前回お伝えしました指名手配“犯人グループ”は通称レッド・コンプレックスと呼ばれている3種類の菌です。
Prophyromonas gingivalis略してP.g.菌
Tannerella forsythensis 略してT.f.菌
Treponema denticola 略してT.d.菌
彼らはたいがい2種類か3種類でつるんで歯周病の発生に関わる細菌グループであり、また重症化させる原因にもなっています。
P.g.菌は菌膜に毒素を持ち、蛋白分解酵素を放出し、歯肉に炎症を起こして歯周ポケット内に潰瘍を形成します。また口臭も発生させます。T.f.菌はP.g.菌ほどではないにしても同じく蛋白分解酵素をだしたり、菌体内の毒素で歯周組織にダメージを与えます。プラーク(菌塊)つまりアジト作りが得意な菌のようです。この菌が多い患者さんにはプラークが多く見られるとい報告があります。P.g.菌やT.f.菌はプラーク表面でバイオフィルムと呼ばれる多糖体の膜を作り出し、抗菌剤の攻撃から身を守ります。T.d.菌は歯周組織の奥深くや血管内に侵入し免疫抑制物質を出して症状を悪化させます。
歯周病の主犯レッド以外にもグリーンやオレンジ・コンプレックスなどの協力犯グループがいます。アメリカの大都会にたむろする不良グループのネーミングのようですね。それらの代表的な名前も挙げておきましょう。
Prevotella intermedia 略してP.i.菌
思春期性歯肉炎や妊娠性歯肉炎という性ホルモンの変動期を狙らう、性犯罪者のような菌ですね。
Fusobacterium nucleatum 略してF.n.菌
大腸がんなど全身疾患との関りでも注目されてきています。昔は大人しい常在菌と考えられていましたが、実は相当危ない菌だったということでしょう。
ではレッドコンプレックスはどこに住んでいるのでしょうか? その答えは歯冠部~歯周ポケットにかけて付着するネバネバした白いカスのように見える汚れの中です。このネバネバしたものをバイオフィルム(=プラーク、=歯垢)と呼びます。また
一部は歯周組織の細胞内に侵入します。
バイオフィルムは一般的には台所の排水口周りのヌメリ、長時間使用したコンタクトレンズの内面、点滴管と皮膚の接点などを思い浮かべて頂くとニュアンスが掴み易いでしょう。ネバネバやヌメリは細菌が作り出した菌体外粘性多糖体と言います。歯ブラシが正確に当たれば除去できますが、抗菌剤や免疫細胞からの抗体の通過を強力に拒みます。いわばバイオフィルムはレッドコンプレックスを頂点とする口腔内細菌のお城のようなものです。バイオフィルム内で菌同士がその代謝物を利用し合って繁殖(栄養共生)しています。
バイオフィルムが取り付くと必ず歯周組織の炎症が起きるのではなく、3日間以上その場所に留まり成熟化して病原性が増したバイオフィルムにより、歯周ポケットから出血が見られるようになると身体との共存関係が破綻し発症します。
研究が進み2000年になってようやく、これら歯周病原菌(レッドコンプレックス)の犯人像が分かりました。約700種類もの口腔内細菌の中から特定するのは大変な時間と労力が必要でした。21世紀も1/5経過し、科学的なエビデンスもそろっては来ましたが、残念ながら未だ特定菌種の存在とそれによる将来の歯周病進行の相関関係のデータが不足しているため「細菌検査が歯周病治療の必須条件である」という学会のコンセンサスは得られていません。今後の課題としては残るものの、細菌DNA検査でレッドコンプレックスを見つけ、ハイリスク患者さんかローリスク患者さんかの見極めをつけることは、事前に治療計画を立てる上で重要な意義があると考えております。
