逆西部劇:「真夜中のカウボーイ」 | 映画探偵室

逆西部劇:「真夜中のカウボーイ」

東から西へのフロンティアではなく,西から東への逆行。そんな感じを与える御上りさんカウボーイが荒んだニューヨークで体験する現実。これはタクシー・ドライバーにおけるニューヨーク以前の風景だった。ジョン・ボイトがカウボーイの格好をしているのは自分がこれでダンディに見え,モテまくった上,それでヒモ生活が可能になるとお目出度くも考えていたからだった。それが錯覚に過ぎなかったことは,彼にまつわりついてきたのがラッツォ(どぶ鼠)という仇名のオカマ専門ポン引き(ダスティン・ホフマン)であることで分かる。なんと彼の気張ったカウボーイ姿はホモの符牒だったのだ。
この映画のタイトル・ミュージックは別にあるが,私はなぜか同時期にヒットした「ボクサー」(サイモンとガーファンクル)がこのテーマであるような気がしてならない。
- In the clearance stands a boxer, he is a fighter by his trade (四角いマット(clearanceは他にも開拓地という意味がある)に立つボクサーは職業戦士だ)
- Lie la lie, lie la lie lie, lie la lie...(みんな嘘だ,嘘だ,嘘だ….)
悲しい話の結末はさらに悲しい。自尊心を犠牲にしてようやく小金を稼いだ二人がニューヨークを捨て(ニューヨークに捨てられ)フロリダに出かける時になって,はじめてジョン・ボイトに女からやさしい声がかけられる。
「どっから来たの」
「ニューヨークさ」
「まあ,ステキ」
この感覚は地方から首都に出てきた人間でないと分からないだろう。ワタシもかつてはそうだったから。
そしてバスの中でのラッツォの最後のせりふは,「おれ漏らしちまった。」
ある意味で70年代のアメリカを象徴するような映画だったし,あの頃の日本の若者も深く共感した。70年代はそんな時代だった。