中国のEVといえば、
BYD。
電池なら、
CATL。
中国の技術力について調べると、
どうしても、
有名な一社へ目が向く。
しかし、
中国の本当の強さは、
BYDでも、
CATLでもなかった。
その会社の後ろにある、
巨大な産業の塊だった。
前回、
中国が、
巨大な人口の中から人材を選び、
大学や職業教育、
そして工場の現場で、
大量の技術者を育ててきたことを書いた。
しかし、
人材が多いだけで、
産業が強くなるわけではない。
工場。
部品会社。
材料会社。
物流網。
巨大な市場。
それらが、
つながっている必要がある。
中国には、
そのつながりがあった。
例えば、
EVである。
EVは、
自動車会社だけでは作れない。
電池。
正極材。
負極材。
電解液。
モーター。
インバーター。
パワー半導体。
センサー。
カメラ。
車載ソフト。
充電器。
レアアース加工。
車体製造。
さらに、
EVを大量に走らせるには、
発電設備や、
送電網まで必要になる。
一台のEVの後ろには、
巨大な産業が、
ぶら下がっている。
そして中国には、
その多くが、
国内にある。
国際エネルギー機関、
IEAによると、
2025年、
中国は、
世界のEV生産の、
約70%を占めた。
電池セルの生産は、
80%を超える。
正極活物質は、
約85%。
負極活物質は、
90%を超えた。
数字にすると、
かなりの偏りである。
これは、
中国に、
強いEVメーカーがある、
というだけの話ではない。
世界中から資源を集め、
使える材料へ加工する。
部品にする。
車へ組み込む。
大量生産し、
世界へ輸出する。
その長い工程の多くが、
中国につながっている。
しかも、
中国の強みは、
資源を持っていることだけではない。
中国国内で採れない資源もある。
2025年、
中国は、
リチウム、
コバルト、
リン、
マンガン、
黒鉛などの精製で、
世界の70%から95%を占めた。
LFP電池に使われる正極材では、
中国の生産比率は、
98%に達している。
完成車工場を他国へ移しても、
電池材料や電池、
モーターに使う磁石を中国に依存すれば、
中国のサプライチェーンから、
離れたことにはならない。
中国の強さは、
完成品だけではなく、
途中の工程にあった。
そして、
部品会社が近くに集まると、
製品を作る速度まで変わる。
電池の仕様を変える。
試作品を作る。
車へ載せる。
問題が起きれば、
また設計を変える。
この往復が速い。
前々回書いた工場。
前回書いた技術者。
さらに、
材料、部品、物流。
すべてが近くにあるから、
新製品を、
速く、安く、大量に作ることができる。
中国企業の商品開発が速いのは、
速く作れる産業が、
すぐ後ろにあるからだ。
もちろん、
政府の支援も大きかった。
融資。
購入補助。
充電設備。
地方政府による工場誘致。
中国は、
車を作らせ、
買わせ、
使える環境まで整えた。
しかし、
補助金を出せば、
世界で売れるEVが、
自動的に完成するわけではない。
政策で産業を始めることはできても、
動かし続けるには、
原価、品質、生産速度、
そして販売力が必要になる。
産業の塊には、
もう一つ強みがある。
一社が失敗しても、
すべてが消えるわけではない。
技術者は、
別の会社へ移る。
部品会社は、
別のメーカーへ売る。
工場や製造装置も、
別の企業が利用することがある。
中国では、
大量の企業が参入し、
大量に競争し、
大量に失敗した。
しかし、
そこで積み上げた経験は、
産業の中に残っていく。
一社が倒れても、
次の会社が出てくる。
これが、
一社だけが強い国との違いだった。
さらに、
EV産業で育った、
電池。
モーター。
半導体。
センサー。
制御技術。
これらは、
EV以外にも使うことができる。
EVが増える。
電池の生産量が増える。
大量生産によって、
電池の価格が下がる。
安くなった電池を、
今度は、
大型蓄電設備へ使う。
蓄電池が安くなれば、
太陽光発電や、
電力網でも使いやすくなる。
一つの産業が伸びると、
隣の産業まで強くなる。
これは、
単なる部品の使い回しではない。
一つの産業で育った、
工場、材料、部品、技術者を、
次の産業が利用する。
だから中国は、
新しい産業を、
完全なゼロから作る必要がない。
その産業の塊は、
すでに中国国内だけで、
回っているわけでもない。
2026年、
ASEAN諸国が購入した、
中国製クリーンテック製品は、
200億ドルを超えた。
前年同期比で、
約50%増である。
買われたのは、
EVだけではない。
太陽光設備。
蓄電池。
送電網関連設備。
冷暖房設備。
電化に必要な製品が、
幅広く輸出されている。
中国は、
一台の車だけを、
輸出しているのではない。
電気を作る。
ためる。
運ぶ。
そして、
車や工場で使う。
そのための製品を、
まとめて世界へ売り始めている。
中国は、
EVを売っているのではない。
ある意味、
「電化」そのものを、
売り始めているのだ。
ただし、
産業が集まれば、
良いことばかりが起きるわけではない。
作れる会社が増え過ぎれば、
激しい値下げ競争が起きる。
中国の産業が勝つことと、
そこで競争する企業や株主が、
儲かることは同じではない。
この問題については、
また別に書きたい。
中国が作ってきたのは、
BYDやCATLという、
一社の成功企業だけではなかった。
材料。
部品。
工場。
技術者。
物流。
巨大な市場。
それらが互いにつながり、
強い企業を、
何度でも生み出す。
中国の本当の強さは、
一社ではなく、
産業の塊そのものだった。
そして今、
EVで育ったその産業は、
蓄電池へ。
電力網へ。
ロボットへ。
さらに広がろうとしている。
中国が次に何を作るのかを見る時、
注目すべきなのは、
一社の新製品だけではない。
その後ろに、
どれほど大きな産業が、
すでに待っているのかである。





