介護士を長年やってきて私の想い出に残っている利用者さんも何人かいらっしゃる。今回はその中のお一人についてのお話。

 

 その方は女性の利用者さんで、戦前から続く会社をお持ちで、裕福な家柄の人だった。当時既に会社経営は息子さんに譲っておられたようである。  

 

 裕福だからといっても決して驕らず、いつも穏やかで、他人を思いやる優しい気持ちを持っていらっしゃった。しかし、戦争を経験され大変辛い思いをされた過去もお持ちで、空襲でお姉さんを亡くされ、多くのご遺体が山積みされた公園で火葬されたそうだ。その時の匂いが記憶に残り、しばらくは肉料理を口にできなかったとおっしゃっていた。送迎の時によくその公園の前を通る度に当時の出来事を思い出されているご様子だった。

 

 社交的な方だったので他の利用者さんとも仲良く交流され、会社の船に乗ってみんなで東京オリンピックを観に行こうと冗談まじり?!でよく話をされていた。他の利用者さんも「それまでは生きてなきゃね」と、ちょっとした目標になっていらっしゃるようだった。微笑ましい限りである。

 

 この方のご家族もとても感じのいい方々だった。同じように決して驕らず、送迎時にもいつも丁寧に対応して下さった。お嫁さんも社交的な方で、地元のボランティア活動など積極的にされていたようである。ある日、毎年街のお祭りのために絵を描いていらっしゃるとのことで、一度アトリエを見せて下さったことがある。様々な絵を描いておられ、どれも素晴らしい出来栄えでとても感嘆したものだ。英会話も出来られるそうで、まさに才女であられた。お孫さん達も明るい性格で伸び伸びと育てられたんだなぁと感じられ、お孫さんに「おじ様」と言われた時には、思わずあのルパンのアニメを連想してしまったけれど。(笑)

 

 それから一度、私に縁談の話をされたことがあり、ありがたい事だけれどもその時は自分自身や家庭の状況を鑑みて丁重に辞退させて頂いたこともあった。また、ある時は、「モモンガを飼ってるんだけど、夜飛び回るのよ。あなた飼わない?」というご提案も。流石にお世話する自信がなかったので辞退させて頂いた(笑)

 

 利用者さん本人もご家族も心豊かで気持ちに器の広さみたいなものがあられた(ご家族が介護でご苦労されておられたのは存じ上げているので悪い意味ではない)ので、私もあまりガツガツして生きていたらダメだなぁとつくづく思った次第であった。

 

 そういえば室内犬も飼ってらしたけれど、毎回吠えられて結局懐いてくれなかったなぁ(笑)