凄まじい勢いで俺たちのもとに走ってきたのは、


3年の主将の堤下さんと2年の船本さんだった。


堤下「見学生か。とりあえず面突き教えるからやってみ。」


面突きとは格闘技でいうワンツーという、


もっとも基本的な左右のパンチの組み合わせである。


日本拳法は戦後の日本の大阪の吹田が発祥なので、


基本的に技名は全てひらがな交じりの漢字で表記される。


面突きの型を教えられて、


ひたすら繰り返した。


いや、


繰り返すしかなかった。


「腰はもっと低く。」


「相手のあごを狙うことを意識して。」


「打つよりも引くことを意識しろ。」


ダメだしのオンパレードだった。


それもそのはず。


15年間生きてきて、


格闘技のパンチなんか打ったこともないし、


それ以前に「見学」だけのつもりで来たのだから、


興味がないのだ。


人間、興味が無いことに首を突っ込むことほど辛いものは無いと、


このとき初めて学んだ。


しかし、


そんなことを忘れさせるほどに、


この練習はキツかった。


1時間ほど経ってから、


堤下さんと3年の本郷さんが胴の防具、


剣道の時に身に着ける胴の防具の下に、


内布団という分厚くて固いクッションを着けた状態でやってきた。


日本拳法は本気で殴り合うために、


防具はものすごく頑丈に仕上がっているのだ。


頭の鉄面、胴の防具、股間の防具、専用のグローブ、


その総重量はおよそ6kg。


馴れない時期は装着しているだけで疲れる。


胴の防具を着けた堤下さんと本郷さんが、


「遠慮なく本気で打ってきて。悪いところ言うから。」


知り合って間もない人をいきなり本気で殴れと言われても、


殴れるわけがない。


しかし、


俺の右側にいた田山と田山の右側にいた同じ新入生の二人は、


何の躊躇も無く本気でパンチを打ち込んでいた。


この瞬間、


「こいつらはバカの集団なんや。」


とようやく気付いた自分がいた。


堤下「おい、お前の番やぞ。打ってみ。」


俺「あっ、はい。」


田山とその隣りのやつが全力で打ったからには俺も打つしかない。


全力で拳をボディに叩き込んだ。


先輩の表情が変わった。


つづく。