自虐ネタだぞ(^o^)丿 -2ページ目

次の出会い

 お兄ちゃんの関係を一方的に終わらせられたわたしは、毎日モヤモヤした気持ちを抱えて生活していた。


 なぜ?


 どうして?



 何度もお兄ちゃんのことを思い、何か悪いことをしたのではないか?


 何かわたしに落ち度があったから、このようなことになったのだ・・・と、自分の粗探しをしていた。




 とにかく、理由が欲しかった。




 結婚しようとあれほど言ってくれた人が、どうして、酔った勢いの戯言だとまで言い放ったのか・・・




 何か自分に落ち度がなければ、そんなこと言われるはずがない・・・と・・・




 探せど探せど、自分が大した人間じゃないと分かっても、そこまでされる理由が見当たらない・・・






 当時、本業の他に、週3回ほどコーヒーショップで仕事をしていた。



 そこに、5つ年上の男性がいた。


 努力家の人で、挫折と立ち直りを経験してきて、話が面白く、人間的に豊かな心を持っていて尊敬していた。


 よく、いろいろと相談にのってくれた優しい男性で、わたしはその人にお兄ちゃんとのことも相談した。




 一通り話をした後・・・






 「ん~・・・なるべくサトちゃん(わたしの名前:佐藤悠美)の立場じゃなく、男としての立場で考えてみても・・・・・・・サトちゃんに落ち度があるとは思えないなぁ・・・・・・・」



 と、言ってくれた。



 「でも・・・わたしに落ち度がなければ、こんなこと・・・」



 「そう思いたい気持ちも分かるよ。でも、自分を追い込まないほうがいいんじゃないかな。オレはその人のことを直接知っているわけじゃないけど、どう考えてみてもそこまでする理由が思いつかない」


 「本当に、わたしが傷つくからとかいう遠慮はいらないから、なんでもいいから言ってもらえませんか?」


 「・・・・・・・・ごめんね。本当にオレはサトちゃんの落ち度を見つけられない。同じ男として、その人がやったことは理解出来ない無責任な行動にしか見えないんだよ。サトちゃんが嘘をついてるとは思えないし、多少大袈裟な表現があったとしても、自分の言動に責任を取れないダメなやつにしか見えないんだ」


 「じゃぁ、どうして?なんでこんなことになったのか分からないんです!」




 わたしたち二人しかいない店内にわたしの声が響き渡る。




 「オレにも分からない。オレは男だからサトちゃんよりはその人の立場で考えることが出来ると思う。でも、本当にサトちゃんの落ち度は分からない。そういうヘンなヤツもいる。サトちゃんは悪くない。だから自分を責めないことだよ」



 落ち着いたトーンの優しい声はわたしの心に染みた。



 言われていることは分かる。



 でも、どうしても納得出来ない。





 わたしは、仕事を終えて、一人家路につく。




 夜遅いので、電車の中にいる人の数も少ない。




 カタンカタンと、規則正しく車輪の音が響き、規則正しく電車が揺れる。



 周りでは携帯をいじる人、本を読む人、ゲームをする人、眠る人、話す人・・・



 それらの人をぼんやりと眺めながら、わたしはまたお兄ちゃんのことを思い出す。

 涙があふれるのを必死にこらえ、下唇を噛む。



 家に着いて、鍵を開けて扉を開ける。



 暗い部屋。


 寒い部屋。



 わたしはいつまで、一人、誰もいない、誰の帰りも待つこともしない部屋に帰る生活をしなければならないのだろう・・・




 綺麗な夜景の見えるマンションで、お兄ちゃんが「ただいま」と帰ってくる生活がすぐ目の前にあったはずなのに・・・


 今はもう遥か彼方、視界に映ることもない。





 わたしは悪くない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 そう、わたしは悪いことはしていない。


 でも、人の感じ方はそれぞれ違う。


 お兄ちゃんの立場で考えてみよう。



 もう、何度も何度も何度も何度も何度も考えたけど、また考えてみる。



 それでも、わたしには分からない。



 お兄ちゃんは「何があっても繋がりは消えない」と言ってくれたけど・・・



 数日前に当たり障りのない言葉を選んで送った短いメールの返信も未だにない。



 「繋がり」なんて、もう、ない。




 いつの間にか、杏露酒の瓶が1本空になっていた。




 わたしは、いつまでこんな気持ちで生きていかなければいけないのだろう・・・・・・・








 数日後、一回りも年上の先輩から久しぶりにメールがきた。


 その先輩も人生経験豊富で、特に女性経験が多い。


 この人なら、お兄ちゃんの気持ちが分かるかも・・・と、また相談をした。



 「悠美が悪いとかいいとかじゃないよ」


 「じゃぁ、なぜですか?」


 「それはね、男は気にいった女とヤルためならどんな嘘でもつくイキモノだからだよ」



 流石、女性経験が豊富な人は言うことが違う。



 「そういうイキモノだから、仕方ないと思うよ。悪いヤツにひっかかったね」



 やはり悪いヤツなのかな、お兄ちゃんは・・・




 コーヒーショップの人とこの先輩の言葉が、わたしを少し救ってくれた。



 かといって、毎日の「なぜ?どうして?」が消えることはなかった。




 そんな中、ネットのとあるサイトで一人の男性と知り合った。


 わたしの発言がいつも面白いから、一度話しをしてみたかったという、妻子持ちの男性。



 その妻子持ちの男性・・・須藤光さんは、趣味が合うこともあり、趣味の話しで盛り上がりあっという間に仲良くなった。


 わたしは、光さんにもお兄ちゃんのことを相談した。


 光さんの答えも、わたしは悪くない・・・だった・・・



 わたしは途方に暮れた。


 悪くないのならなぜ?


 理由もなく、人はあそこまで人に対して冷たくなれるのだろうか・・・と。



 腑に落ちないわたしの態度を感じ取ってか、光さんは度々お兄ちゃんのことを気にかけてくれた。



 3人の中で光さんが一番、お兄ちゃんの話しを聞いてくれた。



 話しを聞いてもらうだけでも、心が軽くなるのだと激しく実感した。


 光さんはこちらからお兄ちゃんの話題を振っても、いつも丁寧に答えてくれた。


 PCメールでのやりとりしかしていなかったけど、光さんが紡ぐ文字の数々はとても優しかった。



 毎日1通ずつのやりとりが続く中、わたしは一人暮らしをやめ、実家に帰ることを決めた。



 「もうすぐ二人で暮らすことになると思っていたのに、それが理由も分からずなくなって一人暮らしが苦痛になってしまいました。実家の家族に話したところ、快く実家に迎えてもらえることになったので、実家に帰ります」


 「少しでも楽になる道を選ぶのは、悠美さにとってとてもいいことだと思います。実家に帰って、実家でまたメールが出来る環境になったらメール下さい。毎日ネットをしているので、メールのチェックもします。引っ越し、大変だと思いますが、頑張って下さいね」


 いつも優しい言葉をくれる光さんに、わたしは図々しいお願いをした。


 「わたし、実家に帰ったら車の免許を取ることにしています。東京と違って田舎では免許がないとなにかと不便ですから。そこで、一つお願いがあるのですが、免許を取って運転が出来るようになったら一緒にドライブに行ってもらえませんか?こんな状態で実家に帰ることを決めてしまって、楽しみになる目標が欲しいのです。既婚者の方にこんなお願いして申し訳ないと思うのですが、光さんとは一度お会いしてお話してみたい気持ちがあるんです。他意はありません。純粋に友達として(勝手に友達と言ってしまうのも失礼ですが他に適切な言葉が見つからないので)、お会いしたいのです。迷惑でなければお願いします」


 本当に男性としての興味は全くなかった。

 既婚者の方に手を出したいとは思わないし、ずっと話を聞いてくれた人がどんな方なのか見てみたいという興味や、きちんとお会いしてお礼をしたいという気持ちしかなかった。



 その時は。

始まりの終わり

 年末、お兄ちゃんから電話がきた。


 「お前、正月はいつこっちに戻ってくるんだ?」


 「4日から仕事だから3日かなぁ」


 「3日じゃなくて、2日にしないか?んで、おまえの家で鍋しようぜ~」


 「鍋かぁ♪いいねぇ♪」



 予定はあっさり決まった。



 わたしの家は、郷里とお兄ちゃんの住む街の中間地点にあった。


 4日から仕事のお兄ちゃんは2日にわたしの家に泊り、3日に帰る予定にした。




 この頃、わたしは漠然とお兄ちゃんと結婚すると思っていた。


 電話やメールではあったけど、プロポーズ的な言葉を言われていた。


 遠距離でなかなか会えず、身体の関係はまだなかったけど、お互い愛し合ってると思っていた。



 お兄ちゃんは他の男を見ることをわたしに禁じ、将来はお兄ちゃんの住む街に引っ越すことを話し、二人で住む物件も探していた。


 「夜景の綺麗なマンションを見つけたんだ。ちょっと通勤には不便だけど、お前にオレの住む街の綺麗な夜景見せてやるよ」


 「え、本当に?楽しみ~♪」


 「でも、その夜景を見るには一つ条件がある」


 「条件?もったいぶらずにサクっと見せやがれ(笑)」


 「冗談なんかじゃなくて、大切な条件なんだからちゃんと聞けや」


 「わかった。真面目に聞く」


 「いいか?その夜景をお前が見る時は、オレと同じ名字になってる時だからな」



 わたしはそれをプロポーズだと思っていた。


 結婚するのだから、わたしの家にお兄ちゃんが泊ることは至極自然なことだし、拒否する理由など全くなかった。




 年末、わたしは家の掃除をして、実家に帰った。


 実家で新年を迎え、2日にまた新幹線に乗った。


 「一足先に行ってるね。最寄駅に着く前にメールちょうだい」


 「オレも用事済ませたらそっち向かうから、待っててくれ」





 そんなやりとりをして、わたしはアパートでお兄ちゃんからの連絡を待った。


 最寄り駅の一つ前の駅に着いた時に「もうすぐ着く」とメールが来たので、わたしは最寄駅まで迎えに行った。




 いつものスーパーで買い物をして、アパートに戻り、二人で鍋の準備をし、二人でお酒を飲みながら、締めの雑炊まで話しは尽きることなく、楽しい時間を過ごした。



 お兄ちゃんを先にお風呂に入れ、わたしは片づけをし、寝床の準備をした。


 お兄ちゃんがお風呂からあがり、入れ替わりにわたしが入り、その間テレビを見ていてもらった。




 わたしは、婚前交渉の否定派ではないが、お兄ちゃんといざ身体の関係を持つとなると恥ずかしさが勝ってしまったので、ロフトにお兄ちゃんの寝どこを準備し、わたしはこたつで寝ようとしていた。



 「おまえなぁ、嫁さんになる人をこたつで寝せる男はいないぞ」


 お兄ちゃんがため息交じりに言った。


 「わたしは明日もゆっくりできるけど、お兄ちゃんはまた新幹線で移動しなくちゃいけないんだもん。ゆっくり休んで欲しいから」


 「・・・そうじゃなくて」


 お兄ちゃんはわたしを抱き寄せ、お前が欲しいんだよ・・・と、耳元で囁いた。


 「お兄ちゃん、わたし・・・お兄ちゃんとの関係が壊れるのが怖い」


 咄嗟にそんな言葉が出てきた。


 「なんで?おれは、どんなことがあってもお前とは一生切れない縁があると思ってる。お前とネットで奇跡的に出会った。こんな偶然、どれだけの確率で起こったのか分からない。何憶という人のいるネットの世界でお前と出会ったこの奇跡が壊れるものだとは思えない。オレと一緒に夜景を見るんだろ?郷里も好きだけど、オレは今住んでいる街も好きだ。その景色をずっとお前と見たいと思っている。オレと同じ名字になってくれるんだろ?」



 わたしはとても幸せを感じていた。


 お兄ちゃんの住む街は、行ったことのない見知らぬ土地だけど、お兄ちゃんと一緒なら怖くない。


 お兄ちゃんのお嫁さんになって、お兄ちゃんの好きな街で、お兄ちゃんと一緒に幸せに暮らそう。




 幸せで幸せで・・・


 こぼれた涙を、お兄ちゃんがぬぐってくれた。





 温かいお兄ちゃんの腕の中で眠りについた。










 1月3日の朝。


 わたしは幸せな気分で目が覚めた。


 冬の寒い朝だけど、心はとても温かかった。


 暖房を付け、朝食の準備をしている間にお兄ちゃんが起きてきた。



 「おはよう」



 笑顔で声をかけるも、お兄ちゃんは無言だった。



 朝、弱い人だっけ?って不思議に思ったけど、前夜にお酒も飲んでいたから仕方ないのかも、と、あまり深く考えなかった。



 朝食を食べていても、お兄ちゃんはテレビを見てばかりで、わたしとの会話は少なかった。



 朝食を食べ終わって、お兄ちゃんは帰り仕度を始めた。


 わたしは片付けをしながら、何時の新幹線に乗るのか?などと聞いたけど、ボソボソ答えるだけで、こちらを見ようともしないお兄ちゃんにわたしは段々不安を覚えた。


 夜と明らかに態度が違う。


 初めての朝で照れくさいとか、そういうものとは全く異質な空気が漂っていた。



 焦ったわたしは


 「そういえば、ご両親への挨拶ってどうする?年末年始で帰省したばかりだし、GWにする?」


 と、聞いた。


 「・・・何が?」


 冷たく言われて、血の気が引いた。


 いったい何が起こったのか、分からず、手足が冷たくなっていくのが分かった。


 暖かい部屋の中で、わたしの周りの空気は凍てつき、震えがきた。



 「お兄ちゃん、わたしと結婚するんだよね?」


 「・・・何言ってんの、お前」


 「何って・・・」



 声まで震えて、先の言葉が繋げなくなった。



 立ちつくすわたしの前で、お兄ちゃんはまとめた荷物を肩にかけた。



 「午前中には向こうに付きたいから行くわ」



 温度のない冷たい声。



 「待って、駅までの道分からないでしょ?送ってく」



 震え、すがりつくわたしの声に、返事はなかった。



 玄関に向かい靴をはくお兄ちゃんの後を追って、靴をはき、玄関を出る。



 あそこに神社があるんだよ。

 ほら、昨日買い物したスーパー。

 あそこの豆腐屋さんのお豆腐が美味しいんだよ。



 わたしはどうでもいいことをたくさん話した。


 返事は全くなく、腕に添えた手も振りほどかれた。



 わたしは新幹線に乗れる主要駅までお兄ちゃんについていった。



 時々、お兄ちゃんがため息をついた。



 その度に涙をこらえるのに必死だった。



 「手、つないでもいい?」



 無理に笑顔で言ってみた。



 「人前でいちゃいちゃするなんて気持ち悪いんだよ」



 ため息交じりに冷たく言われた。




 主要駅に到着する少し前に勇気を振り絞り、



 「お兄ちゃん、わたしと結婚するって言ったよね?」


 と、聞いた。



 「は?言ってねぇよ。聞き間違いだろ」



 どこまでも冷たい言葉に、身体が硬直した。




 「・・・あんなに何度も言ったの・・・聞き間違えるはずない・・・」



 涙をこらえて、身体が震えないよう必死で全身に力を込めて、やっとの思いで返した言葉も




 「じゃぁ、あれだ。酒で酔ってた時の戯言だろう」



 と、切り捨てられた。





 主要駅についた電車の扉が開き、お兄ちゃんは何も言わずに去っていった。







 わたしは、自身の身体をきつく抱きしめて、泣いた。



 人目を気にする余裕などなかった・・・・

始まり

 事の顛末の始まりを探すなら・・・




 彼はモノゴコロつく前。




 わたしは、12年前のあの出会いかもしれない。




 「お兄ちゃん」と慕ったあの人ととの出会い。




 大好きなお兄ちゃんが、他の誰かと仲良くなって、わたしと遊ぶ時間が減るのが怖くなった、幼い子供と同じような気持ちで、お兄ちゃんに告白をした。


 恋愛感情は・・・今、考えてみてもなかったと思う。



 ただ、この楽しい時間が減るのが嫌だった。



 わたしは当時、親元を離れて一人暮らしをしていて、いつも寂しい思いをしていた。



 休日に一人でいないよう、必死で友達を誘い、なにかしら予定をたてていた。


 どうしても都合がつかない時には、駅前のコーヒーショップに本を持って足を運んだ。


 コーヒー1杯で何時間もそこにいた。


 小さいビルの3階にあるコーヒーショップの窓際から、時折、眼下に広がる商店街を歩く人を見た。


 店内を見渡せば、友達や家族とコーヒータイムを楽しんでいる人たちの声を聞いて、一人じゃないと安心をしていた。


 暗くなり、家に帰ると、見もしないのにテレビを付け、一方的に話す声に一人じゃないと思い込み、安心していた。


 安心というと語弊があるかもしれない。


 ただ、人の声が聞こえると不安にならずに済んだ。



 一人暮らしを始めた頃は、泣いて実家に帰ったこともあり、それに比べたらそんな状態でも一人に慣れたと言ってもいいかもしれない。



 そんな時に、ネットで出会った、郷里を同じくする「お兄ちゃん」と出会った。


 ネットでの出会いだったけど、意気投合し、毎日メールをし、多い時には3日に1度くらいの頻度で2時間くらい電話で話していた。


 お兄ちゃんのほうもわたしに恋愛感情はなく、告白したわたしに「ごめん。仕事が楽しいから彼女はいらん」とアッサリ言ってきた。


 断られたけど、わたしたちの仲が変わることはなかった。


 毎日メールをし・・・



 お兄ちゃんがわたしの住む街に出張で来た時には食事をしたり、年末に待ち合わせをして、一緒に郷里へ向かったり・・・



 3年もの月日をお兄ちゃんと楽しい時間を過ごした。



 どんな心境の変化があったのか分からないけど、いつしかお兄ちゃんがわたしを「妹」ではなく「女」として見るようになった。


 「お前、彼氏はいるのか?」


 そんな言葉をよく聞くようになった。


 最初はお兄ちゃんなりの心配なんだろうと思っていたけど、そうじゃないと気付くのにそう時間はかからかったと思う。


 3年の月日が過ぎる間に、お兄ちゃん以外の人と付き合ってもいた。

 その人と別れたのがキッカケではなく、いつしか彼氏の存在を非常に気にするようになっていた。