ける」ことを使命としてウェブサイトに宣言している。

 つまり、読者は学内に限られないことを想定しており、意識としてはプロのメディアに近い。内容も、学内の出来事に加えて、山火事、大統領の弾劾、性的少数者、スーパーボウル…等々ごく一部を拾うだけでもその幅広さがわかる。マルチメディアの時代にふさわしく、文字だけではなく、写真、グラフ、ポッドキャスト、ビデオで、情報を伝えている。

 春学期が始まる数日前には、3日間にわたって研修も行われた。編集用ソフトウエアの使い方を学ぶ時間、どのような情報を伝えていくかをめぐる学生たちの議論に加え、「エクスプレス」の歴史を知る時間も設けられた。アフリカ系米国人の男児の写真を差別問題とは無関係な記事に載せて激しい抗議を受けたこと、パレスチナ問題をめぐる学内の学生間の対立など、具体例も示された。

 同学科でジャーナリズムをめぐる法律の講義を担当する弁護士も研修にやってきて、盗作や名誉毀損(きそん)などさまざまな訴訟リスクについて説明した。さらに、在学中に「エクスプレス」の発行に関わり今はメディアで働く卒業生たちを招いて、睡眠時間を削ってまで発行にこぎつけた当時の苦労話や、仕事を得る際に「エクスプレス」での経験が大きく役立ったことなどを話してもらっていた。

 締め切り間近の緊張感の漂うニュースルームを目にした翌朝、新チームによる最初の新聞を手にした時は、当事者でない私もなんだかわくわくした。回を重ねるごとにジャーナリストらしさを増していくであろう学生たちの姿を、これからじっくり見せてもらうつもりだ。

 (近畿大学総合社会学部教授)