交流あるいは蜘蛛の巣
シムノンが「カンヌ映画祭の審査員」であることをきっかけに,フェリーニと約20年にわたり文通していたことは良く知られています。本物の芸術家であることを互いに認め合っていることがその書簡から伺うことができます。汽車を見送る男であるキースポピンガの唯一の自慢は自家用のボート(カヌー)で,彼はそれにゼートイフェル号という名前をつけてい ます,これは辞書を引くと「エイ」であり,オランダ語のゼートイフェルは英語のシーデヴィル,つまり海の悪魔または海の怪物ということになります。実は,これがフェリーニの「甘い生活」終了間際に浜に打ち上げられる怪物なのであり,口や腹から無数の水母が溢れ出て来る(お,おぞましい)場面に繋がります。フェリーニの意図は明白でこの人間世界のおぞましさ,罪の深さを象徴しているわけですが,その後の一筋の救いのような場面はあまりにも象徴的です。砂浜にできた小さな川のむこう岸で少女が微笑みながら「こっち側にいらっしゃい」と主人公に呼びかけているが(口の動きからすると,「私はおじさんが好きよ」と言っているという説もあります),主人公のマストロヤンニにはその声が聞こえない....。そしてこのマストロヤンニがヴィスコンティの監督した「異邦人」でムルソーを演じたのでした。