変な時間に目が覚めた
トイレに行き
毛布を体に巻き付けテラスに出てみる
ネオンかと思うような満天の星
冬の澄んだ空気のせいかそれらは美しく瞬いている
星をまぶしいと思ったのは初めてだ
ガスのように見えるのは星雲だろうか
思いもよらない光景に息をのむ
標高が高く
人工的なものも少ないのだから
星がきれいに見えるのは当たり前で想像に易いのだけれど
気持ちがエベレストに向かっていたのでこの光景はノーマークだった
ほんの数分間に流れ星を3つ見たが
願い事は1つも言えなかった
携帯の目覚ましが鳴り
まだ薄暗い中停電用の懐中電灯を片手に展望台を目指す
ほぼ一本道なので迷うことはないが
それでも途中不安になり開店準備をしていたお店の人に道を尋ねると
「1000円でどうだ」
と言われる
丁寧に断わり先をいそぐ
緩やかなカーブの先に車が数台止まっていて
そこが展望台の入り口だった
丸太の階段を上ると先客が数名
あまりの寒さに1杯50円のチャイが飛ぶように売れていた
かくいう自分も2杯飲む
小さい場所にいる連帯感から何となく会話が始まった
インド人親子
中国人カップル
アメリカ人夫婦
そして日本人一人旅
やがて空の色が変わりはじめ
太陽が顔を出した
高い空には藍が残り
稜線は白くぼやけている
その間
黄とも朱ともつかない色がまざりそうでまざらない
あいまいなボーダーが山に沿って続いている
もうどの山がエベレストかなんてわからなくても
目の前の光景に圧倒されて言葉も出ない
それは感動でもあり
恐怖でもあった
昔から圧倒的な自然を前にすると
どうあらがっても勝てないのだと思い知らされ
怖くなる自分がいた
そうやって長い正月休みの最後の朝を迎えた
帰りの空港で
余ったお金を使おうと売店を覗いた時のこと
もう二度と飲むこともないだろうと思うといとおしくなり
手に取ったファンタオレンジは
さっき見た朝日に負けないくらいの
あざやかな朱色をしていた