What a coincidence! | Kei Funkdom

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Living for this City = music,book,movie,art,booze,connection,and......

 2月9日(土)


  午後3時頃に図書館に行き、山中麻弓さんの『カルマ落し』、カート・ヴォネガット『国のない男』、ジョン・アーヴィング『ピギー・スニードを救う話』、マイケル・ライドンのロック評論集『ロック・デイズ』を借り、部屋に戻って、早速山中麻弓さんの本を読み始め、夜になる前に読了。『カルマ落し』は、基地の街の長い夏に起こった主人公の女性の愛と別れ、焦燥と希望、彼女の周囲で蠢く人々と、この街が醸し出す一種独特な雰囲気を精緻に描いた作品で、ページを捲りながら、俺自身が過ごしたここ数年の日々を思い返した。週末の赤線通りの喧騒、飲み屋で知り合った米兵の男女、出稼ぎのフィリピーナたち、地元の人々との交流、涙と笑い......気が付いたら、外は大雪で、夜は外へ飲みに行く気がせず、ずっと本を読みふけっていた。


 2月16日(土)


 3ヶ月振りに髪を切ろうと、西武線に乗り込み、江古田の『MOBO』へ行く。俺は酔狂にも、1時間の移動時間を費やしてこのお店でヘアカットをしてもらっている。

『MOBO』は大正15年創業の由緒ある床屋さんなのだが、3代目店主であるMさんが大の音楽好きなので、店内はお洒落なロックバーのような内装で、Mさん所有のヴィンテージギターが飾られ、店のあちこちに設置されたモニターからはいつでもご機嫌な新旧のロックDVDの映像が流れている。

 そして店主のMさんは、あらゆるロックアーティストのヘアスタイルに精通していて、かなりマニアックな注文にも素早く応じてくれるのだ。例えば、「1966年夏ごろのジョージ・ハリスン風に」、「スモール・フェイセズ中期のスティーヴ・マリオットのあの感じにしてください」と言えば、40分後にはその通りになっているという素晴らしさだ。

 俺が初めて来たときは、ポール・ウエラーのポストカードを持参して、「こんな感じで」とお願いすると、「あー、これですね、分かりました!」ということで、それ以来俺の髪型は、1981年のポール・ウエラー風フェザーカットと決まっている。また、Mさんの接客態度もとても丁寧で、まさにサービス業の鏡といった具合で、俺はこの店に6年も通い続けている。長年の習慣を変えるのは、なかなか難しい。


 散髪の後、近くにあるレコード屋を覗くのも習慣の一つで、「今日は何か見つかるかな?」と少しワクワクしながらレコード屋に入って中古盤新入荷のコーナーを見始めると、キャリーをガラガラと引きずりながらマイケル・ムーアみたいな小太りでメガネ姿の壮年白人男性2人組が入って来るなり、床にべったりと尻を付け、通常のレコード棚の下にあるバーゲン品コーナーを切迫した様子で漁り始めた。コレクターだろうか?2人して、ジャズのLPを囲んで、「これにはジョー・サンプルが参加してるんだぞ!」などと激論を交わしている。その2人につられたのか、目つきのおかしい男性が2人と一緒になって腰を降ろし、おそらく買いもしない筈のレコードを捲りだした。さっきMさんに髪を切ってもらったときに話題になったスタッフのセカンドアルバム『More Stuff』のジャケットを眺めていた俺は、アルバムを棚に戻し、店内に蠢く3人をやり過ごしながら、6枚のアルバムを選んだ。サム・クック『Ain't that good news』、オーティス・レディング『Come to me』、ブルック・ベントン『Today』、シャイライツ『Greatest hits』(買い直し)、Luiz Carlos Vinhas『Novas Estruturas.』(買い直し)、デオダート『Max 20』締めて、4千円と少し。


 駅近くの居酒屋で生姜焼き定食を食べて、「ウィルソン・ピケットのベスト盤も買えば良かったかな?」と思いながら電車に揺られて、福生に戻り、しばらく部屋でゆっくりレコードを聴くことにしてサム・クックに針を下ろすと、携帯にSさんから「この前は、本当にごめんなさい、一緒に飲みませんか?」とのメールが届いた。彼女とはこの前、『ビーンズキッチン』で飲む筈だったのだが、結局彼女の都合で叶わなかったのだ。明日仕事が早いから長居出来ないというSさんに会うために、買ってきたレコードを持って『ビーンズ』へ急行しようと自転車を漕ぎ、店のドアを開けるなり、アコギが鳴らされ、店の奥で50代の女性客たちに囲まれた壮年男性2人組がガロの曲を歌い出した。


 Sさんと乾杯し、話し始めて少し経つと、ドアが開いてスーツ姿の菅原さんが現れた。「今日は仕事帰りでさ」と俺の隣りに腰掛けた菅原さんの注文を取りながら、空豆さんがこちらを見遣って、「なかなか2人きりになれないなあ」と呟いた。まあ、いつもの事ではあるけれど、物事はそう簡単に俺の意のままにはならない。それからすぐに常連のフォーク青年フォーキーもやって来た。それでも、Sさんと楽しくお喋りをして、今度一緒にボーリングと映画に行くことになった。壮年フォークデュオのライヴが終わり、持参したレコードを取り出すと、菅原さんが聴いたことの無いシャイライツを聴きたいと言うので、お皿をターンテーブルに載せて、席に戻って流れ始めた『Have you seen her』の壮麗なコーラスに耳を傾けていると、菅原さんがメールで呼んだ清高さんが入って来て、「何よ、これ!誰がシャイライツ持って来たの?これ今日聴きたくて、HMV行ったんだけど無くて、取り寄せしてもらったんたんだよ!」とのたまった。清高さんはポール・ウェラーファンの奥様所有のザ・ジャム『エクストラズ』に入っていたシャイライツの『Stoned out of my mind』のカバーを聴いて、オリジナルを聴きたくなったらしかった。なんたる偶然!というところだが、俺の今までの人生ではこういうシンクロニシティーは日常茶飯事だ。ポリスも来日していることだし。


 後ろの席の女性客たちの一人が菅原さんと清高さんが今月24日に福生市民会館小ホールで開催される『福生元気を出せ音楽祭』の出演者だと知り、2人に生演奏をおねだりし、いつものビートルズショーが始まり、大受けに受けた後、俺はサム・クックのレコードをかけて『ローマは一日してならず』を聴きながら、Sさんの桜色に染まった顔を見つめた。サムはソウルフルな声で歌ってくれる。


♪最初から俺を愛してくれるなんて思っちゃいないさ、でも俺は君の心に小さな種を撒いたんだ、それが育つのにはちょっとした時間が必要だって......ローマは一日してならずってことは知ってるさ♪


 明日5時起きで仕事へ行かなければならないSさんが帰って行き、菅原さんたちがアンコールに応えて、『抱きしめたい』を熱演していると、インドから帰国したばかりのテキサスがシンちゃんと現れた。シンちゃんはニターリと笑ってすぐ出て行ったが、それを見た菅原さんは、「後でフラックスへ行かなくちゃ」と呟いた。おそらくシンちゃんは、『フラックス』か『ごん』で飲んでいて、週末飲み屋パトロールに出たのだろう。アサヨさんの斥候のようなものだ。彼は『フラックス』に戻ったに違いない.....と言うことは.....菅原さんと清高さんは必然的に『フラックス』に顔を出さなければならない。そういうことだ。本当は俺も行くべきなのだろうが、この後は『レノン』へ行く予定だ。

「福生コネクションはタイトですね」

「タイト、本当にタイトだよ」

 インド出発前夜に『フラックス』でお2人が歌った『抱きしめたい』に送られ、帰国してまたも『抱きしめたい』で迎えられたテキサスは「なんたる偶然!」と嬉しそうだ。そのインドで今まで手も握れなかった意中の女性を本当に

”抱きしめて”来たテキサスからお土産にインドのタバコをもらった。


 土曜の夜の『レノン』はナゴムくんが店長で、店内に流れるのはエディ・コクランのロックンロール。カウンターには亀さんとタッキーとその友達の女性がいた。皆でテキサスの帰国を祝して乾杯すると、テキサスはインドで思いを遂げたことを話し、皆歓声をあげて詳細を訊きたがる。これで明日中にはこの界隈の人たちはそのことを知るだろう。タイトかな、福生コネクション。俺は梅酒を飲みながらナゴムくんと何だかんだと話し、ここ1週間で起こったニュースを知る。ナゴムくんが俺の前にスタッフの最近出た1976年モントルージャズフェスのDVDを置いた。またちょっとしたシンクロニシティだ。クール&ザ・ギャングのDVDを観ていると、最近久我山に引っ越したばかりの勇太くんがギターケースを背負って現れ、何度かこの店で見かけた「福生の根本敬だね」とナゴムくんが評したMくんもやって来た。もう誰でも来いと梅酒のグラスを連ねていると、本当に久々に顔を見る誰それが次々に現れた。


 午前4時を回ると、皆帰って行き、店には俺とナゴムくんとMくんだけになった。ナゴムくんは「よしっ、山本司タイムだ!」と昨秋の福生でのライヴを記録したDVDをかけに行き、彼がいかに山本司を好きかを熱く語り、DVDが終わると、ショーケンの『熱狂雷舞』をCDトレイに載せた。ショーケンを聴きながら話しているうちにナゴムくんにこのブログの存在を知られてしまった。「そうかー、じゃあ、探し出して読んで俺が批評してやるよ」とのことで、

どうなることやら、ちょっと怖いな。携帯が点滅していて、清高さんからメールが来ていたことに気付く。


「シャイライツ!まったく今日はまいったよ。まじで、What a coincidence ! 今度ナゴムバンドのボーカルやらして」

このメールをナゴムくんに見せると、「俺にどうしろっていうんだよー!」と頭を抱えていた。


 5時になって、アイコちゃんが毎週土曜の朝方に店長を務める『裏チキンシャック』へ行くことにする。外へ出るとナゴムくんの新しいワインレッド色の可愛らしい折り畳み自転車が停めてあった。アイコちゃんを始めとする彼の友人たち3人が次々に肋骨にヒビを折る怪我をして、ナゴムくんは「次は俺か?」とブルって、××運転を止めるために自転車を買ったらしい。正解だ、その方が良いに決まっている。「自転車っていいねー、一方通行とか幅寄せとか無くてさ」とナゴムくんは軽快に自転車を飛ばし、チキンシャックへ辿り着く。カウンター席がほぼ埋まっていて、アイコちゃんの『裏チキンシャック』は好評のようだ。先週交通事故に遭い肋骨を怪我したアイコちゃんは、思ったより元気そうでなによりだった。ナゴムくんは、いつものように次から次に来ていた人たちを肴にしてギャグを連発し始めて、俺は、腹を抱えて笑う。6時になり、俺とナゴムくん以外のお客が帰って行くと、ナゴムくんが持参したスタッフのDVDを俺とナゴムくん、アイコちゃん、ノゾムさんとで観ていると、「凄いなー、あの髪型!」とナゴムくんがキーボードプレイヤー、リチャード・ティーの強引なアフロ七三分けに突っ込みを入れ、皆で笑った。


 時刻は7時半過ぎとなり、DVDが終わると俺とナゴムくんはアイコちゃんとノゾムさんにお休みを言い、シャッターを潜って赤線通りに出た。太陽がまぶしい。路上には頭にバンダナを巻いて踊る若者たち、毛の長い犬を散歩させている女性たちが行き交っていた。

「腹減ったな、俺、朝マック買って帰るよ、コレステロールと塩分を求めてね!」と言い残して、ナゴムくんは、サドルに跨り、駅方面に消えて行った。