「離愁」(12)
主人公たちの貨車では持ち帰ったブドウ酒と食料で宴会が始まった。酒場女(ジュリー)がフランスの伝統的な庶民の歌を歌いだし,一座の真ん中に立ってラインダンスを下品にしたような踊りを始める。
その騒ぎから離れて二人が会話している。アンナの表情は暗い。宴会が本当は不安を打ち消すための半ば自棄から来ていることを知っているマルセルは言う。
マルセル:「みんな退屈なのさ」
アンナ:「退屈?だって戦争中なのよ。戦争なのよ」
そしてじっとマルセルの顔を見ると「兵役は」と聞いた。
マルセル:「二級免除だ」
アンナ:「え,何ですって,意味が分からないわ」
マルセル:「僕は近眼だから。」そして片腕の無い男をさして言う。
「あの男が一級だ。僕は子供の時からメガネが嫌だった。フクロウとあだ名をつけられてね。女の子にももてなかった。そのうち慣れたけど。」
アンナはそのメガネの顔をじっと見つめ,それからマルセルのメガネをとって自分でかけておどけてみせる。
踊りが終わって休もうとする時までしつこく迫る町医者から逃げるように二人の隣にやってきたジュリーをなおも町医者が追いかける。ジュリーが言う。
「よしてよ,もう何回も楽しめる年じゃないのよ。」
そして列車は終に駅に到着した。ホームには赤十字の援護隊が待ち構えている。場内アナウンスが流れる。
「ムーランです。スダン方面から避難して来られた方は1番ホームの相談所においでください。ご家族,親戚,ご友人についての情報をお知らせします。」
貨車では用意はできたが決心がつきかねているマルセルに,アンナが言っている。
「行ったら?ここで待ってるわ。」
相談所のある1番ホームへの地下連絡通路は安否を尋ねたい人々で押し合いへし合いの混雑であり,殆ど先に進めないほどだった。騒然とした中でそれでも何とか近づきたいと焦る人々の頭上に爆撃音が聞こえ,空襲警報が突然鳴り出した。人々は一転,われ先に逃げようとするが身動きがとれない。決断が迫られた。
貨車ではアンナが手で顔を覆ってうずくまっている。
マルセルはとりあえず止まっている客車の中に妻と子供がいないか見て廻る。しかし客車に乗っているのはどこか別方面から来た人々と,戦線から戻ってきた兵隊達だけだった。貨車の上からそれを見ていたアンナは,マルセルの方に腕をいっぱいに伸ばす。早く戻ってきてと訴えているようだ。また同じ面々がその貨車に集まって来くると,慌しく避難列車は発車する。赤ん坊連れの若い母親も戻ってきた。やっと腰を下ろしたマルセルにアンナは言う。
「次の駅で会えるわ」
「そうだね。」
果たしてそうか。画面にはまたドキュメンタリー・フィルムが挿入される。侵攻するドイツ軍の戦車と爆撃隊。そして地上のあちこちから上がる黒い煙。林の中の大型砲からは次々と砲弾が発射され,彼方ではそれが着弾して爆発している。それを背景にドイツの歩兵たちが進軍を続けている…
また画面に色が着き始めると,列車に並行するように徒歩や車で鉄橋を渡って避難する人々の列が映し出される。列車は郊外の安全な場所にひとまず停車することになった。運河の傍ののどかな町。まぶしい陽光の中,子供がおもちゃのヨットを運河に浮かべている。気がつけば今日は天気もすこぶる快適な日曜日なのだ。
戦争のさなかの日曜日。人々はどう時間をすごすのだろうか(続く)。