「離愁」(9) | 映画探偵室

「離愁」(9)

酒場女を中心に暇つぶしの賭けトランプが始まった。酒場女はかなり入れ込んでいる。男たちがからかう。「いやに本気じゃないか,戦争みたいだ」。そして化粧の濃い酒場女が答える。「だって,負けるの嫌だもの」
途端に列車は急ブレーキをかけた,爆撃が始まった。列車の後部から炸裂する爆弾の火が追い迫っている。
列車中の者はみな線路脇の溝や藪めがけてあわてて避難する。すぐ近くの民家が被弾して炎があがる。
土手下で男が女を庇うように上からおおい被さった時,女が首を返して言った。
「靴が脱げたわ」
一瞬理解できなかった男も後ろを振り返り,爆弾を警戒しながら身体を伸ばしてその靴を拾ってきた。二人の顔には炎の揺らめきが反映している。
男は拾ってやった靴を手にして言う。
「いい靴だね」
女はそれを履きながら言う。
「ロンドンで買ってきたの」「え?」「ロンドンよ。よく行くのよ」
「金持ちなんだね」「わたしは違うわ」
みつめあう二人。

爆撃が終了した合図の汽笛がなって,非難していた者たちが貨車に戻って続きをやるのを無視するように,女は入り口のところに座ると,膝を男の反対側に向けて立てた。女は男の視線がその脚に集中しているのを知ると振り返って「ふっ」と笑った。そしてガーターが見えるほどまでスカートを捲くるとストッキングを男の目前で脱ぎ捨て,そのまま眼の前の藪に投げ捨てた。藪の木に引っかかったストッキングに炎の揺らめきが映っている。再度男の方を振り返った女は謎の笑みを浮かべた。

列車は夜の中を走っていた。町医者を含め皆寝入っている中で人相の悪かった男が「しっ」と合図して酒場女の横に割り込み身体に手を回す。
男がその方に視線をやったとき,隣に寄り添うように寝ていた女がじっと男の顔をみつめて英語で囁いた。
「抱いて」
そして自分からベージュのパンティを脱いだ(続く)。