もう数年前になるけど施設を定年退職された送迎車のドライバーさんについて。


 その方とはまだ私が駆け出しの頃からの長い付き合いで、人間的に素晴らしい方だった。私はその方から仕事に対する向き合い方や人生について多くを学んだ。その方の送迎車に同乗する間が私のホッとする時間だった。元タンクローリーのドライバーをされていたので運転は抜群の腕前だった。ハンドルの切り返しも少なく狭い道路でのUターンも一発で決まる。丁寧な運転で安心して乗っていられた。

 

 他のドライバーさんと違うところはその方の人柄だった。同乗者が利用者さんをお迎えに行っている間、車内で待っている利用者さんに冗談を言って気を紛らわせてくれたりして常に見守っていてくれた。利用者さんのご家族にも冗談を交えながら必ず挨拶をし、雨の日は傘や荷物を同乗者の代わりに持ってくれたりサポートもしっかりしてくれた。こういったことは当たり前のことかもしれないけれどそれが出来てない人も少なからずいるのも現実である。ドライバーさんによっては自分は運転手だからと割り切って運転席に座ったままの方もいるので、仕事への向き合い方も違っているのだ。


 ご家族もこの方がお迎えだった時は安心すると大変な人気者だった。他の職員さん達からもこのドライバーさんの同乗の時がいちばんいいと言われていて、同乗中に職員の悩み事を聞いて相談に乗ってくれたりもして、いつも穏やかで、人に優劣を付けず、嫌なことも言わない、本当に人情味のある方だった。ただ、飲み会でアルコールが入ると陽気になり、足元が千鳥足になって周りを心配させたのはご愛嬌である。


 私は人付き合いが苦手で、このドライバーさんのようにはなれなかったけれど、今でも私の生き方の指針となっている。



 そしてもう一人、私には忘れられないドライバーさんがいる。この方も前述のドライバーさんみたいに真面目でとても優しい人だった。第二の人生をこの施設でドライバーとして就業されて二、三か月経った頃だろうか、ガンを患われてしまった。治療に専念するため退職されることとなり、お別れの挨拶の時涙を流しておられた。本当に無念の極みであられただろうと思う。あの時は皆で泣いた。その方の訃報を聞いたのはそれから間も無くのことであった。思い出しながらこの文章を書いていても涙が自然に出てきてしまう。


 私もどこかで誰かの大切な忘れられない人になっているだろうか?きっとまだまだだろうな。これからの人生、そういう人になっていけたらと思う。