2017年2月9日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子の現代進行形」第41回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

↓↓↓↓↓
 
 

 「ほいけんた」という芸人をご存じだろうか。よく知っているという人はまだ少ないかもしれないが、日本テレビ「行列のできる法律相談所」の再現ドラマで明石家さんまさん役を演じている人と言うと、認識できる人もいるだろうか。

 

 実はほいけんたさんは私の幼なじみだ。東京の郊外に昭和30年代に建てられた団地群の中で、私は生まれ育った。250棟近くあった建物のうちの4階建ての一室に住んでいたのだが、同じ棟にほいさんも赤ちゃんの頃に転居してきて、小中学校時代を共に過ごした。

 

 その彼と中学卒業以来約35年ぶりに再会したのは、昨秋地元で開かれた小学校時代の同窓会でだった。芸人として活動していることは他の友人から聞いていたし、テレビでも見ていた。でも、仕事ではなくプライベートな場で“商売道具”を披露してくれるのだろうか、私から「物まねやってよ」とは言いづらい、などと考えていた。だが、心配無用、みんなに囲まれた彼は惜しげもなくすばらしい芸を披露してくれた。

 

 ひょろりと背が高く丸顔の中学生だった彼が特にさんまさんに似ていた記憶はない。久しぶりに会っても顔が少し面長になった程度でそれほど大きく変わってはいなかった。でも、“さんまさん用”の出っ歯の入れ歯を入れた途端、変化が起きた。それまでの低音の東京弁がウソのように消え、高くしわがれた関西弁に切り替わっただけでなく、表情や顔のシワまでもが一気にさんまさんのそれになったのだ。憑依(ひょうい)とはこんなことなのか、という言葉が頭の中に浮かび、思わず鳥肌が立った瞬間だった。その後もさんまさんだけでなくさまざまな有名人になりきって話す姿に、私も同級生たちも大喜びだった。

 

 さて、今回のコラム、同級生を自慢してほいけんたさんを宣伝したいという下心ももちろんある。だが、同窓会出席をきっかけにもうひとつ考えていたことがある。それは学校における居場所の話だ。

 

 というのは、私は小学校だけでなく中学校、高校時代の同窓会にも参加している。だが、ある同窓会に友人を誘った時に「あのクラスにはいい思い出がないから行かない」と断られたことがあった。私も似た思いをしたことがある。

 

 中学時代にいじめに遭った私は、大人になってからも長い間「中学時代は暗黒時代」だとして封印し、ごくわずかな同級生としか会おうとしなかった。何かをきっかけに吹っ切れた私は同窓会に出るようになったが、“暗黒時代”を封印している人は今も少なくないだろう。

 

 教員となった私は、授業を欠席する多くの学生に遭遇している。単なるサボリならば尻をたたけば済む。だが、“居場所がないために行けない”学生たちにも出会った。彼らが大学時代を“暗黒時代”として封印せず将来の同窓会にも参加できるようにするために、いま私は何ができるのだろうか。

 

 (近畿大学総合社会学部准教授)