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たくましい体に美しい毛をまとって平原をまっすぐに立って歩くホモ・エレクトゥスたちに比べれば、水辺で潜り、魚を捕り、貝をむさぼる、頭から長い毛をたらした、全身真っ黒の二足歩行する類人猿は、悪夢の中から生まれた妖怪と形容したほうがいいだろう。私たち現代人の出現は、そういうものだっただろう。
非常に面白かったです!
著者は「親指はなぜ太いのか」で人類の最初の主食は骨髄食だったという説で驚かせてくれた島泰三さんです。
島さんは動物のニッチは「棲み分け」ではなく「食べ分け」によって決まり、人間を含む類人猿の手(指)と口(歯)はその主食に適応した形状となっているという「口と手連合仮説」を提唱されています。
アウストラロピテクスは、他の肉食獣が食べ残した骨を食べるのに適した手(骨を砕く石を持つ形状)と口(骨をすりつぶせるだけの分厚いエナメル質と平らな歯列)を持っていた、という説です。
この本はこの説のおさらいの後、アウストラロピテクスの次に現れたホモ属で、身長・脚、脳が大きくなりホモ・サピエンスにかなり近い姿になった「原人」ホモ・エレクトゥスについての考察へと続きます。
ホモ・エレクトゥスが使っていた大型の牙状の石器であるハンドアックスには使用した跡、傷が無いものが多いことから、「他の肉食獣に対する威嚇に使っていた」という仮説を提唱されています。
アウストラロピテクスはライオンなどが立ち去った後の骨しか得られなかったが、より体も大きく、ハンドアックスという大きな牙で威嚇できたホモ・エレクトゥスはライオンを追い払い肉を横取りすることもできた。(恐らくレバーを食べ過ぎてビタミンA過剰になっていた痕跡のある化石すらある)というものです。そしてこの「王獣」とも呼べるエレクトゥスの正統な後継者が、大型獣ばかりを狙い、壮絶な格闘をして倒していたネアンデルタールだと・・・
では、私たちホモ・サピエンスとは?それが冒頭に引用した文であり、以下の通りです。
約20万年前と特定されるホモ・サピエンスの起源には新しい種が生まれるほどの地球規模の環境変化はない。
氷河期に入って激変する環境の中で、ホモ・サピエンスは出現したが、それがことさら注目されるのは、裸の皮膚である。この寒冷化する環境の中でこそ、毛皮は役立つはずである。それを失った特殊な事情とは何か?
ホモ・エレクトゥスの突然変異によって裸の別種であるホモ・サピエンスが誕生したと、私は想定する。
ホモ・サピエンスの骨は他のホモ属に比べて例外的に細く、緻密度も低い軽い骨。
ホモ・エレクトゥスは、王獣であり、陸の支配者だった。ゴリラやチンパンジーが水域を好まないように、ホモ・エレクトゥスの重い構造の骨と筋肉の塊のような体では、水辺では暮らしても水中に入ることはなく、ネアンデルタールがそうであったように魚も貝も食べなかったはずである。
ホモ・サピエンスの最も古い化石が発見された19万年前のエチオピア南部のオモ川流域。
皮膚が裸の陸棲哺乳類の例はごく少なく、人間のサイズに近いものは、コビトカバとバビルーサしかいない。両者の生息域が熱帯の水辺であることは、裸の皮膚で生きてゆくには、一定以上の気温があって体温が維持でき、皮膚から蒸散する水分を常時補給できる環境が必須なのだと推測される。
ホモ・エレクトゥス類の裸の別種はことさら水辺や水中を好んだだろう。彼らは泳ぎができるので、王獣ホモ・エレクトゥスと競合することなく、貝類や魚を捕るようになった。ホモ・サピエンスは原人たちの世界の辺縁である水辺に、新しく魚や貝類などの海棲、水棲動物、そして海藻など水中、水辺の植物を食料とする生計手段を確保したのだった。
水辺の類人猿ホモ・サピエンスにとって、魚介類を主食にするニッチはことさら重要だった。それは脳の発達に欠くことができない栄養である必須脂肪酸や必須ミネラルの鉄やヨードなどが含まれているからである。
ホモ・エレクトゥスや他の肉食獣に怯え、水辺というニッチで細々と暮らす華奢でひ弱、だけど骨が軽くて泳ぎは上手い突然変異種ホモ・サピエンス。。。しかし仕方なく選んだ主食の魚介類には、脳の発達に不可欠で駆動力ともなる脂質、DHA・EPA等が豊富に含まれていたというラッキーな偶然・・・
この説だと「BORN TO RUN」ではなくて「BORN TO SWIM」ですね(笑)
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島さんの説によると、体毛を失ったのはホモ・エレクトゥスからではなくホモ・サピエンスからということですが、これを裏付けるようなネアンデルタール(島説では体毛有り)と我々ホモ・サピエンスのDNA比較の最新研究結果についても紹介されていました。数年後にはホモ属の体毛喪失の時期・種についてはっきりするかもしれません。
この他にも、言語と犬について、日本人の起源・脳の大きさについて等も大変面白く、非常に充実した内容の本でした。人類の進化・歴史について、何が真実なのか?本当に興味が尽きません。
後、もっと魚を食べよう!と思いました(笑)
裸の動物 コビトカバ



