「汽車を見送る男」:脱線 | 映画探偵室

「汽車を見送る男」:脱線

前の記事の中でワタシが誤って「汽車を待つ男」としてしまった箇所があったが,その言い訳をしたいと思う。洋画という括りからは外れてしまうが,実は映画(TV)製作者の間でも,一部ホラー好きの人にも伝説にまでなっているTVシリーズに「恐怖劇場アンバランス」というのがあり(現在のTVシリーズ「世にも奇妙な物語」はこの後継にあたるかも知れない),ワタシはたまたまリアルタイムで見ていた。恐怖劇場アンバランスは名うてのホラー作家の掌編を円谷プロが特撮を交えて,それぞれ名だたる面々が脚本・監督し,これまたこの俳優がという俳優(岸田森,唐十郎,緑魔子等など)が演じたものである。案内人は青島幸男であり,引き続いて血だらけの手が画面を左から右に移動するとタイトルが出る仕掛けになっていた。あまりの怖さにスポンサーがなかなか付かず,放映枠も11:30となり,ワン・シリーズした後でお蔵になって(スポンサーが降りた)しまった曰くつきのシリーズ。その中で数本は熱心なファンの後押しで映画化され,小劇場などでも上映されたらしいが,私は映画の方は見ていない。このシリーズの他の作品についてはいつかお話するとして,その中に今でも忘れられないものに別役実作の「あの角の向こうには」と「サラリーマンの勲章」がある。この後者がワタシ流に言えば「汽車を待つ男」にあたるのだ。これはおそらく普通のサラリーマンなら一度は経験したであろう,ある日突然日常のコースを外れたい誘惑に駆られ,そのまま蒸発してしまうハナシである。この2編ともおどろおどろしい場面は皆無で,前者は喜劇風にもなっているが,これがジワッと怖くて,後を引く。そのきっかけは,いつもの電車に乗りそびれる(乗らないでみようか,とふと思う)ことだからだ。主人公の中年サラリーマンを梅津栄が,東京で秋田郷土料理を出す小さな酒場をやっているのが富士真奈美だった。このブログの読者には自分の物語を織るのが上手な人が多いようなので,ワタシが書くのはラストシーンだけにする。それぞれの人が自分の人生に置き換えて埋めてみてください。
普通のサラリーマンならまだ会社にいる時間,梅津栄は椅子などもまだ逆さにテーブルに載せられている状態の開店準備中の酒場の片隅で,幸せそうにあの秋田女から教わった「秋田音頭」をゆっくり味わうように低い声で歌っている。
- 秋田音頭です,はい,はいな,きたかさっさ,どん…


富士真奈美ほど美人ではなかったが,ワタシが中央線沿線のある町に住んでいる頃何度か行った秋田酒場に,ワタシにも本当の秋田音頭を教えてくれた女がいた。