◆【時代の読み方】インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 2

 時代の流れを時系列的に見ると、見えないものが見えてきます。NHKの放送や新聞・雑誌などを見て、お節介心から紹介しています。

■■ インチキ呼ばわりされる中国の高速鉄道 2

 近年、中国の高速鉄道がなにかと話題になっています。NHKやまぐまぐニュース、Gooニュースなどをもとに、鉄道についても造詣が深い『冷泉彰彦のプリンストン通信』を中心にまとめてみました。

 ここでは、この分野にあまり馴染みのない方を対象に、ポイントをわかりやすく紹介することを目的としています。詳細は、氏を初めとする、その分野の専門家の情報をご覧下さると幸いです。

 今回は、前回に引き続きまして、その続きをお届けします。


■4 中国メディアですら懸念表意

 まだ、記憶に新しい2015~2016年にかけてのインドネシア高速鉄道におけます日中競合合戦ですが、結果は、お金にモノを言わせた中国に軍配が上がりました。しかし、その後はどうなっているのでしょうか。

 また、世界各国での高速鉄道受注合戦は、どうなっているのでしょうか。Gooニュースを基にご紹介します。

 中国は、メキシコ、米国、タイ、インドネシアやベネズエラなどの各地で高速鉄道の輸出を推進しています。ところが、各地で問題に直面しています。

 中国メディアの「界面」は、このほど、中国人の理解からすれば「コスト優位があり、総延長は世界一、さらには資金面のサポートもある中国高速鉄道は輸出競争力も高い」はずですのに、なぜ輸出事業は問題続きなのかと疑問を投げかけています。

 記事中で、中国高速鉄道の輸出が問題続きであると事実を認めています。シンガポールとマレーシアのクアラルンプールを結ぶ高速鉄道については韓国も入札に参加する意向を示していることを指摘し、今後はさらに問題が激化する可能性を示唆しています。

 それだけですと、香港の出版社の関係者が拘束されましたように「界面」も潰されかねません。

 問題続発と言うことを伝えると共に、高速鉄道プロジェクトは巨額の投資が必要ですので、時間がかかって当たり前であるにもかかわらず、各国は成果を短期に求めすぎていると、中国の高速鉄道輸出を擁護する発言をしています。

 中国メディアの「界面」は、それだけでは、まだ不充分と考えたのか、「高速鉄道事業が政治問題化している」と、日本を名指しで、「日本がつねに邪魔をし、撹乱するため」と、日本を悪者にして、報道しています。

 日本批判をすることにより、当局からの処罰を逃れているのです。


■5 需要はそれほど大きくない?

 中国メディアの「界面」は、高速鉄道の輸出事業が問題続きである背後には、海外諸国において「高速鉄道に対する需要」がさほど大きくないのではないかという見解を出しています。需要が大きくなから、必要性も大きくありませんので、諸国がいったんは契約しても、安易にキャンセルをしてくるとでも言いたいのでしょうか。

 彼らの言い分は、世界的に見て高速鉄道路線で黒字化を達成しているのは東海道新幹線と、北京-上海間の京滬高速鉄道の2路線だけと主張しています。ほかの路線はすべてが赤字で、政府の補助金などによって運行を維持しているというのです。

 当然のことながら、長距離の移動の場合は高速鉄道よりも空路のほうがメリットを示せます。一方、大都市間を結ぶ中距離の路線で黒字化が見込める高速鉄道市場はさほど多くはないという見解です。

 中国やアメリカなど、国土の広い国では、それも一理あるかもしれませんが、日本など、大都市が高速鉄道で1~2時間の距離にある場合には高速化が可能ですので、需要が少ないというのは、言い訳にしか聞こえません。

 黄文雄氏のメールマガジン「日本人に教えたい本当の歴史、中国・韓国の真実」の中で、黄氏は、「世界が中国のインチキぶりにようやく気が付き始めた結果」と一刀両断しています。習近平政権は、お金をちらつかせ、舌先三寸で各国から受注してきましたが、これが習政権の命取りになるだろうという厳しい意見を述べています。


■6 アメリカでの挫折

 このブログ連載の4回目でも述べましたが、中国は、メキシコ、米国、タイ、インドネシアやベネズエラなどの各地で高速鉄道の契約が見直されはじめています。

 その典型的な例として、アメリカにおける、ラスベガス-ロサンゼルス間を結ぶ高速鉄道の計画で、アメリカ側の契約企業でありますエクスプレスウエスト社が中国鉄道総公司との合弁解消を、2016年6月に発表しました。

 ご記憶の方も多いと思いますが、2015年9月に、習近平主席が訪米前に、大々的に発表しました。2016年9月に着工すると大々的に報じられたにもかかわらず、合弁解消発表となってしまいました。

 合弁解消の理由として「中国企業がやるべきことを時間通りできていない」と計画の遅れをその理由として挙げています。

 習近平主席の訪米の成果として強調するためにぶち上げたプロジェクトとして成立した契約ですので、それを傷つけられるような寝耳に水のこのニュースは、中国には大きなショックでしょう。中国側は、早速「無責任な行為で契約違反だ」と批判しました。

 アメリカ側は、もともと中国企業の実態情報を持っていて懸念していましたが、政治的な色彩が強い契約だったでしょう。

 もともと、アメリカには「バイ・アメリカン法」という規制がありますので、合弁でないと成立しない契約です。ところが、契約主義のアメリと、技術的にも追いついていない中国の事情から、計画通り進まないことに対する感覚的なずれは、直ぐにほころびとして出てしまったのです。

「バイ・アメリカン法」は、日本の自動車産業をはじめ、アメリカに工場を持つ契機となった、アメリカ側の鉄鋼産業保護や多くの製造業保護の産業育成政策という、雇用機会確保を目的とした、ご都合主義による法律です。

 アメリカ国内の公共事業においては、アメリカ国内で生産された鉄鋼やその他の製品を優先的に使うことが義務化される法律です。高速鉄道という巨額な資金が必要なプロジェクトでは、巨額な融資が必要であり、この条件を満たさないと認可もおりません。

 この法律に反しますと、巨額の罰金が科せられます。

 しかし中国は、国内の過剰生産となっている鉄鋼をなんとか消化しようという目論見があったのです。そのために、「バイ・アメリカン法」を無視してでも強引にこのプロジェクトを推進したいという思惑です。

 アメリカの契約企業でありますエクスプレスウエスト社は、この法律を犯してまで推進するリスクをとることには、当然のことながら躊躇し、その結果として契約解消に繋がったのです。


【参考資料】
 冷泉彰彦のプリンストン通信
 まぐまぐニュース
 Gooニュース
 NHKサイト

 

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