Kei Funkdom

福生での日々、好きな音楽、本、映画の事等を掲載します。


A man's work is nothing but this slow trek to rediscover through the detours of art, those two or three great and simple images in whose presence his heart first opend. Albert Camus

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2011-01-02 09:27:08

Just my intuition

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12月30日(木)


日が暮れてからベッドに寝そべって、昨日買ってきた『村上春樹インタビュー集1997-2009』を読み耽る。今日は『チキンシャック』のカウントダウン前夜祭でDJを務める予定なのだが、8時近くになっても、いつも車で俺とレコードと機材を迎えに来てくれるクミさんから連絡がない。電話を鳴らしてみると、クミさん、ひどい風邪をひいたとのこと。「それでも迎えに行く」と言うクミさんだったが、電話の声が辛そうだったので、「今日は無しにしましょう、明日もあるし」ということで、予定はキャンセル。仕事を全て終え、年内飲み歩けるのは今日しかないと気付いて、寒空の中、自転車を駆って、『we love fussa cafe』へ行き、持参したローラ・ニーロ、オハイオのファンクバンド、スレイヴのレコードを聴きながら、カウンターのテツさんたちとなんだかんだと四方山話。グラスを重ねるうちに、何時の間にか、午前2時になっていたので、お暇して、『アマゾン』へ向い、フミちゃんに中島みゆきさんのコンサートチケットを渡す。1Fセンターブロック17列目なので、みゆきさんの顔は、しっかり確認できるはずだ。1月12日東京国際フォーラム、今から楽しみで仕方がない。


『アマゾン』でウーロンハイを数杯飲むうちに、ここ1ヶ月の疲れが溜まっていたのか、吐き気がし始め、部屋に帰って、トイレで胃の中身を戻す。こんなことは珍しいが、今年の膿を全部吐き出したようで、気分は悪くない。



12月31日(金)


昼過ぎに起きて、体調を整えようと、駅近くのドラッグストアで胃腸薬を探していた俺の許へ、ツイとやって来たメイクばっちりの美人店員が「これは効きますよ」とお薦めしてくれた内服液を飲んだら、途端に気分が良くなったので、その足で国立のディスクユニオンへ向い、レコードを物色。ザ・フー『The Kids are Alright』サウンドトラック、グランドファンクの2枚組ライヴ、エリック・クラプトンのヌード・ジャケライヴ、ジーン・クラークの『ホワイトライト』(買い直し)等を購入して福生へ戻る。


午後8時過ぎに迎えに来たクミさんの車で『チキンシャック』へ。ターンテーブルとレコードをDJブースに運び込む。「まだ早い時間だから、客は誰もいないな」と思っていたら、ステージ前で、セーラー服でコスプレした1バンド目の女の子達がクスクス笑っている。セッティングに没頭して、ターンテーブルの配線に取り掛かり、ふと目線を上げると、ブース前のソファに浅く腰掛け、うつむいて、I-Phoneをいじっている革ジャン姿の色白美人の存在に気付く。「どこかで見た顔だな、誰だっけ?気のせいかな?」と思いながら、レコードを回しているうちに、ステージに立った尼僧コスプレのシスター・アイコがイベントの開会を宣言し、オープニングのレクターがスタート。楽しく演っているなという感じ。若いって素晴らしい。


2バンド目が終わる頃には、客席も埋まり始め、音楽に併せて身体を揺すっている人たちのシルエットがゆらゆらと蠢いているのが見える。


シスター・アイコからテキーラ注射を受け、マジカル・ミステリー・ツアーな気分で、レコードを回す。こういう状態で大音量で聴くラテン・ロック、特にサンタナは最高。一瞬、黄泉の国へ連れ去られそうになった。革ジャン美人はカバンからドラムスティックを取り出して、リズムを刻み始めた。やがて、ステージ前のスクリーンが降り、今年の残り時間を示すデジタル時計が映し出され、ベートーベン第9のメロディに乗って、ヴァン・ヘイレンのカバーバンドが登場。革ジャン美人もステージに上がり、鬼神のように腕を振り上げて、ドラムを強く、激しく叩きまくる。「あ、このひと、ドラマーだったのか」と酔った頭で考えているうちにステージは進み、カウントダウンは目前。俺もフロアーに降りて、2011年午前0時ジャストの瞬間に、傍らのフミちゃんたちと乾杯。振舞いシャンペン、ドン・ペレニヨンを美味しく飲む。


ライヴ終盤、メンバー紹介があり、名前を聞いて、ようやく革ジャン女性のことを思い出した。去年の横田基地友好祭のときに出ていたレディース・ハードロックバンドのメンバーだった。「そう言えば、あの後、一緒に友好祭に出ていたガールズバンドのライヴ取材をしたときに、メンバーの子が『ツアーでは、あの人に叩いて貰ったんですよ』と言っていたっけ......なるほどねえ」と呆けた頭で回想しているうちにライヴが終わり、年明け、1曲目に俺がスピンしたのは、ザ・フー「無法の世界-Won't get fooled again」。シンプルだがスペーシーなシンセのシークエンスがフロアーに轟き、キース・ムーンのタイコが炸裂。「今年はキース・ムーンのドラムのように生きて行こう」と、ふと思う。周りのみなさん、なるべく、ご迷惑をかけないようにしますので、今年も何卒宜しくお願いいたします......。

2010-11-05 20:10:41

neon rainbow

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10月29日(金)


 午後6時に帰宅し、急いで荷物をまとめて、タクシーを呼ぶ。今夜は、『チキンシャック』でイージー・ウォーカーズのギタリストのユニット、Jesse The Cityのライヴがあり、俺はライヴレポート取材とDJを兼任する予定なのだ。


 やって来たタクシーの運転手さんと世間話をしていると、車は赤線に辿り着き、お店の前にいたクミさんに挨拶して、手早く機材とレコードを運び込む。ステージでは、まだバンドがリハーサル中で、その出音を聴きながら、奥のDJブースで機材のセッティング。PAマンのつっくんから半田鏝を借りる。と言うのも、昼間、つっくんから、「シャックのターンテーブルの調子が悪い」との電話があったので、自分のを2台持ってきたのだが、片方のターンテーブルは配線プラグが取れていて、ハンダをひと垂らしすれば直る状態のまま、放っておいた代物。不器用な俺は上手く付けられず、悪戦苦闘。そこに通りかかったノゾムさんに訊いてみると、「あ、俺、ハンダ駄目」と即答。傍らにいた、クミさんがため息をつく。

「ノゾムくんも、つっくんも、ハンダ駄目なのよね、手が震えちゃって......お店に1人くらい手先が器用な男の子がいないと駄目よね」


 つっくん、それでも色々と試して頑張ってくれたが、結局、ハンダは付かないまま、午後7時をとうに過ぎ、バンドリハが終わり、お客さんも入って来たので、調子が悪いというNUMARKのターンテーブルを騙し騙し使うことにする。今日かける曲は殆ど、60~70年代アメリカンロックの予定。手始めに、フリートウッドマックの『タスク』をターンテーブルに載せる。


 ピーター・フランプトンのライヴ盤が回り出した頃に、カメラマンの野内さんが到着。俺が所属しているWEB ROCK雑誌のスタッフカメラマンが誰も捕まらないので、ダメ元で頼んでみたら、ふたつ返事で快諾してくれた野内さんに感謝。


 時刻は8時を回り、ローリング・ストーンズの「ROCKS OFF」が流れるなか、Jesse The Cityがステージに登場。今日はサポートメンバーにキーボードを入れてのフォーピース・バンド。後から知ったのだが、キーボードプレイヤーは、T-BIRDの中山努さんだった。


 ライヴは、70年代を代表するプロティストシンガー、メラニーの「Lay Down」でスタート。渋い選曲だ。白い中折れ帽、タイトなブルージーン、アーミーブーツでキメたJesseは赤いストラトを抱え、甘く掠れた歌声を披露。脇を固める、パンキッシュな装いのベーシストは、リッケンバッカーを指弾きで唸らせ、アフロヘアが似合うドラマーは、堅実なリズムでJesseを鼓舞している。そして、リリカルなフレーズで華を添えるキーボードプレイヤーは最高!バンドはオリジナルの「血と麦」、小坂忠のファンクロック「HORO」を次々に披露。集まった女性客たちは演奏を行儀良く聴いていて、曲が終わると、パラパラと拍手。ライヴの楽しみ方をあまりよく知らないようだ。ライヴの半分はお客が創り上げるものなのに。熱狂乱舞状態の『チキンシャック』を知っている俺は、勿体無いと思った。


 それにしても、ここ福生で午後8時にライヴスタートというのは早すぎる。この街のひとたちは、もっと遅い時間でないと、盛り場を出歩かない。都心のライヴハウスではあまり無いだろうが、この店でライヴが1番盛り上がる時間帯は、午前0時過ぎ、下手すれば、午前2時頃なのだ。地元の音楽好きのひとたちにJesse The Cityを観せたかった。良いバンドなら、誰であろうと、ダイレクトに反応して両手を揚げてノリまくり、バンドをノセてしまう福生の人たちに。


 第一部のライヴは、ファンキーメロウな「生ハムのPIZZA」で終了。続いて俺のDJタイムなのだが、やはりNUMARKのターンテーブルは調子が悪く、音が出たり出なくなったり。スティーリーダンのLPを流しっぱなしにして、バーカウンター横の狭い楽屋に通じる細い階段を上がり、Jesseに手早くご挨拶。リハーサル時に「今日は止めとくか...」と言っていた、バッファロースプリングフィールドの「ロックンロール・ウーマン」は演らないのか?と尋ねると、一瞬驚いた表情を浮かべたJesseは、「演りますよ!」と言って、微笑んだ。


 という訳で、第二部のオープニングは、バッファロースプリングフィールドの珠玉の名曲「ロックンロール・ウーマン」。Jesseの艶のあるリードギターが眩しい光を放つ。


「今日はDJの方も入って戴いて、感無量です.....DJ Kei Funkさん!非常にいい選曲で、演奏する気が無くなるじゃないですか.....飲みたくなっちゃう......」


 ニール・ヤングの「テル・ミー・ホワイ」がフロアーに優しいムードを運び込み、クミさんが絶賛した新曲の「ジョアンナ」がポップに弾け、ヴァン・モリスンの名バラード「クレイジー・ラヴ」がソウルフルに盛り上がる。この曲を聴くだけでもここに来た価値があったと思える名演奏。そして、続いてプレイされた、メンバーのソロをふんだんに盛り込んだ鈴木茂「スノーエキスプレス」では、Jesseのギターがタイトなリズムセクションの壁をレーザーのように切り裂いた。


 アンコールはスティーヴン・スティルスの「Love the one you're with」。『チキンシャック』で様々なバンドがプレイして来たゴスペルロックで盛り上がったあと、最後の最後にJesse The Cityが演奏したのは、キャロル・キングのダンサンブルなシャッフルナンバー「スマックウォーター・ジャック」!小用が我慢できなかった俺がトイレに向うと、カウンター前で、ノゾムさんがリズムに乗って、踊っていた。



 ライヴが跳ねた後は再び俺のDJタイム。何故かNUMARKのターンテーブルが調子よくなり始めた。どういうことだ?

 

 バンドメンバーは帰途に就いたが、酒好きのJesseは朝まで飲むと言い、カウンターでビールを啜っている。俺も新しい酒を頼んで、Jesseの隣りに座り、70年代のロックを肴に四方山話。デイヴ・メイスン、イーグルス、ドゥービー・ブラザーズ、ジーン・クラーク、マナサス、ラヴ、レオン・ラッセル、スティーヴ・ミラー・バンド、リタ・クーリッジ......。クミさんはJesseをカバラで占い、彼に的確なアドバイスを授けていた。


 夜も更け、酒も回り、外は雨。それでもまだ飲み足りない俺とJesseは、彼の弟分であるアフロ青年と共に朝の5時にタクシーを呼び、雨のしずくにくだけたネオンサインが滲む赤線を走り抜け、牛浜の『アマゾン』へ急行。店のシャッターが半分閉まっている。店を放り出し、近所のカラオケボックスで歌い呆けていた店主フミちゃんを電話で呼び戻して、飲み直し、食べ直し。ここでも、なんだかんだと話題は尽きず、店を出たのは8時半。今夜、渋谷のロックバーで弾き語りライヴをやるというJesseを牛浜駅まで送った後、俺も帰宅。これから何が起こるのか。新しいステキな何かの始まりか?良い事が起こりそうな冬が、あざとく手招きしている。とにかく、こうして福生界隈で飲み歩いていると、知っておくべきことを一つ残らず教わっているような気になる。

2009-11-28 17:51:55

Girls from Texas

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 『チキンシャック』の扉を抜けて、バーカウンターにいたクミさんに今夜のオーガナイザーがどこにいるのかを訊ねると、「私も誰がそうなのか分からないのよ」と言われたので、TシャツやCDを売っているスペースにいた背の高い女性を捕まえてみると、「もうすぐ戻ると思います」とのことだった。


 カウンター前に佇んで、瓶ビールを啜っていると、奥のライヴスペースの方から、2人の白人女性がやって来た。1人は黒いワンピース姿のふくよかなブロンド。もう一方は髪に青いメッシュを入れた小柄な女の子。


「ハーイ」ブロンドガールは、ニヤッと笑いながら訊いてきた。


「名前を教えてよ」

「ケイイチだよ。こんばんは」

「ケイイチね。私はサブリナ」

傍らの青いメッシュの娘が微笑んだ。

「私はエリカよ」

 

 ふたりは、今夜のトリを務めるテキサス州オースティンからやって来た、アプリケーターズのメンバーだった。サブリナがヴォーカルで、エリカはリードギター。俺の名刺を眺めて「なるほどね」と頷いたサブリナが、物販スペースに置いてあった彼女たちの最新アルバム『WEAPON』のCDを手渡してくれた。


「聴いてみてね」

「ありがとう。サブリナ、どんなバンドが好きなの?」

「そうね、ザ・フー、キンクス、ミスフィッツ......」

「ザ・フー、キンクスは俺も大好きだよ!」

「そうなのね!『四重人格』は大傑作よね?」

「そうだね。ラモーンズはどう?」

「もちろん、大好きよ!私たち、彼らに最も影響を受けたのよ。あなたはどう?」

俺がジャケットの中に着込んでいたラモーンズTシャツを見せると、サブリナは目を輝かせた。

「彼らが恋しいよ」

「まったくよね」


 しばしの音楽談議のあと、他のメンバーにも会おうと、ミキサー前のスツールに腰掛けていたメガネをかけた細身のブルネット女性に近づき、「こんばんは、初めまして。ケイイチです。ところで、あなたはアプリケーターズのドラマー?」と訊ねると、ブルネット女性はフレンドリーな微笑を浮かべた。


「そうよ!私はアプリケイティ!よろしくね」


笑顔が魅力的なアプリケイティと談笑していると、残りのメンバー、巻き髪が印象的な美人ベーシスト、クリスティーナと、新加入のキュートなサイドギタリスト、エイヴェリーが現れて、ふたりと握手。まだあどけない顔をしたエイヴェリーは若い頃のジョーン・ジェットにそっくりだ。


 キース・ムーンがお気に入りだというアプリケィティと話していると、今夜のトップバッター、THE VICKERSが唸りを上げるフィードバックノイズを合図に今夜の幕を切って落とし、俺とアプリケイティは、すぐさまステージに釘点けになり、モーターヘッド、AC/DC、シン・リジィ張りのハードなロックンロールに魅せられた。メンバー全員が一丸となった華のあるステージを妖しく彩るのは、金色の髪を長く垂らした、目も綾な女性ベーシスト。電気仕掛けの弁天様のような彼女は雷鳴のようなベースプレイでフロアーを揺らしていた。


 次にステージを務めたのは、385という沖縄出身のギターレス3ピースバンド。白いシャツに黒ズボン姿の彼らは、変拍子を多用したプログレッシヴなジャズファンク、デスヴォイスが炸裂するハードコアナンバーで、観客を圧倒。最初は男の子かと見間違えてしまった女性ヴォーカル&ベーシストの存在感が凄かった。


 3バンド目、アプリケーターズとツアーを展開していたレッド・ヴァクテリア・ヴァキュームは、3人編成のガールズバンド。サイケデリックなロックンロールとハードコアが絶妙にミックスされた音楽性を持つ彼女たちのライヴは、ユーフォリックなヴァイブをフロアーにもたらし、それに触発されたアプリケーターズのメンバーは、ステージに上り、楽しげにダンス。日米ガールズバンドの共演を楽しめた、素晴らしいひととき。


 「次は私たちの番よ、観ていてね!」


 ドラムスティックを取り出して、ステージに向ったアプリケイティがカウントを取り、ついにアプリケーターズのライヴがスタート。姉御肌のサブリナは、吠えるように歌い、エリカは、ジョニー・ラモーンと同じポーズを決めて、ロックンロール・ギターでバンドをドライヴさせ、クリスティーナは右腕を振り上げて、フロアーを煽り、クールなエイヴァリーはギブソンTVモデルのフレットを眺めながらリズムを刻み、ロックマシーン、アプリケイティはスリップの肩紐がずり落ちるのにも構わず、入魂のドラミング。


「次はミスフィッツの曲を演るわ!みんな、ミスフィッツを知ってる?」


 アメリカが誇る、カルトパンクバンド、ミスフィッツの「アストロ・ゾンビーズ」が始まると、集ったパンクスは熱狂乱舞。2曲のアンコールを経て、アプリケーターズのライヴは終了。


 終演後、店の奥のソファーに身体を沈めていたサブリナにエールを送ると、ニヤッと笑った彼女は「楽しんでくれた?」と言った。フロアーにはザ・ジャム、ダムド、シャム69、ストラングラーズの曲が流れ、皆で記念撮影。


「いやー、今夜のバンドはみんな良かったわね」と、ご機嫌な様子のクミさんお手製豆腐ケーキをほおばっていた俺を手招きしたサブリナに付いて外へ出てみると、彼女は機材車から取り出した彼女たちのファーストアルバムのアナログ盤をプレゼントしてくれた。


赤線通りに佇んで、アプリケーターズにお別れの挨拶。互いの星座の話になり、エリカが俺と同じ蠍座だということが分かった。優しく俺をハグしたエリカは、「会えて良かった......私、お腹に赤ちゃんがいるのよ、4ヶ月目なの!」

と言った。


「ロックンロール・ベイビーが生まれるね」

「ロックンロール・ベイビー!」


再びエリカは俺を抱きしめた。


Kei Funkdom-applicators




2009-06-07 08:55:54

An English Man In Tokyo

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 1997年11月頃......


 ニールと初めて会ったのは、俺が入社して2月ほど経った梅雨の晴れ間の暑い日だった。俺が事務所の外の喫煙所で煙草を吸っていると、がっしりとした体型の白人男性がやって来て、ズボンのポケットからラークを取り出した。

 

リュック・ベッソンに似ているな」と俺は彼を見て思った。互いに自己紹介をした。柔らかそうな金髪を短く刈り込んでいた彼の背は俺と同じくらいで、瞳の色はブルー。


「俺はニール。イギリス人だ」


 ケンブリッジ出身で、在日歴12年、日本語を流暢に話すニールは35歳。彼は、パンク/ニューウェイブ世代だったので、俺たちは、ブリティッシュ・ロックのことを話し始めた。彼が好きなのは、ポップ・グループやバズコックス、ジョイ・ディヴィジョンで、俺は次々とその周辺の同時代のバンド名を挙げた。


「君は幾つなんだい?良くあの頃の音楽を知っているね!」とニールは感嘆し、俺たちはすぐに仲良くなった。俺は音楽を真面目に愛している人とはすぐ仲良くなれる。要するに価値観の一致と言う奴だ。


「また会おう」とニールは言って俺たちは握手をして別れた。その後、彼と再会したのは、顧客の会社のパーティー会場だったが、そのとき彼は周りいた外国人たちに、俺のことを「彼は、とても音楽に詳しいんだ」と紹介してくれた。


 夏が過ぎ、秋が深まるなか、俺は仕事を続け、モデルのローレンと仲良くなったり、デザイナーの女の子と急速に親しくなったりしていたが、ニールとはしばらく会う機会がなかった。


 11月のある日、ニールが会社にかけて来た電話を俺が取った。彼はサッカーのテレビを見ながら昼間から酒を飲んでいるらしく、受話器からグラスの氷が触れ合う音が聞こえた。彼の声は弱々しかった。


「出て来ない?近所のロック・クラブに行こうよ」と誘った。当時、彼は大磯に住んでいた。しばらく話したあと、彼は了承し、その週の金曜日に会うことになった。


 金曜の夕方にニールは会社に現われた。俺は入って来た彼を見て絶句した。あの金髪を刈り込んで、スエードヘッドになっていた。


「どうしたの、その頭は?」と俺が訊ねると、ニールは「一度やってみたかったんだ」と言った。彼はどこかナーバスな感じに見えた。怯えた目をしている。まるで、引退したシド・バレットかフーリガンみたいだと思った。


「週末だよ、ワイルドに過ごそうぜ」と言って、俺は彼を鼓舞させようとした。エレベーター脇の喫煙所にいたデザイナーの娘に「あとでおいでよ」と言い残し、俺たちは会社を後にした。


 その伝説的なロッククラブは新宿3丁目にあった。有名なアンダーグラウンドスポットで、70年代初頭から営業していて、ストーンズやオアシスのメンバーもお忍びで遊びに来る店だった。


 地下室へ続く急な階段を下り、スチールの扉を開けると、早い時間だったためか、客はまだ誰もいなかった。薄暗い店内を見渡すと、店名のとおりにローリング・ストーンズの写真が壁にいっぱい飾ってあった。「ロックンロール・サーカス」でマラカスを振っているブライアン・ジョーンズの写真に挨拶する。


 店内はがら空きだったので、俺たちは、ゆったりと座れる中央のボックス席に陣取った。プライマル・スクリームの「トレインスポッティング」が気だるく流れている。メニューを持ってきた店員にラムコークとハイネケンを注文する。



「ここでは、自分が聴きたい曲をDJにリクエスト出来るんだよ、ほら、そこのカードに書いて渡すんだ。ニール、何が聴きたい?」


「ヒーローズ」


 俺はリクエストカードにDavid Bowie Heroesと書き、もう一曲、ルー・リード「パーフェクト・デイ」を加え、ブースにいたDJに渡した。ほどなくして、ブライアン・イーノが奏でる印象的なシンセサイザーのイントロが始まると、ニールは恍惚とした表情になった。



「俺達は、ヒーローになることが出来る...たった1日だけど......」


「パーフェクト・デイ」のイントロにあわせて、乾杯し、俺たちはご機嫌だった。ニールはルー・リードと一緒に歌詞を口ずさんでいる。俺たちのリクエストが終わると、DJは最新のヒット曲に繋いで行き、俺たちは次々とリクエストを繰り返した。クラッシュ、ドアーズ、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド、ストーンズ、イギー・ポップ……。


 やがて時が経ち、杯を重ねるにつれ、客が集い始め、次第に音楽のボリュームも大きくなるうちに、ニールの雲行きが怪しくなりだした。かなり酔っているようで、俺にヘヴィーな打ち明け話をし始めた。


「俺は、12年前に、日本へやって来た。最初に勤めた会社で、ある女性と出会い、彼女とデキたんだが、彼女はすぐに妊娠してしまい、俺たちは結婚することになった。俺は結婚するつもりはなかった。俺が何故、彼女と付き合ったかというと、セックスが良かったからだ。結婚するつもりはなかった。それでもなんとかやって行こうとしたんだけど、子供が生まれる時……子供が女房の体から出てくるのを見たときから、俺は彼女を女として見ることが出来なくなってしまった。それから、俺は、今の女房と付き合い始めるようになり、結局、最初の女房とは別れることになった。俺はもう、一生自分の子供に会うことは出来ないんだ。ケイ、お前は、絶対、そんな目には遭うなよ」


 酒で潤んだ目をしたニールは俺に強く訴えかけた。


 「分かったよ、俺はそういう目には遭わないようにするよ」


 言いたいことを吐き出したニールは満足したように息をつき、ビールのお代わりをした。


 「今日はこれしかないんだ」


 ニールは、ポケットに入っていた30枚ほどのコインをテーブルにぶちまけた。いつの間にか、店内は、満員になっていて、ダンスフロアでは、思い思いのダンスに興じている若い奴らで一杯だ。


 オーシャン・カラー・シーンの「リバーボート・ソング」が大音量で鳴らされ、DJがストロボライトを点け、トランス状態で踊っている長髪の青年の姿がストロボの点滅に合わせて蠢いている


 あたりに酒の匂いがたちこめ、煙草の煙がたなびき、ロック好きな奴等が夜毎集うこの場所で俺たちも存分に楽しむべきなのだが、ニールの雲行きはますます怪しくなって行った。彼は俺に「男の性衝動には気をつけろ」と言っておきながら、周りの女の子を眺めているうちに、性欲を刺激されたのか、ニヤニヤ笑い始め「セックスがしたいな」としきりに言う。それでも泥酔していて体が思うように動かせないのか、自分から女の子をナンパしようとはしなかった。店内が過密状態になってきたので、俺たちは、新入りの客を席に着かせるために奥のベンチシート席に移動した。俺とニールは隣り合わせに座ったが、あろうことか、ニールは俺の背に手を伸ばし、徐々に下へ移動させ、俺の尻を触り、パンツの中に手を伸ばそうとした。


「ケンブリッジ出身者にゲイが多いとは聞いてはいたけど、ニールもバイセクシュアルかよ?参ったな、俺の貞操が……」と焦っていると、店の扉が開き、パナマハットを被ったデザイナーの娘が契約社員のKくんと2人で入って来て、俺を探しているのか、頭を左右に振り、店内を見渡した。


 2人が来てくれたことで、俺の貞操は守られたが、ニールは、ここぞとばかりにデザイナーの娘にアプローチし始めた。手にキスはするわ、抱きつこうとするわ、口説き始めるわで、俺は思わず嫉妬し、彼女に抱きついたニールを引き離してしまった。ニールはムッとした様子で俺たちを睨んだ。俺と彼女が互いの耳元で囁きあいだすと、彼は完全にムクれてしまい、話しかけようとする俺たちを手で払った。疎外されたような気持ちになったのだろう。



 そんな俺たちを尻目に、Kくんはどんどんビールを飲みまくり、流れているレゲエに浮かれ、ヒョコヒョコと腰を振っている。ニールは、きらめくフラッシュライトに幻惑され、パニック状態になり始めた。店内に響き渡るクラッシュの「I fought the law」を口ずさみながら涙を流さんばかりだ。クラッシュの怒涛のリズムに呑み込まれて、過去の出来事がフラッシュバックしているような表情になっている。


 トイレに立ったニールを心配しながら待っていると、デザイナーの娘が、俺のところにやって来て、


「ニールがヤバイわ、客にぶつかって、喧嘩になりそうよ!」と言った。


 結局、彼女が謝って、事態は収まったのだが、席に戻ったニールはもう駄目だった。胎児のように身体を丸め、震えている。もう限界だと悟った俺は、


「ニール、帰ろう」と声をかけ、彼に手を貸し、デザイナーの彼女と3人で、爆音でかかっているケミカル・ブラザーズに送られながら、路上へ出た。Kくんはいつの間にか消えていた。


 明治通りを突っ切って会社へ向かう。もう午前2時近くだろうか?会社のドアを開けると、何故か灯りが点いていて、博愛精神溢れる編集長のNさんがPCに向っていた。彼女はいつも笑みを絶やさないステキな女性だ。


 ニールを隣室へ連れて行き、デザイナーのMさんの寝袋を広げて、寝かせた。とりあえず奴は大丈夫そうなので、編集長の居る部屋に戻り、今夜のいきさつを彼女に話した。しばらくして、ニールの様子を見に行った。毛布を引いて、何故か奴と添い寝をする。ニールはパッチリ目を開けて、「お前は男だが、女にも見える」と言い、唇を尖らせ、俺にキスををしようとした。


「あのデザイナーの彼女はお前の恋人なのか?」

「いや、友達さ」

「俺には、そんな風には見えない」


 夜が明け、電車が動き出したので、ニールを起こし、外へ出た。朝焼けの新宿通りをふたりで駅へ向かって歩く。


「ワイルドな夜だったね」と俺が言うと、ニールは俺を鼻で笑った。


「俺はもっとワイルドな夜を過ごしたことがあるんだぜ」と言いたげな笑いだった。


 新宿駅の構内でニールと別れ、俺は電車に乗り込み、ジョニー・サンダーズのテープを聴きながら福生へ帰り、ぐっすり眠った。ニールは朝から派遣会社へ面接に行くと言っていたが、彼は俺と別れた直後に駅の階段で壮絶に転び、顔を血だらけにして、周りの乗車客を恐慌に陥れたと、後日会った彼の奥様が教えてくれた。

2009-06-05 08:50:10

Snow Queen

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1997年......


12月3日(水)


 ローレンと初めて会ったのは、俺が会社に入って間もない頃だった。


 広告制作のためにモデルが必要だったのだが、会社の所属モデルリストを見ても適当な人材がいなかった。

 

 困っていた俺の前に現れたのが、モデルの面接に来ていたローレンだった。彼女は黒いタイトなスーツに身を包み、気だるげにスツールに腰掛け、ドアを開けた俺を、まっすぐに見つめた。彼女の顔を一目見て、アーティスティックなオーラを感じた。銀色の光を湛えた長い髪が、彼女の完璧な顔を縁取っていた。


 彼女は俺に自分はドイツ人だと言った。俺は彼女にモデルを依頼し、彼女は快諾してくれた。しかし、撮影当日は大混乱だった。カメラマンはデザイナーの素人カメラマンだったし(彼とは後で友達になった)、アホ社長が電話を寄越して「後で揉めるから、モデルからすぐに契約書を貰え!」と喚くし、立会人の社員は無能だし、ローレンはギャラの支払いの件で怒り出すしで、俺はパニックになりそうになるのを堪えて、冷静に全てを丸く収めた。そんな事もあって、ローレンに対して、あまり良い印象を持てなかったのだが、彼女は俺の事を気にしていたらしく、3ヵ月後に会社にかかって来たローレンからの電話を偶然俺が取ったことから、彼女と仲良くなった。


 彼女は日本人男性と結婚したばかりで、それから俺は度々ローレンと仕事をするようになった。

 二度目に会った時、ローレンは「私、本当はルーマニア人なの」と言い、身の上話を俺にしてくれた。両親が既に事故で他界している事、親戚とは絶縁していて、天涯孤独の身だった事、旦那さんとの出会いの事.....。


 ローレンは俺が英語を話せるようになっていた事に驚いていた。

 

 最初の撮影現場に失望した俺は、社長に直談判して、まともなカメラマンとスタジオの手配を頼んだ。結局、デザイナーの女性が、知り合いの池袋に小さなスタジオを借りているカメラマンを紹介してくれて、以来、俺は月に一度、モデルを連れて、そこで撮影をして貰うことになった。8畳ほどの小さなスタジオには、俺とモデルの女性とカメラマンだけ。そのスタジオで10人程の外国人モデルと仕事をしたが、一番楽しかったのは、ローレンとの仕事だった。元々ドイツでモデルの経験があった彼女との仕事はいつもスムースに運び、和やかな雰囲気のうちに終わった。彼女は自分でも写真の心得があったので、カメラマンの前川さんとも上手くやれたし、俺達はいつも楽しくスタジオで時を過ごしていた。


 ローレンは自分の美貌を熟知していて「私の最大の恐れは、歳を取って、この美貌を失う事なの」と俺に言った事がある。


 確かにローレンは美しかった。自分の写真写りをひどく気にする彼女は、上手く撮れないと、自分のベストな表情を創るべく努力していた。撮影が終わり、新宿に戻り、フィルムを現像に出し、ポジをチェックする場に必ず彼女は姿を現した。そして、自分が気に入ったポジフイルムを俺にねだり、その都度俺は快く彼女にプレゼントした。


 

 11月の初旬に俺達は再会し、仕事をした。その際に互いの誕生日の話になり、俺は11月19日生まれだと教えた。彼女は12月3日生まれで俺より3歳若かった。


「俺は蠍座で、ローレンは射手座だね」

「あなたは射手座に近い蠍座だわ。私は蠍座に近い射手座ね」


 俺の誕生日の前日、会社の同僚と飲んで、終電を逃し、同僚達と会社の倉庫で寝るはめになってしまった。朝起きた時「こんな所で誕生日を迎えてしまった」と嘆いたが、思いがけないことに、ローレンが誕生日のプレゼントを郵便で贈ってくれた。封筒の中にはチョコレートと、小さな色紙で作られた、バースデーカードが入っていた。彼女の細やかな気遣いに感激した俺は、1日中ハッピーな気分だった。


 彼女の誕生日に撮影の仕事があり、俺はささやかなプレゼントを用意した。ニットキャップ、彼女の好きなデヴィッド・ボウイのポストカードで作ったバースデーカード、それとお手製のミックステープ。


 俺は昼前にアルタ前でローレンを待っていたのだが、やって来た彼女は、何故か両手に大きな重そうなカバンを持って現れた。


「どうしたの?そんな荷物持って?」

「これは、私の問題なの!」

「問題?何かあったの?」

「私、家出したのよ!」


 新宿駅に向かいながら、事情を訊くと、旦那さんと大喧嘩をしたとの事だった。ローレンが言うには、彼はローレンが外を出歩く事を嫌い、家に閉じ込めて、夫の世話だけをしていれば良いという考えの封建的な男性至上主義者だったと判明したとの事だった。俺は旦那さんの気持ちも少しは分かるような気がした、これだけの美人で芸術センスもあるローレンがただの貞淑な妻に収まる訳が無い、いつか自分を捨てて違う世界に出奔してしまうのではないかという恐れがあるのだろう。


 俺達はとりあえず、池袋の前川スタジオへ行き、半日かけて撮影をした。スタジオを出た俺とローレンは、前川さんの車で池袋駅まで送って貰い、前川さんと別れた俺達は記念にゲームセンターでプリクラを撮り、その後、俺はローレンに旦那さんへ電話をするようにと言った。ローラは、しぶしぶ公衆電話から彼に電話した。


「彼は帰りたくないのなら、帰って来なくて良いって言っているわ。私、今日は家に帰らないわ」
「頭を冷やしなよ、今日はローレンの誕生日でしょう?お金もないでしょう?野宿なんて寒くて出来ないよ、仲直りしなよ」


 以前から分かってはいたが、ローレンは非常にプライドが高い人だった。誇りを少しでも傷付けられると、烈火の如く怒り、しばらくは機嫌を直してくれない。夏に来日したローレンの従兄弟によると、それは彼女の亡き母の躾のせいらしかった。


「彼女はいつも、ああなるんだ。だから、友達もいなくなる。全ての原因は、母親が彼女をお姫様みたいに育ててしまった事さ」


 人並み外れた美貌と才能を持ち、資産家の長女に生まれたローレンが、普通に育つのは難しかったのかもしれない。


 

 新宿に戻り、写真屋にフィルムを持って行き、ポジ焼きをしてもらって、会社に帰ると、ローレンのご主人がエレベーター前に立っていて、程無くして、ローレンが三越デパートで買ってきたケーキを持って現れ、一瞬修羅場の雰囲気になったが、俺が「さあ、これから皆で写真を選びましょう!」と言い、3人で今日のベストショットを選び出し、一転して、和やかな雰囲気になって事なきを得た。


「ケイちゃん、ありがとうね!」


 ローレンは俺にケーキを手渡して、ご主人と仲睦まじげに帰って行った。


2009-06-03 08:41:16

As the years go passing by

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2005年だぜ......



1月1日(土)


 明け方、点けっぱなしだったテレビの音に叩き起こされた。妹から賀正のメールが来いていた。電話して、14日頃に顔を出すと言っておく。桐生では雪が積もったそうだ。ジニーとティナに賀正のメールを出す。二人ともまだ眠っているのだろう。3時間後にジニーから俺の予想通りの賀正メールが返って来た。


 もっと前に「赤と黒」を読んでおけば良かったと思う。「日はまた昇る」もそうだ。そうすれば、もっと彼女の前で上手く振舞うことが出来たのに。古典文学から学ぶ事は多い。


 「赤と黒」を読み終えてしまいそうだったので、次に読む本を買いに出た。雪が溶けていない路面に注意して自転車を走らせる。西友の本屋で、ゾラの「ナナ」とヘミングウェイの「誰がために鐘が鳴る」を買って、無事に帰宅する。それにしても俺は何故、19世紀の古典を読んでいなかったのだろう?思い返してみると、8歳のときに「ベニスの商人」を読んでいたのに!


「ナナ」を読み始める。



1月2日(日)


 10時頃に起きて、デヴィッド・ボウイの「スペース・オディティ」のアナログが聴きたくなり、立川まで出かけたが、珍屋は休みだった。CDだったらすぐ手に入るのに、頑固者はこういう時に損をする。


 仕方なく、酒を買足し、駅ビルの書店で「デヴィッド・コッパーフィールド」を3巻まで買って帰った。アンチョビパスタをつまみにチンザノを飲みながら再び「ナナ」を読み耽る。午前3時に読了。


「赤と黒」も凄かったが、「ナナ」もそれ以上に強烈な作品だった。


 今日は高梨がおせち料理を持って、やって来るはずだったが、彼女を送って疲れたのか、予想通り来なかった。相変わらずの気まぐれだ。


 


1月3日(月)


「デイヴィッド・コパフィールド」を読んでいると、明正から電話があり、「そっちに行っても良いか」と訊くので、「良いよ」と答えて電話を切ると、今度は高梨が電話をしてきて、おせち料理とワインを持って来てくれた。2人で四方山話をしていると、明正から、今日は止めておくというメールが来た。


 高梨は彼女が実家にやって来たことを話した。奴は相変わらず酒が弱い。ワインとチンザノ少しでソファに伸びてしまった。デモデダイナーでコーヒーを飲んで、初詣に行こうとしたが、神社の場所が分からなくて、マルフジで食料を買い、部屋まで送ってもらった。おせちの残りを食べ、朝まで「デイヴィッド・コパフィールド」を読む。


 1月4日(火)


「デイヴィッド・コパフィールド」の4巻を探して、市内の書店を回るが、やはりどこにも無いので、仕方なく立川まで行った。オリオン書房でようやく目当ての4巻を手にすることが出来た。ついでに珍屋に行って、デヴィッド・ボウイのスペース・オディティのLPを1300円で買う。



北風が吹きつのるなか、部屋に辿り着き、食事の支度をした。ターンテーブルにはボウイのスペース・オディティ。このレコードには何故か愛着がある。


 買い置きの牛肉を焼き、ライスに盛り付け、レトルトのフカヒレスープと一緒に食べた。腹がくちくなったので、酒を飲む気がしない。再び「デイヴィッド・コパフィールド」を読み継ぐ。朝方まで読み耽り、3巻の中盤まで読み、眠る。


 翻訳者の解説どおり、ディケンズの小説は、浪花節だが、作中人物をめぐって、作者と読者が一緒になって、笑ったり、泣いたりできるこんな小説を、書いてみたいと思わせる普遍性がある。


 1月5日(水)


 昼前に起きて、コーヒーとソーセージ&エッグの朝食を摂り、シャワーを浴びて目を覚ましてから、再び「デイヴィッド・コパフィールド」を読み耽り、13時過ぎにとうとう読み終えてしまった。


 素晴らしい!本当に出会えて良かった本だった。文庫の解説者と筒井康隆さんの言う通り、手放しで絶賛出来るのは、3巻までかもしれないが、俺が一番感動したのは4巻だった。


 天上のディケンズには、大変僭越だが、俺はディケンズに背中を押されたような気になった。俺の周りにも、ドーラやアグネス、ベッツイ伯母さん、ドラドルズ、ミコーバ、ユーライア・ヒープ、ペゴティー、スペンロー氏のような人たちがいるのだ。


 この小説のBGMにはキンクスがぴったりだ。レイ・デイヴィスはロック界のディケンズなのだなと思った。

2009-06-02 08:39:42

GOLDEN CUPS ONE MORE TIME

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2004年だぜ.........







10月26日(火)


 11時頃に起き出し、コーヒーを母に供え、俺も蜂蜜を入れて飲んだ。プリンスもコーヒーに蜂蜜党らしい。喉に良いのだろう。



 外は雨だ。ゴールデン・カップスの映画試写会なのに、残念だ。



 仕事の残りを済ませ、14時頃にコンビニに行き、妹の口座に2万円を振り込む。ついでに家賃のぶんのお金を引き出し、1階の管理事務所へ行き、管理人さんに5万2千円を支払う。



 雨は降り止まない。17時過ぎに傘を持ち、牛浜駅に向かう。銀座には18時45分に着いた。何度も来ているのに、俺は銀座の地理に不案内だ。映画館の地図をプリントアウトして持ってきたのに、さっそく迷ってしまった。



 ショッピングモールの1階にあったお菓子屋の店員さんに場所を訊ね、親切に教えて戴き、事なきを得た。銀座プラゼール、マリオンの隣だ。エレベーターに乗り、5階に出ると、既に大勢の人々が、映画館のロビーに集っていた。受付に行き、受付嬢に招待ハガキを差し出しながら、「煙草を吸える場所はありますか?」と訊ね、ロビーにある喫煙場を教わり、ラークマイルドに火を点けて、煙を吸い込んだ。ロビーに屯っている人々を見渡す。業界人らしき人が多い。喫煙場の所に着物を着た銀座のママさん風の女性が関係者と何か喋っている。若い人も多いようだ。映写場の壁に加部さんが、アーサー・リーの真似をして、火の点いた煙草を耳に入れ、口から煙を吐いているモノクロ写真の大きなポスターが飾られていた。「あのポスター欲しいな」と思った。


 トイレで小用を済ませ、好きな席に座って良い様なので、舞台から見て右側の4列目に座った。舞台までの距離、約5メートル。ここからなら、カップスのメンバーの表情はばっちり確認できるが、スクリーンに近いので、映画が始まったら、首が疲れそうだ。スピーカーからは来月発売のカップスの新しいベストCDが流れている。



 隣に若い女の子二人連れが座った。化粧の匂いが鼻を突く。ポップコーンとドリンクの紙トレイを膝に載せている。俺は空腹だったが、これからカップスが目の前に現れるので、とても飲み食い出来る気分ではなかった。


 トイレにもう一度行こうかと迷っていると、間もなく始まりますとの場内アナウンスがあったので、行かなかった。19時半を過ぎ、舞台の左手から、モト冬樹がマイクを持って現れ、「本日司会を務めます」と挨拶し、こちらの方を見て、「今日は結構若い方もいらしていますね」と言った。冬樹氏は、自分も元はGSの出であったが、カップスはやはり、特別な存在であったと話し、続いてデイヴ平尾との交友録で笑いを取った後で、「本日の主役である、ゴールデン・カップスのメンバーの皆さんをご紹介します。では、年齢の若い順から」と言い、ミッキー吉野、マモル・マヌーを1人づつ紹介し、舞台に招いた。次は加部さんの番だ。名前を呼ばれた加部さんは静かに姿を現し、ゆっくりと舞台に上った。続いてエディ藩、缶ビールを片手に持ったリーダー、デイヴ平尾が登場した。栄光のゴールデン・カップスが揃った。俺から見て、右からマモル・マヌー、エディ藩、中央にデイヴ平尾、ルイズルイス加部、ミッキー吉野という並び方だった。5人の佇まいや装いは、見事にバラバラだったが、それがいかにもカップスらしかった。百戦錬磨のツワモノ達は一様に気だるくリラックスした雰囲気を醸し出していた。



 加部さんの服装は、グレイの丸首シャツの上に砂色の長いウール・ベスト。パンツは、テクノの人が好きな黒いシャカパンで、足元は茶色いカジュアルな革靴できめていた。エスニックな柄のゆったりとしたニットキャップがグレイの顎鬚と良く似合っている。とても55歳には見えない。痩身で、夢見るような目をした、俺のイメージ通りの加部さんだったので感動した。白いスポットライトがスクリーンに照射されているのを見て取った加部さんが、右手でスクリーンに向けて、狐の影絵を作り、ミッキー吉野に笑いかけた。茶目っ気があって、やる事の全てが絵になる人だ。



 他のメンバーの出で立ちは、マモルがブルーのタンガリーシャツにジーンズ、野球帽、エディは黒地に花柄をあしらったシャツにブラックジーンズ、デイヴは、エディと似た黒いシャツに黒いスゥィングトップにブルージーンズ、ミッキーは紫色のシャツに黒いカジュアルなジャケットに、同色のスリムなパンツ、そして鍔の大きなソフト帽。



 ビールを聞こし召して顔を赤くしているデイヴ平尾が挨拶した。



「えらく時間がかかりましたが、映画がようやく完成しました!みなさん、存分に楽しんでいってください。この映画は日本で初めてのバンドとしてのドキュメンタリー映画です、音楽の歴史に残る作品になります」



 モト冬樹が、マモル・マヌーから順番にコメントを求めた。マモルは「風邪で1週間寝込んでいまして、さっき起きたばかりです」と言った。エディ藩は、「とにかく、この映画の音のクオリティは素晴らしい、今日は僕等も楽しみにしていました」と熱く語り、加部さんは腰をかがめ、ペコリと一礼しながら、「お寒い中、良く来て下さいましたという事で」と挨拶し、恥ずかしそうに後ろに身を反らした。そのシャイな喋り方や仕草が俺の持つ加部さんのイメージ通りだった。加部さんの丁寧な挨拶に対して、デイヴがえらく大人になったね」とからかった。ミッキー吉野は、今回の再結成のリハーサルについて話し、「昔はみんな時間にルーズだったのに、今回は僕が1番遅刻をしてしまった」と笑った。



 俺はずっと身を乗り出して、加部さんを凝視していた。2度ほど加部さんが俺の方を見てくれた。



 モト冬樹がデイヴに音楽的質問をすると、「そういうのは、ミッキーに訊いてくれ」と言い、ミッキーがそれに答えていた。「とにかく、この映画の再結成ライヴでの音のクオリティは素晴らしいです」



 メンバーへの質問コーナーが終わり、報道関係者の写真撮影になった。カメラマンが数人最前列に現れフラッシュを焚いた。テレビ局のカメラも2社ほど来ていた。テレビ朝日とフジテレビ。写真を撮られながら、デイヴが「最近はこういうのが多いけど、35年前は殆ど毎日こうだったな」と言った。写真撮影が終わり、再びデイヴがマイクを取り、観客に向けて謝意を述べた。モト冬樹がメンバーの退場を告げ、5人は左の舞台袖に去って行った。冬樹氏は「大先輩のみなさんなので、緊張して、また髪が10本程抜けました」と再び笑いを取り、「では間も無く映画が始まります」と言い、退場すると、場内が暗転して、映画が始まった。


 この映画は、前半がサイドAと題され、1966年のゴールデン・カップス生誕から1972年の解散までをケネス伊東を除く歴代全メンバーが当時の状況やメンバーのパーソナリティ、楽屋話などを語っている。また、当時ライバルだった他のGSメンバーや本牧R&Bシーンの盟友達、カップスを支持した暴走族の元メンバー、カップスの熱烈なファンだったという、土屋昌巳、矢野顕子、北野武等のインタビューもフィーチャーされていた。





 個人的には、土屋昌巳のインタビューが特に印象深かった。また、スクリーンを見ながら、60年代横浜本牧の排他的で退廃的な特異性を今の福生とダブらせていた。当時はベトナム戦争で米兵は荒れていたが、今はイラク戦争で福生の米兵は荒れている。当時の本牧のクラブや酒場の写真がスライドで次々に登場した。ファッションや時代背景に違いこそあれ、本質的には今の福生とそう変わりは無いのかもしれないなと思った。暴走族のメンバーが語った、酒場のカウンターで米兵がセックスをしていた話で、当然俺は赤線のBBを想起した。あそこではさすがに本番はやらないが。



 当時カップスの周辺にいた人達の談話も興味深かったが、やはり各メンバーがリレー方式で語るメンバーへの思い入れたっぷりのコメントが良かった。特に印象に残ったのは、ミッキーが、マモルのドラムの才能を高く評価していた事と、ケネス伊東に対する各メンバーの思いだった。



 個人的に最も衝撃的だったシーンは、1968年のテレビショウでの「アイム・ソー・グラッド」の生演奏だった。テレキャスターを流麗にプレイするエディ藩もカッコよかったが、あの有名なロケットベースをブンブン唸らせる加部さんの佇まいには犯られてしまった。まるで元気な頃のシド・バレットみたいだった。こんなヤバい映像がテレビから流れていたのかと思うと、嬉しくなった。それにしても、当時の加部さんは本当にカッコいい。


 サイドBは昨年横浜で行われた再結成ライブの映像だった。まるでラストワルツのように美しい映像とクリアで奥行きのあるサウンドは臨場感満点で、往年の名曲を次々と繰り出すカップスのパワーに魅了されてしまった。



 加部さんのクールなベース・ランニングを繰り出す綺麗な指に見惚れ、ミッキーの華麗なキーボード捌きに唸り、エディの艶のあるブルース・ギターに酔い、マモルが歌う「過ぎ去りし恋」に聞き惚れ、デイヴの底力を見せつけた「ホールド・オン」に圧倒され、ブッチズ・チューンと題された、ゼムの「グローリア」の観客と一体となった熱演に興奮し、ソウルフルなグルーヴを聴かせるラストの「ワン・モア・タイム」まであっという間だった。カップス再結成ライブに駆けつけた往年のファンや若い人達の様子も感動的だった。



 エンディングに「青い影」が流れ、タイトルスクリーンが終わり、場内が明るくなった。



 場内アナウンスが映画の本公開の日時とCDの発売を告げている中、俺は立ち上がり、出口に向かった。


 出口に向かう人の流れに従って、開いているドアに近づくと、エディ藩がこちらを覗き込みながら、歩いて行った。ロビーに出て、エディを目で追うと、彼はトイレに入って行った。俺が目を正面に戻すと、そこには、なんと、加部さんがいた。その距離僅か2メートル。これは行くしかない。



 俺は磁力に引き寄せられるように、加部さんに近づき、「加部さん」と声をかけた。うわー、加部さんが目の前にいる!あの加部さんが!加部さんは俺の服装を一瞥してから俺の目を見て、「よぉー」と言ってくれた。前列にいた俺の顔を覚えてくれたらしい。俺は天にも昇るような気持ちになり、かろうじて「凄く、良かったです」と告げた。加部さんの身長は180センチくらいだと思っていたが、間近で見ると、175センチの俺とそう変わらない背丈だった。猫背気味だったからそう見えたのかもしれないが。



 加部さんは俺を見ながら、頷いてくれた。嬉しくなった俺は恐れ多くも、加部さんに顔を近付けて「加部さん、握手して下さい!」と言った。



 加部さんは気さくに手を差し出し、俺の手をしっかりと握ってくれた。俺も握り返す。大きくて、力強く、繊細な手だった。頭の中が真っ白になってしまった。加部さんはニッコリと微笑んでくれた。ブルーグレイの吸い込まれそうな瞳が俺を見ている。



 俺は現実感を失いそうになった。俺が女だったら失神しているところだ。


「凄く、嬉しいです。どうもありがとうございました」と俺はやっとの事でお礼を言って、加部さんから離れた。



 トイレに行こうとすると、関係者がルー大柴を撮影しようとしていて、俺は歩を止めた。


 俺は、加部さんの放つオーラに包まれて、ボーッとしたまま、小用を済ませ、外に出ようとした。加部さんはまだ、さっきの場所にいるようだった。俺のヒーローがイメージ通りの優しい人だったので、嬉しくて仕方が無かった。加部さんの醸し出す雰囲気は、穏やかで温かく、出来る事なら、ずっとお話していたかったが、長年憧れていた人を目の当たりにすると、言葉なんて出て来なくなる事が分かった。加部さんが俺を見て、微笑んでくれただけで充分だ。


 俺が加部さんを知ったのは15歳の頃だった。図書館で借りた鈴木いずみの「ハートに火をつけて!だれが消す」にジョエルという仮名で登場する伝説のベーシストが加部さんだったのだ。鈴木いずみの実体験を書いたと思われるその連作小説を読み耽り、いずみが好きになった加部さんを、俺も好きになった。ハーフの美少年、天才的なベースプレイ、エキセントリックだが、あくまでも優しい性格、といずみが綴る加部さんのイメージが心に残った。雑誌や本のグラビアに載っていた加部さんのルックスは、いずみの瑞々しい文章に表現されている通りの凛々しい美少年で、俺はますます、加部さんに夢中になった。だが、既にカップスのレコードは廃盤になっていたので、加部さんの音を聴くことは出来なかった。俺のたくさんのヒーローと同様に、加部さんも、俺はイメージ先行でファンになった。



 当時、日劇の閉館に伴い、嘗てウエスタンカーニバルを賑わした多くのGSが特別に再結成してスペシャルライブを催した。その模様を俺は偶然テレビで目撃したのだが、そこに現れた加部さんはルーズな装いで、髭を生やし、「曲を知らないので、適当にやらしていただきます」とかったるそうにインタビューに答えていた。

演奏のシーンでは、ベースを低く構え、カッコよくプレイしていたのを覚えている。



 俺の心の中には、いつでも加部正義という人がいた。写真を見たり、インタビューを読んだり、小説のモデルとなって登場する加部さんを追いかけていた。ゴールデン・カップスやスピードグルー&シンキのアルバムも聴いた。ただ、俺はあくまでミーハーファンなので、全てのアルバムを集めようとはしなかった。俺は主に、加部さんのルックスとイメージを追いかけていたのだ。長い事音楽を聴いてきているので、俺にはヒーロー、ヒロインがたくさんいるが、日本のアーティストでここまでミーハーになれるのは加部さんしかいない。


 感動の余韻に浸りながら、地下鉄に乗って荻窪BCLに寄ってしまった。店内にはカツミくんをはじめ、5人の出演者がいて、今年の夏に新宿のバーで行ったイベントを記録したビデオを見ていた。思いがけない俺の来店に、カツミくんは驚き、「今日はどうしたんですか?」と訊いてきた。リーさんとママさんに挨拶して、ママさんにカップスのリーフレットを示すと、「そうか、これの帰りなのね」と納得した。俺が加部さんに握手して貰ったことを告げると、ママさんは羨ましそうだった。彼女はモップスのドラマーの追っかけをしていたそうだ。



 皆さんはイベントのビデオを見て、楽しそうだ。リーさんは画面上で喋っている自分の姿を見て「俺、喋りすぎだな、恥ずかしいや」と言った。



 明日はリーさんの誕生日イベントなのだが、俺は来られないかもしれないとリーさんに言うと、レコード10枚くらい持って、来てよ」と言われた。レッドマン氏が「明日は来るのですか?この前のDJはツボにはまりましたよ」と言ってくれたので、お礼を言った。



 カツミくんに「今度はキンクスをやろうよ」と言うと、「いいですね」と快諾してくれた。リーさんの話の途中で、ママさんに話しかけたら、「俺の話を聞けい」と怒られた。リーさんは出来上がっていて、饒舌になっている。俺は終電の時間に合わせてお暇した。

2009-03-29 20:13:38

and suddenly

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 3月28日(土)


 『UZU』の扉を開けると、クラッシュ好きそうなスリーピースバンドが、大音量で演奏していたが、お客はまだ集まっておらず、カウンターでビールを頼んで、ストーブの傍に座っていた、オレンジマンタのケンタくん、コウタくんに挨拶していると、ミヤくん、ジュリちゃんもやって来た。


 最初のバンドが終わり、オレンジマンタがセッティングに取り掛かると、ジュリちゃんが、「私も着替えて来よう」と言って、トイレに向かい、光沢のある黒いナイロンシャツ、チャコールグレイ地に白いストライプが入ったスリムパンツにサスペンダー、グレイの山高帽という新たなステージ衣装を纏って戻って来た。一目見るなり、1978年頃の沢田研二を思わせる装いだった。


「良いね、イメージチェンジだね、ジュリーみたい」

「そう、ジュリーなの!」


 店内に流れていた音楽が止み、赤いパトロールランプが回り、ドラムのケンタくんによるキャバレー・ショースタイルのMCが始まり、ミヤくんが放つファルセット混じりのシャウト一発で、ライヴがスタートした。ジュリちゃんがステージに飛び乗り、オープニングナンバーを歌い出し、喜色満面のメンバーは快調にジュリちゃんを盛り立てる。


 2曲目はジャクソン・シスターズの『I believe in miracles』で、ここぞとばかり、コウタくんが5弦ベースでソロを決め、首に紫のフェイクファー襟巻きを巻いた最近、ジミ・ヘンドリクス憑依状態が著しいミヤくんが、ストラトキャスターを胸元まで持ち上げて、トリッキーなプレイで魅せる。


 ジュリちゃんが、「しっとりとしたナンバーを.....」とMCを入れて、アル・グリーンの『Let's stay together』へ。彼等のヴァージョンは説得力があって、いつ聴いてもいいなと思う。


 定番の曲が続き、ケンタくんの小噺コーナーがあり、新曲『明日へ』の後、『Good Old Rock'n roll』でライヴを締めるのかと思いきや、ジュリちゃんが、「グッバイ、グッバイ」と繰り返す、新たなエンディングナンバーが披露され、オレンジマンタ・ショーは終わった。


 11時から『菊寿』のカウンターに立たなければいけないので、最後のバンドは観ずに帰ろうとすると、コウタくんが「僕も行きます」と言うので、彼を自転車の後ろに乗せて、牛浜方面を目指し、『菊寿』に顔を出してから、お隣りの『アマゾン』でウーロンハイを飲み、トン平焼きを食べていると、こちらの様子が気になったらしいアヤちゃんが、引き戸を開けて顔を出した。


 『菊寿』に戻ってみると、お客さんの誕生会の後で、キッチンには、ヒロミさんのタコス料理と、アヤちゃんお手製のケーキ、基地内のBXで買ってきたピザがあった。


 しばらくして、オレンジマンタ・ファンの壮年男性陣とメンバーが来店して、店内は賑やかになり、ウイルソン・ピケット、サム&デイヴ、ジョー・テックス等、古いアトランティック・ソウル・ナンバーが流れる中、歓談がしばし続き、よく来てくれるご近所のサトウさんも来店し、ヒロミさんは、ミヤくんを占い始めた。


 午前2時頃には、店はアフターアワーズの雰囲気になり、モータウンの古いバラードを皆で口ずさんだ後、オレンジマンタのメンバーがおやすみを言って帰って行き、ストーンズの『レット・イット・ブリード』を聴きながら、洗物を済ませ、一皿残っていたタコスを食べて、一息ついていた午前3時に携帯が鳴って、出てみると、毎週、金・土曜日に『レノン』で働いているナゴムくんだった。


「コダマさん、まだ『菊寿』やってる?客が引けた?それじゃあ、早く店仕舞いして、そこにある俺のショーケン特集号のスタジオボイスと、『ショーケン』(自叙伝)とアンドレ・マルローのライヴDVDを持って、『レノン』に来なさい!」


 スタジオボイスは俺が長らく借りっ放しにしていて、後の本とDVDは、ナゴムくんがアヤちゃんと、アヤちゃんのママに貸していて、ナゴムくんが取りに来れるよう、店に置いてていたものだった。


「何で?取りに来ればいいじゃない」

「いや、今、ここに20年振りに福生に来たっていう、ショーケンが大好きな人が来ていて、ショーケントークで、盛り上がっているんだって!コダマさんも来なよ。30分以内に来るように」


 30分後、『レノン』の扉を開けてみると、店内には、ハンチングに薄い茶色のサングラス兼用メガネをかけた痩せ型の男性と連れの銀縁メガネ姿の女性、店の奥では彼等の連れらしい2人の長髪青年が店に置いてあるアフリカンパーカッションを叩き、笛を吹いてセッション中で、既に飲んでいて、ご機嫌顔のナゴムくんは、カウンターの男性に手早く俺を紹介して、俺が手渡したDVDを取り出して、プレイヤーにセットし、アンドレ・マルロー・バンドのライヴ映像が店の小さなモニターに映されると、カウンターの男性は歓声を発して、画面に見入り始め、ショーケンと60年代に関する四方山話は、明け方まで続いた。

2009-01-02 21:35:33

December's Children (and everybody's)

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 12月14日(日)


 午後4時半過ぎに『ボーダレス』に着いてみると、案の定、『レノン・パーティー』関係者は誰もいなかったので、ステージ上で機材の調整をしていた店長さんに挨拶し、DJブースに荷物を置いてから、時間を潰すべく電車に乗り込み、国立のレコード屋でエサ箱を漁り、スティーヴ・ミラー・バンドの『Fly like an eagle』、ジーン・クラークの『No Other』、ポール・サイモンのベスト盤を手にして、6時頃、福生に戻ってみると、『ボーダレス』のエントランスで、ユカちゃんとタッキーが受付をしていて、ユカちゃんが、俺にジョン・レノンのイラストをあしらった、スタッフ用ステッカーをくれた。


 程無くして、チーフDJのキヨシくんが現れ、音だしを始めて、徐々にギャラリーが集まり始め、冬の『レノン・パーティー』が始まる気配を見せ始めた。


 『レノン・パーティー』の定番会場だった『zago』が閉店してしまったため、今回のパーティーは、赤線の『チキンシャック』と『ボーダレス』で同時開催ということになり、バンドとDJも開場毎に振り分ける布陣となった。両会場は、歩いて30秒という非常に近距離に店を構えているので、ギャラリーは、お目当てのアクトを求めて、両店を行ったり来たりすることになる。


 ドリンクカウンターでラムコークを買って、会場を見渡していると、アヤちゃんとナオコさんがやって来て立ち話。しばらくして、ノゾムさん達が姿を見せて、ステージでセッティングを始めたのに併せて、酒のお代わりを頼もうと人垣を抜けてカウンターに向っている途中でシノブさんに遭遇。シノブさんと右手を握り合う挨拶を交わすと、彼女は「温かい...」と呟いて、人波に消えた。


 ドラッグクイーンと化したコーちゃんが、ステージでパーティーの始まりを告げ、ノゾムさん率いるチキンシャック・プロジェクト(CSP)が、『コンドルは飛んでいく』を奏で、パーティーの幕を切って落とした。


 数曲のオリジナルを披露した後、ノゾムさんが「男所帯のバンドだと、むさ苦しいので、今夜は歌姫と一緒に演ります!」とアナウンスして、シノブさんをステージに招き、マイクスタンドの前に立ったシノブさんが、「みんなが知っている曲を歌います。知っている人は歌ってくださいね」とMCを入れた後、バンドが演奏を再開し、シノブさんはシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」を歌い始めた。




 

 清い水のようなシノブさんの歌に浸ってから、『チキンシャック』へ向うと、こちらも人波でごった返していて、奥のDJブースには、ヤマモさんとトナボくん、カズくんがレコードの山に埋もれており、クミさんに挨拶してから、『ボーダレス』に戻って、2番手のバンド、インダス・アンド・ロックスのステージを観る。軽やかなロックステディ・ビートの曲から始まったので、レゲエバンドかと思ったら、さにあらず、彼等はスペーシーでトリッピーなサイケデリック・ジャム・バンドだった。


 『アマゾン』で少し喋ったことのある長身ベーシストが、ジャズベースを腰にぴったり押し付けて、腕を伸ばして弾いている。多種多様なエフェクターを操るギタリストは、ストイックな佇まいで、間断無くサイケデリックなフレーズを繰り出して、観客をトランス状態に引き込んでいき、カメラを首からぶら下げた長髪の男性が、狂ったように踊りながら、シャッターを押し続け、その傍らでは、アイコちゃんが照明に浮かび上がりながら、スキップを踏むようなダンスに興じ、延々と続く、サイケデリック・ジャムがピークに差し掛かると、観客が一斉に叫び出し、パーティーは最初の絶頂を迎えた。


 角の『マット・ケバブ』で買った、チキンケバブで空腹を満たしてから、店内に戻ると、中原宙さんのニガヨモギが始まろうとしていて、次にDJを務める俺は、ブースに立って、ステージ脇からニガヨモギの演奏を聴いた。2年前のクリスマスイヴに、宙さんのライヴを初めて観たとき、オーラスの『ワイルドで行こう』に犯られて、皆とステージ前で踊ったのを思い出す。


 ニガヨモギのボブ・マーリー直系のレベル・ミュージックを聴きながら、終演後の曲を選ぶ、ここは、やはり、ボブの『ジャミング』しかないだろう。俺がレゲエをかけるなんて珍しい。その後、スティーヴィー・ワンダーの『マスター・ブラスター』をかけてみると、後で、キヨシくんが、「あの繋ぎが良かった」と誉めてくれた。


 再びステージに上がったCSPの演奏前に、スティーヴ・ミラーの『鷲の爪』をかけた後、トラフィックの『Gimme some lovin'』ライヴ・ヴァージョンに乗って、バンドがジャムを始め、ノゾムさんがアナウンスして、ライヴがスタート。


 CSPは今回も快調で、ライヴ後半では、シノブさんがステージに招かれ、今夜2度目の『タイム・アフター・タイム』を歌った。個人的な今夜のベストアクトはシノブさんの、胸に染み透る、さり気ない歌声で、この曲をずっと聴いていたかった。


 その後は、テキーラ・コークに酔った頭で、両会場を行き来し、更に酒を飲み続け、久々に聴く、みんなーズの演奏が終わると、キヨシくんとターンテーブルを分け合って、しばしDJを務め、オーラスのナゴム・バンドの演奏を聴こうと、『チキンシャック』へ向うと、ナゴムくんが、かなり聞こし召した様子でメンバー紹介MCを務めていて、タナカさんに突っ込みを入れられていた。


 ハルカちゃん、アイコちゃんの歌が終わった時点で、もう1時を過ぎていたので、明日仕事がある俺は、お暇することにして、荷物を取りに『ボーダレス』へ戻ろうとすると、自転車の後ろに神々しく可愛い女の子を乗せたYくんとすれ違い、ふたりにおやすみの挨拶をする。2人は幸せそうに打ち上げ会場である串カツ屋『まるや』へ向って行ったが、俺は泣く泣く家路に着いた。

2008-12-11 16:49:02

Time Between

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 11月22日(土)


 同じ日に大事な用事が重なるのは、よくあることで、今日は『kikuju』でヒロミさんの誕生会があり、一方、『チキンシャック』では、『輝け・第10回なりきり歌合戦』が開催される。催しの時間帯もダブっていて、「どうしようかな?」と思案しつつ、『kikuju』へ行くと、さすがヒロミさんの誕生会とあって、カウンター席は鈴なり。


 俺がテーブル席に着こうとすると、ナオコさんがチャコールグレイのVネックシャツをくれた。3日遅れの誕生プレゼント。ナオコさん、ありがとうございました。


 ナオコさんお手製の美味しいラザニアを食べていると、遠方での仕事を終えたヒロミさんが登場して、店内の皆は一斉に彼女に「おめでとう」を言い、プレゼントを渡した。


 スティーヴィー・ワンダーの『ハッピー・バースデイ』が流れる午後9時過ぎ、満面の笑みを浮かべてプレゼントの包みを開けているヒロミさんに手を振って、自転車に跨り、赤線を目指して走り、『チキンシャック』に着いてみると、タイミング良くノゾムさんが店先に立っていた。


「おお、来たね、今、前半戦が終わって、休憩時間なんだ.....いいよ、入りなよ!(受付の女性に)コダマくん、ゲストだから入れてやってよ」ということで、俺は入場料フリーで、混み合う店内に入り、アサヒの瓶ビールを買って、既に来ていたミッちゃん、モリくん、モヒゾーさんを見つけた後、カウンター端でビールグラスを見詰めながら、かすかに肩を震わせているナゴムくんに気付いた。


 

 『なりきり歌合戦』は、年一回開催される、夜の福生名物のひとつで、エントリーした出場者が、好きな歌手に、とことんなりきって歌い、観客の投票でナンバーワンを決めて、優勝者には、1年間有効のカバーチャージ・フリーパスと賞金が出るという華々しい催しなのだが、良くある『のど自慢大会』レベルのイベントではなく、歌い手のバックを務めるのは、ロック、ソウル、ジャズ、歌謡曲、演歌を流麗に演奏できるプロのバンドで、出場者は、コスチュームや演出に凝って、歌唱力とパフォーマンスの魅力、演出のクオリティで観客を楽しませなければ、入賞することが難しい、ハイスタンダードなイベントでもある。


 「いやあ、緊張しているよ、テキーラでも飲ろうかな」


 今年上半期から、良い風が吹いているナゴムくんが、蒼い顔をして呟いた。いつものナゴムバンド・ライヴの前に聞かれる軽妙なジョークは今日は無い。


 「頑張って」とナゴムくんの肩を軽く叩いて、奥の方へ移動し、低い階段に腰掛けていたMさんの隣りに座って、暗転したステージを見詰める。残念ながら、前半戦、コーちゃんがノッコを演じたレベッカ、クミさんがスーちゃん役を務めたキャンディーズ、相川七瀬、椎名林檎、天地真理は見逃してしまった。バンドがハードロックを奏で、司会者が後半戦の始まりを告げるなか、いつの間にか俺の後ろに来ていたナゴムくんが俺の肩を叩いた。彼は、40代男性3人組による少年隊『仮面舞踏会』のギャグ満載パフォーマンスを観て爆笑した後、ステージの袖へゆっくりと歩いて行った。次はナゴムくんの出番だ。


 黒地のストライプスーツに山高帽を纏ったナゴムくんは、オモチャのラッパを手に取って、マイクスタンドの前に立ち、司会者による紹介の後、集まった100人近くの観客に「GOOD EVENING!!!、ルイ・アームストロングです」と威勢良く第一声を放ち、すかさず、右手を掲げるショーケン・アクションを決めて、マイクに向き直り、バンドが奏でる循環コードの伴奏に乗って、『この素晴らしき世界』を歌い始めた。



 

 福生在住の、おしどり夫婦が演じた、岡千秋・都はるみの『浪速恋時雨』で大笑いした後、登場したのが、金ラメのワンピース姿でステージに上がった、コーヒーカラーの肌が魅力的な女性が演じるティナ・ターナーで、曲はもちろん、『プラウド・メアリー』。彼女は、ソウルフルな歌声と華のあるスイム、ドッグなどの60年代ダンスで大いに観客を魅了し、大受けに受けていた。


 全ての出し物が終わり、スタッフが観客から投票用紙を集め、程無くして、再びバンドがジングルを奏で始め、出場者全員がステージに上がり、入賞者発表の時が来た。


 今夜の出場者は10組。並み居る強豪を掻き抜けて、第3位のパフォーマンス賞を獲得したのは、クミさん率いる、『年下の男の子』を歌った熟女タイムズ。出遅れて、クミさんの晴れ姿を観れなかったのは大いに残念だ。


 そして、実質上の準優勝、特別賞を貰ったのは.....ご存知、ナゴムくんだった。良かったね、ナゴムくん、おめでとう!


 そして、記念すべき第10回『なりきり歌合戦』、優勝は、ティナ・ターナーを演じた女性で、彼女は、再び、『プラウド・メアリー』をエモーションを込めて歌い始め、他の出場者の女性たちもステージでアイケッツさながらに踊り、観客席はヒートアップ、皆立ち上がって身体を揺らし、優勝者と、この夜を称えた。


 今宵、見事、ティナ・ターナーになりきった女性とは、しばらく後で俺が週末の夜にカウンターに立つ『kikuju』で再会することになる。世の中は面白い......というか、タイトなり、福生コネクション......。


 


 『kikujyu』閉店の後、またも終電を逃したナオコさん、ヒロミさんと『kikuju』で夜明かしすることになり、ヒロミさんが、11月末から試験的に、この店で深夜から朝まで働くことになっていた俺を、「リハーサルをしましょう」と言って、カウンターに入らせ、更に、外を歩いていたピート・タウンジェンド似の男性を店内に誘い、俺が酒を給仕して、即席バーテンダーの出来上がり。


 この店に初めて来たときには、まさか、ここで働くことになるとは夢にも思わなかったが、これも他生の縁と、ヒロミさんのご厚意の賜物。精一杯務めたいと思う。


 

 冬の夜を、酒と音楽と語らいで彩りたい方は、是非、牛浜駅近くの『kikuju』へお越しください。アナログレコードが回り、たおやかな音のシャワーを浴びせる波動スピーカーから流れる名曲群、美味しいロールキャベツ、品揃え豊富な素敵なお酒と、ゆったりとした時間の流れがあなたを待っています。

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