「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は、仕末に困るもの也(なり)。
この『仕末に困る人』ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬ也」
「児孫(自分の子孫)の為に美田(財産)を買わず」
西郷隆盛 『西郷南州遺訓』より
西郷隆盛自身がこの、命も名声も地位も金も要らない「始末に困る人」だった
それを物語る逸話があります。
西郷さんは本当にすごい人だと思います。
ある時、木戸孝允邸で会議を行うことになり、明治政府の要人達に連絡がまわった。
しかし、定刻を過ぎても西郷隆盛だけが来ない。
木戸孝允が西郷を呼びに使いの者をやると、夏でもあり、西郷は自宅でふんどし一丁で何か書き物をしていた。
使いの者はその姿に驚きながらも「皆様お待ちなのでお越し下さい」と告げた。
しかし、西郷は「はい、委細承知申した」と答えるが一向に動く気配がない。
使者が「皆様お待ちなのですぐにお越し下さい」と懇願すると「はあ、じゃあ夕景までお待ちゃい」とあまりにものん気なことを言うので、使者も困り果てて、「主人も他の皆様もお待ちなので、何とかすぐにおいで頂けませんか」と必死にお願いすると、「実はな」と西郷は答えた。
「今日、たった一枚の着物を洗濯し申したので、それが乾き次第、すぐゆかんさ」
これには使者も二の句が告げられず、すぐに木戸邸に帰り、委細を話すと、一同は腹を抱えて笑った。そして木戸が自分の着物を使者に渡して「これを着てすぐに来て頂くように」と言いつけ、やがて、西郷はその着物を着てやっと現れた。
しかし、西郷は大柄だったので、まるで子供の着物を大人が着ているようにツンツルテンだった。それを座敷の真ん中で皆に見せると
「木戸どんの着物の短い事。じゃが、裸で道中はなりもわん。お陰でここまで来もうした。」
と西郷は大笑いした。
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