2016年3月28日付の大阪日日新聞に、週刊コラム「金井啓子のなにわ現代考 世界の現場からキャンパスへ」第292回分が掲載されました。 本紙のホームページにも掲載されています。

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「非常識」な訪日客と国際化 目の前で知る異文化

 政治・経済・文化など、日本が国際社会の主役の一員であることに疑いはない。私たちも「国際化」という言葉を日常的に使い、国際社会の一端を担っているとの自覚がある。しかし、日本はいま本当の意味で国際化の波にもまれているのではないかとつくづく思う。

 日本政府観光局が今月半ばに発表した2月の外国人観光客数(推計値)は、前年同月比で36・4%増の189万1400人に上ったという。円安に伴う割安感や、格安航空会社(LCC)路線の拡大などの背景に加え、春節休暇で中国や台湾などから日本を訪れる観光客も追い風になった。

 海外からの観光客は年々増え続けており、これからもしばらくこの傾向は続くと予想される。大阪でも中国や韓国、マレーシアなどからの観光客を見ない日はない。ミナミなどでは観光バスが列をなして止まっており、街を歩けば大きな買い物袋を抱えた一群に出会うことがある。「爆買い」のおかげで繁華街の小売店や一部の量販店は大いに潤い、観光客を運ぶバスや電鉄などの輸送会社は大幅に利益を上げているという。

 その一方で、「外国人観光客はマナーがなっていない」「そこらじゅうにごみを平気で捨てて困る」「トイレの使い方が汚い」といった批判的な声を聞くことも多くなった。筆者も知っている老舗ホテルの幹部スタッフも「爆買いで買って来られた電化製品などの箱を部屋に捨てて帰られるため、お客さまがホテルを退去した後、山のように積み上がった箱の処分に担当者が追われています」と困った顔で言われたことがある。「郷に入れば郷に従え」という言葉はあるが、なかなかそれを受け入れてもらえないのが現実だ。

 だが、国際化というのは本来、そういう側面も併せ持つのではないのか。「英会話を学んで外国人の方々とコミュニケーションを図る」のも国際化のひとつだろうが、文化が異なれば生活習慣や社会通念が異なってくることを理解することも、国際化とは何かを学ぶ上で大切なことだろう。日本人には当たり前だと思っていた常識やマナーが他国では決して当たり前ではない。日本人には眉をひそめる行為も、他国では常識だったりする。外国人観光客が大挙して押し寄せている現在、それを目の前で知ることも本当の国際化ではないだろうか。

 海外からの観光客が増えるのは日本経済にとって非常にありがたいことである。と同時に、異文化を理解し、受け入れることも私たちは忘れてはいけないのだ。

 (近畿大学総合社会学部准教授)