表情を変えた堤下さんは言った。


堤下「お前、全然弱いな。もっと腰を捻って打ち込んでみい。」


俺「はっはい!!」


とにかく言われた通りに拳を打ち込むことに必死になっていた。


いや、


周りの空気がそうさせていたのだろう。


堤下「先に打ち込んだ二人は強かったけど、お前はそうでもないな。そこの二人、名前は?」


田山「田山です。」


中花「中花といいます。」


堤下「おう。で、お前は?」


俺「・・・野口です。野口太助です。」


堤下「そうか。お前はまだ打ち込んでもらおうか。」


見学に来たはずなのに、


来てそうそうまともな話もさせてもらえず、


興味のない変なワンツーの打ち方を教えられ、


挙げ句のはてに弱いと決めつけられる。


北斗の拳のケンシロウの様に北斗神拳が使えれば、


迷わず北斗百烈拳を叩き込むぐらいムカつくのが一般の主な気持ちであろう。


しかし、


俺はそんなことを思う余裕すらなかった。


完全に疲弊していたのだ。


「オッス!!!お疲れさまです!!!」


突然先輩たちが一斉に同じ方向に対して挨拶をしだした。


(何てパワフル極まりない挨拶なのだろう。


こんな挨拶を挨拶と呼んでいいものなのか。)


「誰が来た」ということよりも、


挨拶の仕方の方が気になっていた。


堤下「松先生、お疲れさまです。」


松「おつかれ。新しい一年生たちか?」


どうやらこの清嵐高校日本拳法部の顧問の先生のようだ。


見た目は完全に綾小路きみまろだったが、


声はすこぶるダンディーだった。


それと、


綾小路きみまろほどもみあげは無かった。


松「そうか。お前ら、面突きっていうのはな、角度が大事なんや。ええか?よく見とけよ。」


速くてコンパクトなワンツーが俺達に披露された。


綺麗な突きだった。


普通ならば綾小路きみまろがワンツーを打っているとウケるところだが、


不思議と笑いは一切起こらなかった。


別にスベっていた訳ではないのだが。


松「ええか?今みたいに打つんやぞ。ほな、打ってみ。」


再び打ち込みが始まった。


そして1時間後、


練習と終わりのミーティングの最後の出来事だった。


松「ほな、堤下。俺は水戸黄門を見なあかんから、先に帰るわな。後はよろしく頼んだ。」


堤下「うっす。わかりました。」


綾小路が由美かおるの入浴シーンの為にダンディーに帰っていった。


堤下「新入生、お前ら、明日から練習来るよな?おい、お前はどうや?」


横一列に並ばされた新入生達が、


一番端から一人一人名指しで明日の練習の参加の有無を聞かれる。


俺は一番左端に居たので、


参加の有無を聞かれるのは最後だった。


「行きます!」


「参加します。」


「もちろん来ます。」


誰一人参加しないと言うやつがいない。


クレイジーなやつらだった。


(誰か参加しないって言えや、ボケ。


ここで参加しないって言わなあかん。


俺は水泳部を創るんや!!)


と俺は心の中で堅い決意をし、


豪語していた。


俺の心は不変だと信じていたそんな矢先の事だった。


堤下「おい、田山、お前は?」


田山「行きます。」


堤下「おい、野口、お前は?」


俺「えっ、あっ・・・行きます。」


高校生の決意とは儚いものだ。


俺は完全に脱線した。


つづく。