She Said She Said | Kei Funkdom

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 5月13日(火)


 仕事帰りの電車に乗っていて、先週ナゴムくんが「牛浜駅前に50~70年代ジャズ・映画音楽が聴ける店が出来たみたいだけど知ってる?」と言っていたのを思い出し、降りる駅を一つ延ばして、そのPOPな外観のカフェ・バー『kikujyu』へ寄ってみることにした。


 白いドアを開けると、テーブル席に腰掛けていたオーナーらしい上品な顔立ちの女性と、目が大きくて、まつげの長いティーンエイジャー風の女の子が立ち上がり「いらっしゃいませ」と言い、2人は、カウンター内のそれぞれの持ち場に着き、俺は女の子が作ってくれたジン・トニックを飲みながら、店内を見渡す。


 白い壁を照らす、ほのかな間接照明。オーナーであるHさんの好みを思わせる額に納められたオードリー・ヘップバーンの大きなポスター。アラン・ドロン、グレース・ケリー、マリリン・モンロー、エルヴィス・プレスリーのブロマイド。アンティーク風な古時計が印象的だった。


  天井近くに設置された、両端にユニットが付いた円筒形のスピーカーから古いジャズが流れている。トレブルとベース、ミドルの分離がとても良くて、まるで音のシャワーを浴びている感じがした。


「そのスピーカーは、無指向性スピーカーといって、どの場所でも、音が行き渡って、とてもいい音が聴けるんですよ」


 こちらのお店は4月に開店したばかりで、元々は、Hさんのお母様が経営する予定だったそうだが、お母様が体調を崩されてしまったので、Hさんが開店直前に自分のカラーを前面に出した店を立ち上げることになったらしい。Hさんは、バーで働くのは初めてらしく、カウンター内での佇まいは、初々しいというか、どこかぎこちない感じがしたが、スッと背筋を延ばして、穏やかな笑みを浮かべながら話す優雅な立ち居振舞いが印象的だった。そのHさんに好きな映画を訊いてみた。


「『シェルブールの雨傘』が好きなんです」


 Hさんとの会話が途切れ、2杯目のジントニックを飲み乾して、お暇しようかなと思ったが、せっかくだからナゴムくんを呼ぼうと思い直し、メールをしてみると、30分後にナゴムくんは意気揚揚とした面持ちで現れた。


 その一流の押し出しの強さで、ナゴムくんは、HさんとアルバイトのAさんに粋な自己紹介をして、若い頃のショーケンのような口調で話し、お酒作り初心者であるカウンターのおふたりに美味しいカクテルの作り方と、カウンターでの粋な立ち居振舞い方を丁寧かつユーモアたっぷりに伝授した。


 Hさんが美味しいウィスキー・オン・ザ・ロックの作り方を会得したあとで、俺とナゴムくんが戴いた、こちらのお店のお薦め料理であるロールキャベツは、とてもジューシーで、美味しかった。


 10時過ぎにアルバイトのAさんが帰った後、かなり聞こし召したナゴムくんは、Hさんがプロの0学占い師だと知り「占って貰おうかな」と言い、Hさんと店の奥にある占いコーナーに移動して、恋の行方についての占いが始まった。0学占いは、中国の易学をベースにした占星術で、生年月日を元に占うのだが、ナゴムくんは占いが始まって数分後に椅子から立ち上がって「よしっ!」と叫び、ガッツ・ポーズを取った。


 上機嫌のナゴムくんは、ジャックダニエルのオン・ザ・ロックを飲み干し、もう1杯所望しようとしたが、とうに閉店時間を過ぎていたので、あきらめて、俺はHさんに傘を借りて帰宅。


 5月15日(木)


 平日の『Flax Cafe』に行くのは久しぶりで、早い時間だったので、先客は、薄い茶色の度付きサングラスをかけて、スコッチのグラスを傾けるMさん一人。そのMさんが近所の『とんかつショーちゃん』からカツサンドの出前を取り、俺もおすそ分けしてもらい、アサヨさんと共に「美味しい美味しい」と有難く戴く。


 Mさんがタクシーで帰った後、アサヨさんとふたりでお喋りを始めるが、すぐに作業着姿の男性三人衆がご来店。程無くして、今日のピンチヒッター、元気なツバサさんがご出勤して、店内はすぐに華やかになった。俺はコーヒーリキュールを飲み乾して、Hさんと占いのことを思い出し、アサヨさんに手を振って『kikuzu』へ向った。


 『kikujyu』にいた一人の男性客が帰って行くと、Hさんは「占いをしましょうか」と言い、俺はHさんに生年月日を教え、彼女はカウンター越しに、俺の支配星を割り出し始めた。


「まあ、これは、これは珍しい、なかなかいない星回りですよ。コダマさんは言うなればスーパーマン・タイプなんですね。万能型というか、何でもそつなくこなしてしまう......所ジョージさんにかなり近い星回りですね......かなりこだわりが強いと出ています......自分が本当にやりたいことに突き進めば、その願望は必ず実現してしまう......かなりの強運の持ち主ですね.......周りの運さえ食べ尽くしてしまうほどの強運......本当に運が良いんですよ。例えば大病を患ったと思っても、実は違ったとか.......一を知って十を知るという感じで、物事の本質をすぐに掴んでしまう......仕事は好きなことや、実業をやっても成功しますね......逆境に強いというか、底まで落ちた後で、驚く程の成功を手にするタイプです。コダマさんは、運の巡りあわせが普通の人とは全く違うんですよ、とにかく、スピードが早いし、目まぐるしいんです。運命の激流......だから『何でこんなことが!』と驚いてしまう出来事が次々とコダマさんには起こるんです」

「今年はどうですか?」

「今年は.....準備の年ですね。来年がとても素晴らしい1年になるので、それに向けて備えておくべき年です。今年はあまり目立った動きをしない方が良いですね。今年は、健康とお金と女性に関するトラブルがあると出ています。身体に気を付けなければ......まあ、大病するとか、倒れるとかというようなことにはならないのですが」

 それは今年に入って、何人かのひとに言われたことだ。

「お金は出て行きますね......それから女難の相が出ていますね」

「そうですか.......今年は女性と付き合うのは危険ですか?」

「付き合うのは良いんですよ」

「色んなことに勝負をかけてはいけないんですね?」

「そうです、特に6月、7月はトラブルに遭いやすいので、気を付けなければいけません........6月に入れば分かると思います」

 今年は自分のネジを巻き直す年だということなのだろう。


「来年は年頭から素晴らしいことが起こりますよ。だから、今年はそのための準備をしておくべき年なんです」


 閉店時間がとうに過ぎていたので、俺は勘定を済ませ、Hさんにお礼を言ってお暇し、彼女に言われたことを反芻しながら家を目指して自転車を駆った。