私が一介の介護士としていつも模索していることがある。それは、高齢者に新しいモノやコトを体験してもらう方法が何かないかなということ。今回の話題はVR技術を高齢者にも楽しんで頂いた時のお話である。
まず、高齢者と先端技術などは一見すると相容れない水と油のように思えるけれど、これがうまく混ざると認知症予防などに効果の可能性があると考えている。まず前提としてこのような新しい取り組みに施設側が協力してくれるとは限らない。なので最先端と言っても自前で用意できる程度の安価なモノである必要がある。自腹までしてそんなことしないよという方もいると思うけど、私の場合、試してみて楽しんで頂きたいという探究心が勝ってしまっているようだ。
さて、話はコロナ禍以前に戻る。その頃はVRが流行りだしたころで、エンタメ施設などで体験するというのが一般的で所有している人はコアな方々でほんの一部であったと思う。そのような中、初心者向けのVRゴーグルが発売された。スマホをゴーグルに差し込む、なんちゃってVRではなく、基本機能を搭載したちゃんとした製品である。当時話題にもなり割と安価なこともあって結構売れていた思う。とは言っても私が購入するにはまだ敷居が高く、価格が下がってくるまで待つ必要があった。結局手に入れたのはセールで安くなった頃で製品自体が終売に近い時期だった。
実のところ、元々私がVRゴーグルを購入した理由は別にもある。当時ガンで闘病していた父に最先端の技術を体験して楽しんでもらいたいという強い思いがあったからだった。
そして、製品が届き早速父に試したところ、「ほーっ!へーっ!」とあちらこちらを見回して感嘆しきりで大喜びであった。その時の様子を動画に撮らなかったことを今でもすごく後悔している。その後も父は毎日のように恐竜ものや空撮映像、映画などを楽しんでいた。結果大成功で、ちょっと無理してでも購入した甲斐があったなぁと。母にも試したけれど怖がって途中棄権で合わなかったようだった。
まず家族で楽しんでもらったことで、これは施設の利用者さんにも使えるのではないか?試してみたいと言う思いに至ったのである。それから上司の許可をもらい実行に移すことになった。
高齢者に使用する前に事前に注意しなければならないことがある。
1、人によっては母のように怖がる人もいる
2、認知症の症状によっては、現実と区別がつかなくなる人が出る可能性があり、逆効果になり得る
3、ゴーグルを複数の人が使用するので衛生面に気をつけなければならない
以上主にこの3点は特に留意して使用する必要がある。
これを踏まえてみなさんに観て頂いた。結果は概ね良好だったと思う。空撮映像などを観て「まるで、天国やねー」という方もいらっしゃって多数の方々が楽しまれた。しばらく施設で利用して手応えも感じていたところ、時代とは残酷なもので最中にコロナの大流行が始まった。当然ゴーグルを使い回すというのは、かなりリスクがあるので大変残念だけれどこの試みを中止せざるを得なくなってしまった。
VRなどの技術は高齢者はもとより、障害などで外出が難しい方などにもかなり効果が期待できるのではないかと思う。
現在は世間ではコロナは無きモノようなあつかいであるけれど、コロナ対策は医療福祉の現場では依然として現在進行形である。あれから、VRゴーグルを使用する機会は失われ、私の部屋の片隅にひっそりと眠っている。いつか再び役に立てる日を待ちながら・・・。
時々想い出すのはあの時の父の喜び様だ。自分でも少しは親孝行らしきことが出来たのかな。
