2017年3月16日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の現代進行形」第46回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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そんな“関西弁”使わへん 物議醸した経産省の万博報告書

 

 私が大阪に住んで通算13年。いまだに「金井さんは関東の人だから◯◯なんですね」という言葉には慣れない。確かに私が生まれ育った日野という町は東京の西の隅にあるし、東京は関東の一部だ。それでも、自分が「関東の人」というくくりに入るとは自覚しないまま過ごしてきた。ただし、出身地を聞いて「この人は◯◯な人物なのだろう」と推測して区分けすることは、誰でもやってしまいがちなことではある。

 

 だが、数日前に目にしたニュースは度を超えていた。「関西人」をひとくくりにした上でバカにしたとしか思えない内容が政府の資料にあったのだ。

 

 2025年に大阪での開催を目指す万博の誘致のために経済産業省が作成した報告書案の「関西弁バージョン(試作品)」と銘打ったものが作られた。大阪開催を目指すのだから、そこの方言で報告書を作るアイデアは面白い。

 

 ちなみに、「関西弁」というものは存在しない。「大阪弁」の中にすら地域によって違いがあるほどなのだ。経産省も「『関西弁』ちゅうのは実際ないけどな。あと、こんな言い方せーへんとか、細かいこと言わんといてな」と“逃げ”を打ってはいる。いずれにせよ、“ネーティブ”に聞いてみると、明らかにおかしい言葉遣いの羅列だったようだ。

 

 いや、百歩譲って言葉遣いがおかしいのは目をつぶろう。だが、その内容が偏見に満ちあふれたひどいものだったのだ。共通語で書かれたオリジナルでは、万博の役割について「人類共通の課題解決を提言する場」と書いているのに対し、関西弁版は「人類共通のゴチャゴチャを解決する方法を提言する場」とした。さらに、「主なゴチャゴチャの例」の中に後者は「社会重圧、ストレス(例えばやな、精神疾患)」とまで書いたのだ。ちなみに、前者では「社会重圧、ストレス」とのみ記され、「精神疾患」には全く触れていない。

 

 また、日本で万博を開催する意義について「他国は日本の課題や対策の成果を参考にしながら、対策を考えていける」を「よその国は日本の課題や対策の成果をパクりながら対策を考えていけるっちゅうわけや」と“翻訳”した。「参考にする」と「パクる」との間には天と地ほどの差があるのは言うまでもない。しかも盛り込まれているシャレもいまひとつ面白くない。

 

 言葉遣いを変えると自動的に内容まで下品なものに変わるというのは、あまりに無礼な話だ。万博を大阪で開催することへの官僚の目とはそんなものだったのかとも思えてくる。今回の件はたまたまその矛先が関西に向かったが、地方に対してそのような態度しか示せない人々がこの国を動かしていることが情けなくなってくる。バカバカしくてマジメに取り合うことすらはばかられる。「アホちゃうか」と吐き捨てて前に進むしかなさそうだ。ただし、他山の石として肝には命じておきたい。

 

 (近畿大学総合社会学部准教授)