堤下「よし、じゃあ明日6限目が終わったら集合な。」


解散した後、


着替えながら彼はこう考えていた。


(どうせ行かなければええんや。


それなら問題ない。


そうや、明日体操服を忘れよう。


そうすれば行かなくて済むはずや。)


そう考えながら着替えていたが、


シャツを着るだけでものすごく時間がかかった。


考えに集中していたのではない。


初めて本気で拳を握り、


本気で打ち込んだことによって、


慣れなかったせいだろう、


手に力が入らなくなってきたのだ。


ネクタイピンすら握れないほどに。


そして、


更なる悲劇が俺を襲った。


なんと、


明日の時間割に体育があったのだ。


体操服には名前がプリントされているために、


他のクラスメイトから借りることが出来ない。


入学したてで体育の先生に怒られるわけにはいかないからだ。


そのため必然的にジャージを持ってこないといけないため、


部活で体操服を忘れたという言い訳ができないのだ。


そして当日の放課後、


案の定、


田山が迎えに来た。


田山「一緒に行こうや。」


俺「おっおう。」


田山が死神に見えた。


こうした拉致生活がしばらく続き、


1週間後には署名という名目の入部届へのサインが行われた。


少年は清嵐高校日本拳法部に入部したのである。


いや、


させられたのである。


入部届けを出すと、


グローブと胴着の注文をしなければならない。


顧問の松先生が胴着のサイズを新入生に聞いて回っていた。


グローブは1週間ぐらいで届いたが、


胴着は一ヶ月ぐらいかかった。


そして胴着が届くまでの間は、


防具を付けた実戦の練習はさせてもらえなかった。


頑強な防具を装着したポイント制の競技とはいえ、


本気で撃ち合うために、


一ヶ月で身体を慣らす必要があったからである。


身体を慣らすために主として筋力トレーニング、


筋トレが行われた。


腹筋、背筋、腕立て、刷り上げ、首が主なメニューだった。


そしてグローブが届いてからは、


空乱という寸止めの当てないスパーリングが新入生にとって主な練習になっていた。


まぁ寸止めと言っても実際には軽く当てていた。


本当に軽くだということを後の実戦で知ることになる。


先輩が実戦の練習中は、


先輩の外れた防具を付け直したり、


水分補給や冷却スプレーを患部にあてるなどのサポーターをさせられていた。


そして一ヶ月が経ち、


胴着が届いた。


胴着が届くまでの間に、


空乱と筋トレを主とした練習のほかに、


顔は防具無しの寸止めで、


胴と金的部分のみの防具を付けた練習をさせてもらっていた。


練習に参加した日が新入生の中でも多かったからだ。


彼を含めて3人いた。


田山とそして初日に田山の隣りにいた中花だった。


中花は野口と同じ公立高校の受験に失敗し、


プリズンブレイクである清嵐高校に収容されたそうだ。


地元も同じだった。


胴着が届いた日に、


堤下さんが言った。


堤下「今日来てる新入生、部室に行って自分に合う面と防具持ってきぃ。」


面とは頭にはめる鉄でできた頑丈な防具である。


個々に専用のサイズがあるのだ。


田山と中花と他の新入生と伴に部室に防具を取りに行った。


そして防具の付け方を先輩に教えてもらいながら防具を装着した。


胴と金的部の防具を付けることには慣れていたが、


面の防具は初めてだったので慣れるも何もなかった。


タオルを面の内側に入れるのだが、


このタオルのせいで息が非常にしずらい。


そして視界が狭く、


頭が圧迫され、


本当にフラフラになる。


立っているのがやっとだった。


堤下「集合。」


堤下さんの号令と伴に全員が練習場の真ん中に集まった。


床はコンクリートの練習場に。


堤下「適当に相手作って。あと新入生には本気出さないようにな。」


周りは次々と相手を見つけていく中、


俺は防具のせいで頭がフラフラするせいか、


ぼーっと突っ立ていた。


すると1人の先輩が声を掛けてきた。


本郷「おい、俺とやるぞ。」


それは初日の見学を無理やり練習に変えた堤下さんの親友の本郷さんだった。


本郷さんは投げ技と寝技がメインである組み技が大好きな先輩だった。


そのことを俺はすでに知っていた。


(この人にコンクリートの上で投げられたら、


俺死ぬ。)


そう思って断ろうとしたとき、


号令がなった。


「蹲踞(そんきょ)!!」


「礼!!」


「初めっ!!!」


ゴングが鳴ったのだ。


俺にとっての初めての闘いが始まった。


本郷さんが俺に対して大きく構えた。


つづく。