21日に岩波ホールで公開された作品「シリアの花嫁 」を観てきました。
物語の舞台は、シリアとイスラエルの国境に位置し、1967年の第三次中東戦争以来イスラエルの占領下にあるゴラン高原。
(以下簡単なあらすじ)
イスラエルの占領下で元々土地に住んでいた人々は<無国籍者>となり、結婚などでシリアとの「境界」を一歩越えてしまうと二度と戻って来られず、家族に会えなくなってしまう・・・
そんな状況下で暮らすドゥールーズ派の一人の女性モナが、シリア側の男性に嫁いでいくことに。
相手はシリアの人気俳優タレル。
2人は一度も顔を合わせることのないまま結婚を決意する。
新婦モナを迎えに、タレルはバスで「境界線」に向かう。
一方、モナと永遠に会えなくなる一家は、お祝いムードのバスとは対照的な雰囲気・・・
双子のように仲が良かった姉。
親シリアの政治活動によって警察から目をつけられているため、娘との永遠の別れの日にも「境界」に行くことを許されない父。
父の反対を押し切ってロシア人の女性と結婚したため勘当され、父との空白の8年間を取り戻そうとする兄。
初対面の結婚相手に対する不安や家族との永遠の別れに、表情を曇らせたままのモナ。
それぞれに葛藤しつつ、一家は境界線に向かうのですが・・・
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作品は2004年に製作されたものですが、中東を取り巻く悲しいニュースが絶えない今、日本でこの作品が公開される意味は大きいと思います。
私の場合、まさに「百聞は一見にしかず」で、作品を観ているうちにシリアとイスラエルとの間に横たわる複雑な背景が頭に自然と入ってきました。
絶えない紛争の背景には、信仰する宗教の違いがあり、ユダヤ人とアラブ人の紛争の歴史があり、被害を受けた人々の怒りが子へ、子から孫へと受け継がれていく「憎しみの連鎖」があり……
様々な問題が複雑に絡み合う中東の背景を一から正確に理解するのは大変だと思いますが、切り取られた映像や偏ったテキストで認識を誤るより、スクリーンで人々の境遇や葛藤を疑似体験する方がより真実に近づけるのかもしれません。
国や民族の違いを越えて同じ地球に住む人間だからこそ、葛藤も痛みも同じ。
もしこれが、自分の家族だったら・・・。
この瞬間にも紛争の火種はくすぶり、何の罪もない人々の生活に暗い影を落としているんですよね。
ただ、この作品が本当に素晴らしいのは、重いテーマが重く描かれていないことだと思います。
作品の中に散りばめられた数々のユーモアが笑いのツボを押さえていて、美しい女性たちは逆境に負けず、自ら運命を切り開いていく力強さに溢れています。
観終わった後は考えさせられることも多いですが、登場人物たちのチャーミングさ、ユーモアに励まされるかも?
作品を支えるのは、まず、登場人物の葛藤を見事に表現している俳優陣。
舞台はシリアですが、監督はエルサレム生まれでイスラエルの作品も多く、数々の賞を受賞しているエラン・リクリス氏。
脚本はパレスチナ人としてのバックグラウンドを持つスハ・アラフ氏。
イスラエルとパレスチナ、ユダヤ人とアラブ人。
監督をはじめとした製作スタッフが異なる背景を持つ当事者同士であることも、この作品に深みを与えています。
たった50メートルにも満たないゴラン高原側とシリア側の「境界線」で、最後にモナが取る行動は・・・。
大どんでん返しではありませんが、印象的で、衝撃的な結末です。
ぜひ観に行ってみてくださいね☆☆