久坂部羊氏(1955年生まれ)は、医師にして作家。デイケアや在宅医療など高齢者医療に携わってきました。その久坂部氏が、2013年7月に87歳で亡くなった父親の最後の経緯を書いたのが、「人間の死に方 医者だった父の、多くを望まない生き方」です。

 

【人間の死に方 医者だった父の、多くを望まない生き方】

 

 久坂部氏は、この本をとおして、人間の死に方をについて、様々な考える材料を提供してくれています。

 

 まず、自分で選べるならどのような死に方が望ましいかについて、多くの人が言う「ポックリ死」ではなく「がん死」が望ましいとして、次のように書いています。びっくり

 

【がんで死ぬ利点】

 世間にはポックリ死を望む人も多いが、実際のポックリ死にはさまざまな弊害がある。何の段取りもせず急死するから、周囲に多大な迷惑をかける。

 その点、がんなら死ぬまでにけっこうな時間がある。会いたい人に会い、感謝や謝罪を述べることもできるし、行きたいところに行き、食べたいものを食べ、観たいものを観、聴きたいものを聴く余裕もある。自分の人生を整理し、さまざまな感慨にふけることもできるだろう。

 最大の利点は、確実に死ねることで、長生きしすぎて思わぬ苦しみに遭う危険を免れる。

 

 もう一つ、興味深く感じた視点は、「人が老いて死ぬ」という避けられない事態に対して、一般の人が医者に過剰な期待を持つことへの戒めです。

 

【家族の不安は大半が幻】

 今は医療が進歩したせいで、一般の人が医者を特別視しすぎるきらいがある。いくら医者でも死を止めることはできないし、苦痛を止めるにしても、死を早めるような強い鎮静剤を投与するのが関の山だ。

 今ほど医療が充実する前は、だれもが家で平穏に最後を迎えていた。

 

 私は、1994年(平成6年)6月に、デンマークとスウェーデンに福祉制度の視察に行きました。そのとき知ったのは、北欧では寝たきり老人がほとんどいないが、それは口から食べられなくなったら胃ろうや中心静脈栄養などの延命処置をしないためだということでした。びっくり

 

 私の母は、2000年9月6日に亡くなりましたが、その年の5月に誤嚥性肺炎のため入院し、小康状態になってから中心静脈栄養で延命処置を受けました。胃ろうによって、胃に直接食べ物を送り込めるようにすればもっと延命できたかも知れませんが、長年、病院で管理栄養士として働いてきた姉の判断で中心静脈栄養を選択しました。

 

 中心静脈栄養だと、十分な栄養を送り込めないので平均半年の延命になるが、胃ろうだと栄養は十分なのでその先何年生きることになるか分からないとのことです。姉は、病院で、意識がなく身体が異常に曲がった状態で拘縮した生ける屍のような患者が胃ろうで延命されていることを知っているので、胃ろうを選択しませんでした。

 

 日本人の平均寿命は、世界一長いと言われています。比較可能な直近のデータは次のとおりです。

 

【平均寿命(2021年)】

日本      84.45歳

スウェーデン 83.16歳

 

 たしかに日本の方が1.29歳長いのですが、終末期の延命処置でかさ上げされてる部分があります。スウェーデンだと、高齢者が誤嚥性肺炎を起こした場合、日本のように抗生物質を多用しないので、そのまま亡くなる人も多いのです。

 

 そして、この延命処置を無くせば、療養型病床が逼迫することも無くなり、医師や看護師など医療従事者の不足も軽減され、国民医療費の膨張に歯止めがかかるのではないかと思います。