2016年4月12日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第294回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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隠したい情報はバレる パナマ文書とジャーナリズム

今年の夏に行われる参院議員選挙への出馬が取り沙汰されていた人物の不倫問題や、政治資金収支報告書に膨大なガソリン代が計上されていた衆院議員の件。大きな影響力を持つ人や権力に近いところにいる人がこのように情報を隠蔽(いんぺい)しようとして、それが漏れてしまった場合のリスクは非常に大きい。

 隠されていた情報が漏れると言えば、「パナマ文書」がいま大きな話題となっている。租税回避地への法人設立を代行するパナマの法律事務所の金融取引に関する過去40年分の内部文書が流出したのだ。世界の要人やその親類・友人の名前がかなり挙がっており、アイスランドでは首相が辞任に追い込まれた。これは、アメリカ国家安全保障局による個人情報収集の手口が暴露されたスノーデン事件と同じように、各国を揺るがす大問題にさらに発展する可能性が高そうだ。

 いくら秘匿しようとしても、情報というものは必ず漏れるという意味では、パナマ文書、スノーデン事件、ウィキリークスも、そして冒頭に書いた不倫やガソリン代の件なども本質的には同じであることが示されたと言えるだろう。

 情報が外部に漏れることに関しては、アナログ時代と違って情報のデジタル化が進んだ現代は漏えいがしやすくなったとも言える。たとえばパナマ文書のデジタルデータは2・6テラバイトもあり、その文書を印刷すれば膨大な量となり、これをいちいちコピーして持ち出すことはほぼ不可能だ。しかしながら、コンピューター上のデータならコピーすることもメールで送信することも容易である。

 ただし、流出が容易になったとは言え、なんとかして隠そうとされている情報を暴き出すにはまっとうなジャーナリズムの手を借りなければならない。事実、今回のパナマ文書の件でも国際的なジャーナリスト集団が大きな威力を発揮している。ジャーナリズムが権力を監視していなければ国家はいずれ暴走し、結果として国民が不利益を被ることになってしまう。

 これまでのところ、今回のパナマ文書の件では日本や日本人への影響がどれほどあるのか現時点では全貌が見えていない。だが、仮にこの国にも強い関係があることが見えて来た際には、日本のマスコミの出番である。遠慮することなく隠された情報を暴き出せるような健全なジャーナリズムがこの国にも発展していることを望みたい。その状況は、何もパナマ文書に限らずさまざまな場面で必要になってくるだろう。

 (近畿大学総合社会学部准教授)