実は、精神科の開業医を戦々恐々とさせている問題があります。

それは、平成20年度の診療報酬改定です。現在は中央社会保険医療協議会で詰めの段階に入っており、来月中にも新しい診療報酬が最終決定される見通しです。

精神科の開業医にとって主な収入源になっているのは「通院精神療法」というものです。医療行為については、厚生労働省が定める保険点数がそれぞれにつけられています。通院精神療法というものも、しっかりと定義と保険点数が定まっています。具体的な内容と金額はこちらをご覧下さい。1点は10円に換算されるので、クリニックで再診患者に通院精神療法を提供した場合、360点=3600円の収入になります。

「精神療法」とあるので、何か特殊なカウンセリングを与え、それに対する報酬を得ているかのようなイメージがありますが、現実はそうではありません。

「こんにちは。調子はいかがですか?」「はい、いいですね。それではお薬は同じままでしばらく調子を見て行きましょうね。お薬2週間分出しておきますので、また2週間後にいらしてくださいね。さようなら。」(ここまで20秒)

こんなことでも通院精神療法として請求できてしまうのです。なぜならば、時間の長さや時間あたりの人数に明確な制限がなく、その質についても評価する手段がないからです。調子を聞いて薬を出すだけなら誰でもできそうですが、患者を秒察する精神科医は「素人にはわからない、専門的な技術があるのだ」とごまかすことでしょう。時間が長ければ長いほどよいという単純な問題ではありませんが、患者のために真剣に1時間以上時間をかける行為と、2,3秒で適当に終わらせる行為が同じように評価されてしまうのはおかしなことです。

そのような問題が認識されるようになったからでしょうか。通院精神療法に対する見直しが行われようとしています。まだ具体的には決まっていないようですが、時間軸が導入され、診療時間に応じて点数に差をつけることが検討されています。これに対して、多くの精神科開業医は反対しているようです。

反対の理由としては、時間をとることが必ずしも最良の手段となるわけではないというものが多いようです。確かに、時間の長さ=質の高さになるわけではないのですが、少なくとも時間軸を導入することで、使いようによってはかなりの悪徳クリニックを淘汰できるのではと期待しています。仮に、10分以内では通院精神療法が算定できないというようになれば、1日に外来患者100人を診て儲けているようなクリニックは真っ青になるでしょう。

精神科外来の診療時間について調査結果が協議会の参考資料として出ていました。サンプル数が少なく、初診と再診の時間が混じっているのでどこまで現実を反映しているかわかりませんが、平均診療時間が5分未満というクリニックもあります。15分以上時間をかけて真面目に診察しているようなクリニックばかりだと、時間軸導入によって逆に点数が高くなる可能性があり、反対する理由はないと思うのですが・・・。やはり必死になって反対しているのは、患者の回転を早くすることでボロ儲けしてきたクリニック関係者なのでしょうか。

東京クリニックでは、たった1人の精神科医が1日に200人以上の患者を診ていました。京成江戸川クリニックでは、同じく一人の精神科医が、1日に100人以上の患者を診ていました。トイレ休憩も食事休憩もとらずに8時間フルタイムで働いたとしても、使える時間は480分です。200人を診るとしたら、1人あたり2.4分です。仮に、200人全てに通院精神療法を適用できた場合、それだけでも72万円の収入です。これに再診料や処方料などが加算されます。一体いくらの収入になるのでしょうか。

患者の立場も様々です。時間をかけて欲しいと願う人もいれば、始めから精神科医には期待せずにただ薬だけもらえればいいや、という人もいます。そこで、時間をかけずに薬だけ出してくれるような精神科医療機関のニーズが高まり、特定の医療機関がネット上で話題になるようになりました。そのような医療機関は計算づくなのでしょう。リタリンやサノレックス、ハルシオンなど、人気の高い薬をつらつかせ、特定層をとりこにし、売人も引き寄せるような医療機関も出てきました。

到底医療機関とは思えないこのような行為は、長い間取り締まられることはありませんでした。しかし、昨年秋から社会問題となり、行政も警察もこのような医療機関に目を向け始めています。

通院精神療法の時間軸が導入され、同時に基準時間を満たさない場合に大幅減点(あるいは算定なし)になるようなことがあれば、患者をほとんど診ずに投薬しかしてこなかったようなクリニックは経営が危うくなるでしょう。恐らく、このようなクリニックは「患者のためにならない」ともっともらしい理由をつけて大反対することでしょう。彼らには、治療についての責任感があまりにも欠如しています。向精神薬の副作用について十分に患者に説明して理解させたり、患者がどのような状態にあるかを理解したり、患者が治癒される方向に向かっているのかをしっかりと評価し、今後の治療計画を設定・修正したりすることを真面目に行っているとは思えません。秒察など論外です。

今回の診療報酬改定により、患者を診ずに薬をただばらまくだけのクリニックが横行する精神医療の領域が大幅に浄化されることを心から願います。
http://www.tokyovalley.com/yahoo_blog/article/article.php
※もしも関係者がこのブログをご覧になっているようでしたら、通院精神療法に関して、関係団体の圧力に屈することなく、特定時間未満では算定できない決まりを導入していただくようお願い申し上げます。