これこそ西部劇 | 映画探偵室

これこそ西部劇

サムペキンパー監督,ダスティン・ホフマン主演の「わらの犬」

およそアメリカ映画に出てくる弱そうな主人公の代表格であるダスティン・ホフマンの映画ではあるが,これはれっきとした西部劇,男の伝説がどのように生まれるかを描いたものである。冒頭,子供が墓地で遊んでいる場面にそれは凝縮されている。もう墓に入っているかつての英雄とは実際にはどんな男だったのかと。村中の男たちを相手にたった1人で立ち向かい,ほぼ壊滅させてしまったほどの男とはどんな男だったのか。なんと,宇宙工学を専門とするひ弱な数学者だったのだ。ではなぜ,ひたすら平穏を求めて妻の故郷であるイギリスの田舎にやって来た平和主義者の男が,英雄になったのか。それは妻への暴行に対する復讐,ではなかった。彼よりももっと弱い者,白痴の男を誤って車で撥ねてしまったからだった。その白痴は彼の車に跳ねられる前に,誤って女をしめ殺してしまっており,村人は犯人を引き渡せと彼の家に押しかけた。あらゆる知恵と手段を尽くして戦う暴力場面は圧倒的で息がつけないほどだ。すべてが終わって彼が勝ち残った時,彼に居場所はもう無かった。彼は妻をその家に置き去りにして(ただし,<大丈夫か?>とは訊いている),保護した白痴の男と一緒に車に乗ると闇の中に消える。赤いテール・ランプが遠ざかる画面に白痴の男が尋ねる質問とその答えがスーパーとして出る。「これから何処へ行くんだ」「俺にもわからない」。

題名の「わらの犬」は荘子の言葉,人間は天からみれば(命のない)藁でできた人形でしかない。命は天から与えられるものであり,(それが無ければ)平和主義者などといっても暴力から逃れる術はない,から来ていると言われている。

見終わったあと立ち上がれないほど圧倒された映画であった。ワタシが当時兄事していた監督はもう故人だが,この映画を「西部英雄伝説の真髄」と言っていた